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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
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第18話 タウルン共和国サザビー行き(2)

すみません。イチャついてごめんなさい。

 狭い船室でそんなことを話している二人。船が小さいので客室はお世辞にも広いとは言えず、5畳ほどのスペースに小さなベッドとテーブル椅子が詰められているから、必然的に平四郎が椅子と称するみかん箱のような箱に座るとリメルダはベッドに座ることになる。

 

 急に船が傾いた。かなりの傾きだ。椅子と称する箱に座っていた平四郎はリメルダの方に倒れ掛かる。


「わわわ……」

「キャッ!」


 リメルダに平四郎がのしかかった感じだ。誤解がないように言っておくが、それくらい船が急に傾いたのだ。(信じて、フィンちゃん!)


 グイーンっと元に戻ろうとする船。ベッドから落まいと平四郎はリメルダをギュッと抱きしめるし、リメルダも平四郎をギュッとするしかない。


 目をギュッとつむって、両腕でギュッとたくましい男のボディにしがみつく。リメルダの耳に(ドクンドクン…)と平四郎の心臓の音が聞こえてくる。


(こ、こんな……男に、平四郎に抱きしめられるなんて)


 リメルダの心臓も(ドキドキ)して心臓が破裂するくらいに感じた。


(ま、まずいわ。わたしの激しい鼓動を平四郎に聞かれたら……)


 リメルダは普段は平四郎に対しては、ツンで接しているつもりだ。(最近は、普通になってきてはいるが)


(平四郎なんて、本当は好きでもなんでもないんだからね!)

(公爵令嬢のあられもない姿を見たから、責任を取れってことです!)


(誰が好き好んで異世界の男の花嫁になるものですか。仕方ないから、ガールフレンドになってあげるんです!)


 周りから見たら、完全にベタ惚れ状態なのだが、本人はバレていないと思っている、ちなみにフィン一筋で、女に疎い平四郎もそんなリメルダの気持ちが察しられない。


 今のところ、リメルダの求めで「ガールフレンド」ということになっている。フィンはフィアンセでリメルダはガールフレンドなのだ。今はガールフレンドと逃避行中である。


 船が今度は逆に傾いた。ベッドから転げ落ちる二人。どう落ちるとそうなるのか、仰向けになった平四郎の顔をリメルダの両太ももで挟む格好に。平四郎の目の前は黒の○ンツのデ○タゾーンが!!


「あわわわ……」

「きゃ、きゃあああ! 平四郎のエッチ、スケベ!」


 だが、さらに逆方向の揺れで今度はリメルダが後ろへ転がり、平四郎が太ももに挟まれたままのしかかるから、かなりヤバイ態勢になる。


 さすがに両者ともこの格好はエロ過ぎるので、声もでなく船が水平を取り戻すとそそくさと床に座りなおす。リメルダはまくれあがったスカートを慌てて戻す。


シーン……。

沈黙


 いたたまれなくなった平四郎がポツリと言った。


「リメルダ、黒はちょっと大胆すぎないか?」


 カーッツと恥ずかしさがこみ上げてきたリメルダ。今晩、この船室で二人きりで過ごすのだ。しかも、狭いベッド1つ。別に期待したわけじゃないが、お気に入りの下着を身につけたいのが乙女心だ。


「ば、バカ!」(あなたのために履いたのに!)

「いや、見たくて見たんじゃ……」


「い、一度ならずも、二度も……」

(もう責任絶対取ってもらいます!)


 盗賊団から救われたときは、それこそ生まれた時のままの姿を晒してしまったから、いまさらであるが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


 その時、大音響でウイーンウイーンっとサイレンが鳴った。緊急警報である。二人はすぐさま立ち上がった。外に出て、状況を確認する。


(なんだかヤバイ気配がする……)


「船長、ドラゴンです。S級、色は……グリーン」


 航海長の男が船長に告げる。民間の商船には魔力で感知する索敵システムなど当然ない。よって、双眼鏡による目視である。グリーンドラゴンの幼生……。パトロール艦隊なら、驚異ではないターゲットであるが、ただの商船には十分な驚異だ。


 事態に気づいた客たちが騒ぎ始める。船長は慌ててアナウンスをする。


「乗客の皆様、本船は只今、ドラゴンに追跡されております。ご安心ください。本船のスピードであれば振り切れますし、近くのパトロール艦隊の救援を要請しています。乗客の皆様は、お部屋に戻り、船の揺れに備えてください」


 振り切れる……と言ったが、航海長の計算によると20分後には確実に追いつかれることが分かっていた。また、既に機械国家タウルン領内である。メイフィアのパトロール艦隊の救援は望めない。望めるとしたらタウルンの艦隊であるが、それが外国の商船のために救援に来るのだろうか疑問であった。だが、船長には乗客、乗組員の生命を保証する義務がある。


 すぐさま、救援信号を発する同時に、最大船速で脱出を図る。タウルンの領内深く逃げ込めば、国防上、タウルン国軍の迎撃が期待できるからだ。


「平四郎、まずいわね」

「ああ……。S級だけど、追いつかれればこんな船は一撃だよね」


 商船ロクシーは建造後20年の老朽船で、全長は78mとパトロール艦より若干小さいのだが、魔力出力は小さく、スピードは出ない。例え、燃費無視の全力航行をしたとしても追いつかれるのは時間の問題である。


(追いつかれたら確実に死ぬ)


 運の悪いことに、航行している空域は、下は分厚い雲海に覆われていた。ディープクラウドと呼ばれるもので、ここに突っ込んだら、こんな老朽艦では無事では済まないだろう。上も同じ雲に覆われているのだ。いわゆる航海の難所と呼ばれる場所である。

 これでは、高度を下げて山脈の陰に隠れてやり過ごすこともできない。


 ドシーン……という鈍い音がしたかと思うと、すさまじい揺れでリメルダと平四郎は思わず、体を支えあった。煙が漂ってくる。後部甲板に何か当たったようだ。船のスピードがみるみる落ちていく。


「航行システムがやられたらしいわ」


 平四郎と抱き合いながら、リメルダはそう言って顔を上げた。平四郎はドキっとした。なにしろ、リメルダの顔が10センチ先にあるのだ。パーソナルスペースに女子の顔がここまで侵入してきたのは初めて経験である。


(もっとすごいものは距離0で密着したけど……)


 リメルダも慌てた。ここまで男に接近された(した)ことは、一度もない。かあ~っと顔が熱くなる。


「キャッ!」


 さらなる大きな揺れでリメルダの唇が平四郎の唇と接触した。


(リ、リメルダ……)


 平四郎は頭が真っ白になった。偶然、唇が触れただけと言いたいところだが、リメルダはすぐ離れるでもなく、深々と唇を重ね合わせて、名残惜しそうにそれを離した。


「……」

「……」


 微妙な時間がかっきり3秒経過した。ボスンっと鈍い音がして、完全に船は止まった。浮遊システムは壊れていないので、空には浮かんだままだが、このままではドラゴンになぶり殺しにされる。


「こ、怖い……平四郎、私たち、もうダメだわ……ここで、死ぬの」


 気丈なリメルダがそうつぶやいて平四郎の胸にしがみついてきた。平四郎もそう思った。ドラゴンの恐怖は、最初に出会ったSクラスのみであったが、武器もなしにあんな化物と相対することは死を意味していた。


 ブルブル震えるリメルダをギュッと抱きしめること。それが男である平四郎が唯一できることであった。


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