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お父さんは授業参観に行くぞ・後篇


 ふと光は自分の横の列に位置する、入口付近を見遣る。翔君は授業参観中だというのに落書きに勤しみ、目がかち合うとニッと笑って見せる。


 あれから我が家には近寄らなくなったが、翔君は今も光の大事な友達だ。



「はい、それじゃあ皆さんの作文を一人ずつ発表して貰います。」


 ついに来た。教師のこの言葉に光は思考を一旦止め、緊張に体を硬くする。

 今日は授業参観日。教師は社会の一環として『お父さんやお母さんの仕事について調べて発表する』という、大変厄介な宿題を出してきたのだ。


 そろりと光は、やましさから口端を引き吊らせながら父兄が立ち並ぶ背後を振り返る。そこには『ついにきた!』と目を輝かせる父親の姿があった。










 ***数時間後***







 その日の帰り道。


「…………」

「…………」


 『宿題』の発表を終えた後、父親・礼二は不機嫌に唇を尖らせてスタスタと先を歩いていた。


(ちっ…世話が焼けるよな…)


 その様子に溜息をつき、ポケットに手を入れたままやや後方を歩いていた光は一度その場に立ち止まる。


「俺、本当の事しか言ってないじゃん。いい加減機嫌直せよな!」


「……どうせ『手のかかる父親』で『売れない小説家』で『出版物を見た事がない』から『信用出来ない』んですよね。分かってますよ。」


「……だから授業参観に来るなっつったのに…」


「だって…」


「泣ーくーなー!だいたい礼二が……」


 今度はさっきと打って変わって背を向けたままさめざめと嘆く礼二。

 まぁ、確かに言い過ぎたかもしれない。一応生活水準は一般家庭並だ。以前、出版物云々を問い質した時も『光君が20歳になったらね』等といい笑顔で返してきた辺り、もしかしたらそういった恥ずかしい方面の物書きなのかもしれないし。いや、勿論断定は出来ないが。


 前方には拗ねたのか背中を丸めてトボトボと歩くいい大人。礼二は拗ねると暫く部屋に籠ってしまうので物凄く面倒臭い。呆れて言葉も出ない光は、溜息混じりに最終手段に出る。


 どんなに怒っていても泣いていても、この『最終手段』を使うと必ず礼二は機嫌が良くなるのだ。


 風が後押しするかのように、強く吹いた。


 光は歩を速めて礼二の背中に近付き、ツンと礼二の白いシャツを摘む。当然振り返る礼二から視線を反らし、光はボソッと呟いた。


「お…父さんのオムライスは、好きだから…」


「…っ…光君…!」


 その言葉と気恥ずかしげな台詞に礼二は一瞬ヨロリと頭を押さえて傾ぎ、感涙しながらガバッと光に抱き着く。


 久しぶりにお父さんと呼ばれたのだ。感動も一塩というもの。


「ま…任せて下さい!光君のために今日は腕を奮いますから。世界一愛情をこめたスペシャルなオムライスですよ!光君の好きな苺もトッピングしちゃいましょうね。」


(わー…余計なモンまでブレンドされてる…)

 

 さっきまで不機嫌だったクセに、今度は嬉々としてスキップ交じりに自宅へと戻る男…光は「ハハ…」と乾いた笑いを漏らし、どこか遠い目をしながら着いて行く。


 昔みたいに言う事は出来ないが『最終手段』はこれでも充分効果があったらしい。


(単純…)


 昔なら間違いなく『パパ大好き』と言ってしまっただろう。危ない危ない。


 帰ったら食事して、風呂に入って、それから宿題の漢字ドリルを済ませよう。


 そんな事を考えつつ、光は自宅の玄関をくぐった。




 


皆様初めまして☆こちらに投稿するのは初めてで、色々と手探り状態です。誤字脱字やおかしな箇所等ありましたらそっと優しく指摘してくれると助かります。

それでは、これからどうぞよろしくお願いします。

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