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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
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第16話 ヴィンセントの陰謀(4)

 追いかけるマスコミの追求をかわして、平四郎はリメルダが用意した馬車に乗り込んだ。


「平四郎、そっちも緊急事態だけど、こちらも緊急事態よ!」

「き、緊急事態って?」


 真面目なリメルダが「緊急事態」というのだ。大変なことに違いない。


「軍が第5魔法艦隊に不正があるって告発したようなの」

「不正だって? そんなことしてないぞ」


「例の新型駆逐艦の0番艦が槍玉に上がったみたいなの。軍の横流し品で本当なら廃棄処分なのに、第5魔法艦隊が使ったことが問題視されているようなの」


「そんな馬鹿な。あれは中古ディーラーでちゃんとした手続きで買ったんだ。不正なことなどしていない」


「分かっているわ。軍からの放出品を民間業者が売ることは、この国では普通に行われていることよ。今更、不正だなんて言い出す事自体がおかしな話なの」


「じゃあ、どうして」

「逮捕状が出ているのはあなただけ。これだけでも誰かさんの陰謀だと分かるわね」


「ヴィンセントの野郎か!」


 ヴィンセントは王族で伯爵なのであるが、平四郎は敬意を払う気はない。アイツはいけ好かない敵で「野郎」で十分なのだ。それにしても……。


「リメルダはどうしてあんな格好で、フィンちゃんの家に?」


 第3魔法艦隊との戦いの後でリメルダは平四郎たちと分かれてクロービスの軍港に帰ったはずである。今は同盟条項に沿って第5魔法艦隊に協力するために自分の第2魔法艦隊の再建に忙しいはずである。


「そ、それは……。平四郎がフィンさんと一緒に彼女の家に行くって聞いて、ちょっと気になったから……」


 そこまで言って、リメルダは「はっ」と気づいた。


「き、気になったからじゃなくて、ナアムからあなたに逮捕状が出てるって聞いて、きっと平四郎のことだから、きっと、異変に気づかないでのほほんとフィンさんの顔ばかり見ていると思ったからよ! あなたのことなんか、私は気にしてないんだからね!」


ツンである。


「そ、そう」


 リメルダの剣幕にそう答えるしかない。リメルダによると第5魔法艦隊の他の乗組員には逮捕状が出ているわけではなく、司令部のある旅館やバルド商会には監視の兵が配置されているものの、危害は加えられていないとのことだ。


 他の乗組員には危害が加えられていないと聞いて平四郎は安心したものの、先ほどのフィンの父親に言われたことを思い出し、落ち込んでいた。誰かに愚痴でもこぼさないと耐えられないと思った平四郎は、ツンではあるが、優しさが感じられるリメルダに一部始終を話したのだった。


「そう」


 話を聞いてちょっと、リメルダは落ち込んだ。平四郎がフィンの両親に会ったことは、もう二人が合意の上で結婚するということなのだ。父親が大反対し、ヴィンセントがちょっかいを出しているようだが、二人の気持ちの確かさは堅固なものであると思ったのだ。


 だが、リメルダが賢いのは、この状況を自分のチャンスと思わないところであった。父親の反対で落ち込む平四郎にアプローチして、こちらに振り向かせる機会と捉えることもできたが、それはなんだか卑怯だと思うのである。


「平四郎、大丈夫よ。父親がどうであろうと、要は本人次第だよ。そんなことで落ち込でどうするのよ。異世界から来た馬の骨? 上等じゃない、その馬の骨が世界を救うところを見せてやれば、きっと、お父さんも認めてくれるわよ」


 そう言って平四郎を励ましたのだ。


 フィンとは身分違いであり、この世界の人間ですらない平四郎は、フィンのことを幸せにできないのではないかとさえ思い始めた。だが、リメルダに励まされ、自信を取り戻した。


(そうだ、この世界を救う英雄になれば、フィンちゃんを晴れてお嫁さんにできる)

 平四郎はそう強く思った。フィンは、家を出ると言ってくれたが、やはり、彼女には純白のウェディングドレスを来て、すべての人から祝福してもらいたかった。


「ありがとう……リメルダ。君は優しいね」

「な、なに言ってるのよ! 私はいつも優しいわよ! もう、変なこと言わないで」


 落ち込んだけど、そう平四郎に感謝されてうれしくなるリメルダであった。

 

 2人の乗った馬車は港についた。普段と変わらない閑散とした田舎町の港の雰囲気に似つかわしくなく、兵士が出航する人間をチェックしていた。ただ、見ていると型どおりな感じで緊急事態という雰囲気ではなさそうだ。


「ここまで来たけど、リメルダ、この先どうするの?」


「うん。とにかく、この田舎町じゃ、行政府や駐屯軍自体がヴィンセントに取り込まれている恐れがあるわ。疑いについては、大した罪状じゃないけど、こうやって軍を動かしている以上は、こちらも何らかの対抗手段を取るしかないでしょう。都に戻って私のお父様の力を借りましょう。通信も妨害されているようで、連絡ができませんから」


「あの野郎。今度会ったら絶対にぶん殴る。フィンちゃんと無理やり婚約だなんて許せん」


 平四郎が「コネクト」を発動させれば、兵士を蹴散らし、ヴィンセント自身にも天誅を与えることは可能だ。だが、事はそんなに単純じゃない。罪の疑いがかけられ、罪人にされそうになっているのだ。それに力で対抗したらそれこそ、メイフィアという国家に対する反逆者にされかねないのだ。


 ここはリメルダが言うように、有力者の力を借りてヴィンセントの陰謀を打ち砕く方が良いかもしれない。表に出れば、奴の方が困ることになるからだ。二人がどうやって、マグナカルタから脱出し、クロービスに行くか相談をしていると、メイフィア・タイムスのラピス・ラズリ記者が2人を見つけて記者控え室に連れ込んだ。大抵の港のターミナルには取材用にマスコミ関係者用の部屋が用意されているのだ。メイフィア・タイムスの専用べやでラピス以外にはマスコミ関係者はいない。フィンの家に取材に行っていて関係者がいないことも幸いした。


「あなたたち、まずいわよ。なんだか、前回のパンティオン・ジャッジで不正の疑いがあるとか、なんとかで平四郎くんを任意同行するとかなんとかで、軍務警察が港からの出る人間を確認している」


「これは陰謀よ!ヴィンセント伯爵の陰謀」

「多分そうね。これは陰謀の匂いがプンプンする。でも、今捕まるのは得策じゃない」


「それは分かってるよ」

「だから、私たちは逃亡します。首都クロービスに行けば、父の力でこの状況を打開できるかもしれません」


 正確に言うと逮捕状が出てるのは平四郎ただ一人で、リメルダが一緒に逃げる必要は全くないのだが、平四郎はこの世界に来たばかりで要領得ない。平四郎一人で行動するより、リメルダと一緒に行動した方がいいだろう。


「……それがいいでしょうね。平四郎くんを逮捕する理由が分からないし、時間が経てば真相も明らかになってくるでしょう。マスコミも騒ぐはず」


「クロービス行きの定期船に乗ります」


「う~ん。リメルダさん、それはまずいわ。さっきも言ったように出航ゲートのチェックを軍がしているのよ。特にクロービス行きは厳しい」


 ラピスは考えた。本来、中立であるマスコミ関係者のラピスが第5魔法艦隊に便宜を図るのはおかしな話だが、賢いラピスはこの事態を次の取材ネタにできそうだとジャーナリスト魂から感じたのである。


(これは事件のにおいがする。(パンティオン・ジャッジの裏の悪行)とかで書いたらセンセーショナルな記事になるかもしれない)


「一度、別の場所へ移動して首都に向かうのがいいんじゃない。タウルン行きの船がもうすぐ出るわ。これに乗ってタウルンへ行ったらどうかしら?」


 そうラピスが提案した。二人をメイフィアタイムスの関係者に仕立て上げ、偽の社員証で出国させるのだ。報道関係者なら一般人とは違うゲートから船に乗ることができる。


 ラピスは、平四郎とリメルダを変装させた。リメルダは男装してカメラマン。平四郎はその助手という出で立ちだ。警戒が薄い報道関係者用ゲートから、しかもこの数日でゲートの監視官がラピスと顔見知りになっていたので、咎められることなく軍港から脱出ができた。一時目指す先は機械の国と言われるタウルン共和国だ。


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