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お父さんは見本になるぞ


 これはまだ光が5歳になったばかりの頃の事。


「ばーか、かーば、おたんこなすー!」

「ひ…光…」

「死ねうんこー!ばーかばーか!!べーっだ!」

「どこでそんな汚い言葉を覚えて…」


 幼稚園の帰り道、夕食のメニューの事で光と揉めた時にそれは発覚。可愛い可愛い光の口から飛び出たとんでもなく汚い台詞に礼二は愕然としてしまった。


(も…もしかして俺の育て方が間違ってた?)


 家に駆け込む光の後ろ姿を、ついつい口をパクパクさせながら見送ってしまう。考えたらここ最近、光の遣う言葉が荒れてきた気がする。もしかして自分の言葉遣いが汚いせいでは?


(俺が見本にならなくちゃ…)


 決意を新たに拳を握る礼二。


 と、言う訳で。来宮家で『敬語をつかおう』週間が始まりました。



「けーごって?」


 その日の夜の事。礼二は光を寝かしつけながら「敬語週間」について説明を始める。

 だが5歳児にそれが理解出来るはずもなく、光はただ首を傾げるのみ。


「敬語って言うのは言葉の最後に“です”“ます”“でした”“ました”なんかを付けて相手を敬う言葉遣いの事だ。」

「なんでつけるの?」

「その方が人を騙しやすいからだよ。人当たりが良く見えるんだ。」


 元・暗殺者礼二の把握する敬語の必要性なんて所詮この程度。


 ぶっちゃけ光は面倒だと思っている。だが、礼二は一度言い出すと絶対後に引かない性格なのだ。ここは自分が大人にならなくては。


「始めはパパが使ってみせるから。」


 その言葉に、光は渋々頷いた。






***次の日***






「光君…アレ何?」

「何ってパパだよ。」


 夕食をたかりにやって来た葉月は礼二の変わり様に、やはり昨日の誰かさんみたいに口をパクパクさせていた。


 それもそのはず。裏では『殺人人形』だの『氷の刃』だのと異名を付けられていた殺人のプロが、今まさに目の前でにこにこと腰を90度に折り曲げ「汚い所ですがどうぞお入り下さい」と入室を許可しているのだ。


「どうしたのさ礼二!?なんでいつもみたいに嫌そうな顔しないの!?頭?ねぇ、頭打った?」

「あはは、心配して下さったんですね。どうもありがとうございます。ああ、夕飯出来てますよ。」

「う…うわあぁぁ…!そんな天使の微笑みでおもてなしするなぁぁぁぁぁ…っ!!」


 葉月は信じられない、と耳を押さえながら首を振る。一方礼二はというと、段々敬語が楽しくなってきていた。理由は簡単…いつも飄々(ひょうひょう)と人を小馬鹿にする厄介者の葉月の狼狽える姿が珍しくてかなり面白いから。


「お顔の色が悪いみたいですが大丈夫ですか?もし良かったら少し中で休まれては…」

「っ…ぎゃあぁーっ!畳みかけないでぇっっ!!」


 そのやり取りを見上げながら光は一つ敬語の良さを学習した。


(そっか。“敬語”って精神攻撃に使うんだ…)


 着実に間違った敬語論を覚えていく光。


 この日から礼二が敬語をつかう様になったのは言うまでもない。



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