6話:実技試験3
「今回の試合は先に三勝した方が勝者の五回勝負だ。互いに木刀での勝負になる。これを使え。」
5分ほどするとどこかの部屋から戻ってきた教官の左右の手には、木刀が二本握られていた。
(木刀か…。散々弦さんに素振りやらされたなあ…)
弘明が渡された木刀を握ったり振ったりと感触を確かめていると、先ほど弦に挑発されたことを未だに根に持っているのかジロリと恐ろしい形相で睨みながら静也が声をかけた。
「お前年は。」
「ひっ…!?じゅ、17です…!」
嫌な予感がして恐る恐ると答える弘明に、静也はやはりとでも言うように大きな舌打ちを一つした。
「こんなひょろっちいくそガキに何が出来るってんだ。」
忌々しげに吐き捨てる静也に弘明はぴきっと表情を固まらせた。
「……」
「言っとくが俺は忙しい。お前に勝たせてやる時間が惜しいんでさっさと終わらせる。」
弘明の心情に気がついたのかは知らないが、心なしか見下すように嘲笑いながら問う。そんな静也の様子に弘明はふ、ふふふ、と俯いて気味悪く笑い始めた。
「ふふ、ふふふふふ…」
「…あ?」
突然笑い出した弘明に眉間にしわを寄せた静也。しかしそんなことはおかまいなしとでも言うように弘明はにっこりと微笑んで一言口にした。
「絶対負かす」
その言葉に静也はピキリと額に青筋を立てて頰をひきつらせた。弘明の言葉が余程頭にきたようだ。
「……あ”ぁ”?」
バチバチと火花を散らす二人。そんな二人を先ほどから静観していた弦は一つ笑みをもらした。
弘明の最大のコンプレックスであるその体は確かに弦やがっちりとしたガタイのいい男と比べれば細く見えるが、それでも鍛えられた体はひょろいと表すには少ししっかりしすぎている。
それなのに当の本人は弦と自分を比べては理不尽に膨れていた。
基本ビビりでヘタレだが、そのくせしてとにかく負けず嫌いというなんともちぐはぐな性格をしている弘明。そんな奴が静也のひょろっちいという言葉を受け流すことが出来るわけもなく。
喧嘩を売って出ることを予想するのは容易なことだった。
そして見ての通り、同じく負けず嫌いの塊である静也もまた、弘明の挑発にのらないわけがなかった。
「やっぱりお前ら似てると思ってたんだよ。お互いにいいパートナーになりそうじゃねえか」
「「誰がだ!!」」
「な?息ぴったりだろ?」
「「真似すんな!!!」」
「…やれやれ」
今にもやり合いそうな雰囲気に弦は首をすくめた。
「おい、準備が出来たのならさっさとこっちへこい!」
教官の怒鳴り声に弘明はハッと我に返った。一方静也の方は一つ舌打ちを残してさっさと教官の元へと足を進めている。
静也の実力を知らない今、どんなに策略を立てても相手の出方がわからない限り下手なことはできない。
あれだけ自信満々に強いと言い放った弦の言葉に偽りはないだろう。
教官の指示に従い向かい合った静也からはそう思わざるを得ないほどの気迫があった。
「先に三回勝利した者が勝者の五回勝負。わかってはいると思うが殺しは無しだ。審判は私が行う。私の制止の声には従うように。」
「はい」
「……」
それだけを伝えて教官は数歩下がると腕を床と水平にあげた。
その間にも睨み合い続ける弘明と静也。しかし弘明はどこかで小さな確信があった。
静也には、勝てないのだろうと。




