お父さんはキャンプに行くぞ(1)
夏休みも中盤に差し掛かったある日の事。
「ひーかーるー!はーやーくー!!」
「…今行くって……」
2階の窓に向かって叫ぶ親友・翔君の台詞に聞こえぬ程度に小さく応えると光は深い溜息をつき、渋々荷物を片手に玄関先へと歩を進めた。本当はあまり気乗りしなかったのだ。何故なら…
ふと光は玄関先でニコニコと満面の笑みを浮かべる父親を視界に捉えると目を細める。
自分だけなら良かったのだ。きっとこのキャンプも楽しみだったに違いない。だが“山の中で遭難したら危ない”だの“誘拐されたら大変”だのと心配性の父親に妨害され、結局父親も着いて来る事になったのだ。それがキャンプを許可する絶対条件。
というわけで、本日は来宮家と遠藤家の父子合同キャンプです。
玄関先を出ると直ぐに、待ちきれないとばかりに足踏みをする友人と、優雅にワゴン車から身を乗り出す友人の父親が待っていた。
光は友人の父親に視線をやり…再び背後にいる自分の父親に視線を戻すと小さく首を横に振る。
…駄目だ。圧倒的に自分の父親の方が弱そうだ。
友人の父親はボディビル選手権で優勝経験もあるムキムキの筋肉マッチョ。熱血過ぎる性格なのがちょっと難点だが、子供にとっては間違いなく自慢の父親。
一方光の父親はというと、何の優勝経験も肩書きも持たない、小説家という名のただの専業主夫である。だから向こうの父親と違って見た目はかなりスリム。性格も見た目と同じく弱いと思う。少なくとも自分に対しては。
(カッコ悪いよな…やっぱ。)
明らかに自分の父親の方が劣る。だからキャンプに一緒に行くのは嫌だったのだ。自分の父親が友人の父親に劣るのが何だか凄く惨めで恥ずかしかった。
(せめて余計な事すんなよ礼二…)
光の心の声が届いたのか否か、礼二は光と視線を合わせると小さく笑みを浮かべて頷いた。