お父さんは遊園地に行くぞ(1)
それは、肌寒いある日の夜の事。
いつものように礼二と光はテレビを見ながら夕食を食べていた。今流れている番組はお笑い芸人が色々なアクションにチャレンジしてクリアを目指すバラエティなのだが、最近光はこの番組がお気に入り。毎週この時間だけはリモコンを握って離さないのだ。
そんな番組も終わりに差し掛かり、ふと番組がエンディングでこんなお知らせをしてきた。
『某テーマパークでリアルアトラクション開催!』
脱出ゲームとシューティングアクションを兼ね備えたゲームのようだ。3人1組のアトラクションで参加者は銃や地図を与えられ、敵を倒しながら謎を解いて宝の部屋に行くといった内容らしい。
あまり子供向けには見えなかったが、テレビを見る光の目がここ最近で一番輝いていたのを礼二は見逃さない。いつもなら二つ返事でOKするところだが、最近色々な事件が起きたばかり。あまり光を連れて暗い閉鎖空間に行きたくない。備えあれば憂いなしというやつだ。
礼二は光が何かを口にする前にと食器を台所へと持っていきシンクに置く。だが、当然光は興奮気味に画面を指差しながら礼二にこう言ってきた。
「なぁ、アレ行こうぜ!」
(~~…っ…だよな…。)
予想通りのおねだりに、礼二は手で目を覆うようにして頭を抱え溜息を吐く。可愛い光の頼みなら何だって叶えてあげたい。むしろ遊園地に二人でお出掛けなんて最高だ。最近は二人で出掛けるのは格好悪いと、どこに誘っても断られている。だが、今回は光が自分から“一緒に二人で仲良くお出かけしたい”とおねだりをしてきたのだ。一部誇張して捉えてはいるが間違ってはいないはず。
多少迷ったものの、やはり光の安全が第一。人混みに紛れて長月達が来ないとも限らないだろう。危険は極力回避したい。礼二は心を鬼にしようと息を吸い、キッと光に視線をやると強く言い放った。
「ダ・メ・で・す!」
「頼むから!一生のお願い!」
「ぜっったい、駄目、です!」
「なぁってば…」
「だーめ!」
不意に沈黙が流れた。
洗面台に置いた皿を掴み水道を捻りながらそっと光に視線をやれば、眉を下げ心底残念そうな顔で俯いている。
「…たまには二人で遊びたかったのに…。」
「……っ…!!」
ここに来て、何というトドメ。
堪らず、礼二は捻ったばかりの蛇口下に頭を差し入れ流れる水を頭で受け止める。頭を冷やして冷静に考え…否!そんな風に言われて断れるはずがない。
今まさに光が“大好きなパパと二人で仲良く遊園地で遊びたい”とおねだりしてきたのだ。勿論一部誇張表現はあるが気にしない。父親として、息子の甘えに応じてあげなくてどうする。
光も多少、今の発言は打算していた。いつも芸人がやっているゲームがそう遠くないテーマパークで出来るのだ。何としても礼二を口説き落としたい。“たまには一緒に行きたい”と強請れば連れて行ってくれるかもしれないという小さな野心は確かにあった。
だが、頭から水を浴びるのは流石に予想の斜め上。というか、これはどう捉えたらいいのか…。
「れ…礼二…?おい…大丈夫かよ…」
椅子から半分腰を浮かし恐る恐る礼二に問いかけると、礼二は濡れたまま顔を上げて光と視線を合わせ、親指をグッと立てて“了解”と合図を送った。




