お父さんはキャンプに行くぞ(5)
次の日、光達は朝食を済ませた後二人して何事かをヒソヒソと話し合い、10時前になると荷物を片手にそそくさと出掛けてしまった。
何を隠しているのかは分からないが、少なくとも自分達には内緒の“何か”があって、光達はきっとそれを楽しみにしている。少なくとも礼二はそう感じた。
妙に何かが引っ掛かっていた。小骨が喉に刺さる程度の何かだったが、それが過度の心配故のものなのか否か。
「来宮さん、子供は羽目を外すぐらいが丁度いい。心配し過ぎですよ!」
効果音に“あっはっはっ”が付きそうな勢いで笑いながら遠藤父が肩をバシバシと叩く。
「子供は風の子。大人は黙って見守りましょう!」
ウインクをしながら光る白い歯をチラ見せし、親指を立ててキメポーズといった定番の仕種が暑苦しい。言い分はまともなだけに、この人の対応には正直困る…口端を引き吊らせながら礼二は昨日と同じく空返事を返した。
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光達は約束の時間に昨日の河川に来ていた。空のバケツと一緒に、本日は虫取網と虫カゴも持参。都会ではなかなか見れない本物のカブトムシを絶対に捕まえてやろうと、意気込みも新たに昨日の青年を待った。
光達が河川に着いて数分後、青年がひらひらと片手を振りながら現れた。
「ごめん、待たせたな。それじゃ早速…」
青年は腕時計に一旦視線を落とし時間を確認すると、そのまま目線のみ上げて前方にいる光達を視界に捉える。少年二人の期待に満ちた視線と自分の視線がかち合うと、青年は改めて笑みを作った。
「時間もないし、早く移動しようか。」
数十分後。二人は青年に連れられ、山間の開けた場所まで来ていた。随分登ったように感じたが、腕に着けた時計を見る限りそうでもないらしい。少し見渡すと木々に隠れるようにして古い、何かプレハブのようなものが建っていた。
「お。アレが気になる?」
光の疑問を先に口にしたのは青年本人。二人を手招き、プレハブまで近付くとポケットから鍵を取り出しおもむろに戸口を開けた。多少埃は舞ったが、誰かが使用しているのだろう。部屋の中は家電こそ無いものの、寝具やゴミ袋等が床に無造作に放られていた。
「ようこそ俺の秘密基地へ。この付近の木や川なら幾らでも虫や魚が採れるけど、一つだけ。この基地周辺の川は勢いが強いから気を付けなよ?」
『秘密基地』
『魚や虫が取り放題』
なんてロマンチックな響きだろう。光や翔君は期待に胸を膨らませ、早速網を構えた。ところが青年は片手を挙げて光達の動きを一旦制する。
「ああ、ちょい待ち。基地の中に釣り道具や虫取りの道具があるから好きなの使っていいぜ。そんな網だと蝉しか捕まえられないだろ?ついでにお兄さんの釣竿も取ってきてくれると助かるわ。餌も近くにあるから一緒によろしく。」
なんだそんな事か。お安い御用とばかりに光達は青年に背中を押されるままプレハブの中に入り、早速中を物色し始めた。だが薄暗い室内を捜索するのはなかなかに困難で、正直どこに何があるのかすら分からない。とりあえず青年の使っている釣竿はどれかと探索する。
「なぁ、どこに置いたんだよ。つかゴミ多すぎだろ…ちゃんと片付けろよな…」
布団を捲りながら光が問うも、返事は返って来ない。
「なぁって!聞こえて…」
光がそう言いながら入口を振り返ると同時だった。
ギィッ――…
「……え…?」
室内を明るく照らす眩しい陽光を忌み嫌うかのように、ギィッと軋む音をたてて入口の扉は固く、その口を閉じてしまった。




