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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
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第16話 ヴィンセントの陰謀(2)

 パークレーンについた平四郎は、入港手続きや修理の依頼などは、ミート少尉とルキアに任せて、平四郎は旅館へ帰ろうとしていた。第5魔法艦隊の仮司令部がある例の安宿である。

 

 だが、ターミナルから出ようとする前にフィンに呼び止められた。


「へ、平四郎くん、あの……これ、今月のボーナスです」


 そう言って小さな革の袋を手渡された。ずっしりと重みを感じる。中を覗くと金貨が入っていた。


「100枚入っています」

「ひゃ、ひゃくまい~」


 あまりの大金に平四郎は危うく革袋を落としそうになった。金貨1枚(1ダカット)で日本円にして約1万円の価値だ。100万円ということになる。


「ごめんなさい。勝利に最も貢献した平四郎君にこれだけしか出せなくて……」


 申し訳なさそうにフィンは言ったが、平四郎自身は、そんなにくれなくても大丈夫だよと気持ちであった。結婚しても給料は全額、フィンに渡し、少しのお小遣いで十分幸せになれる男なのだ。


「こんなにいいよ」

「いえ、もらってください。少しでも美味しいものや欲しいものを買って、この世界を楽しんで欲しいのです。ナセルさんも言ってましたですよ。何やら、夜に楽しく遊べる場所があるけど、お金がなくて毎日行けないって……。どんな、ところなのでしょうね」


 そう言って優しく微笑む第5公女フィンお嬢様……。


(フィンちゃん、そこは男のパラダイスです! ナセルの野郎、変な情報をフィンちゃんにふきこむなよな!)と平四郎は心の中で毒づいた。


「一応、もらっておきます」


 それでも、せっかくフィンがくれると言うのだ。ここはありがたくもらっておこう。


「それで……あの……その……」


 なんだか、モジモジしているフィン。なんだか、まだ言いたいことがあるようだ。


「なんです?」

「あの、もし、よかったら……。明日は……。わたしの家で……夕食でも……どうでしょうか? お母様も是非、平四郎くんを家に連れてこいって言ってるです」


「え? フィンちゃんの家に?」


 平四郎は急に緊張した。明日フィンは休暇を取ってここから空中艦で1時間の生まれ故郷マグナカルタへ行くという。


 彼女の家に行くのである。もしや、あの以前にあったお母さんや、遺跡で世話になったお父さんに会うかもしれない。


「ラ、ラメ……」


 ん~っと下を向くフィン。目をつむって勇気を振り絞っている。そして、上目遣いで平四郎を見上げた。


「ダメですか?」


 可愛く首をかしげるフィンの頬は恥ずかしさでほんのりと朱がさしている。勇気を振り絞って彼女が誘っているのだ。男として断るわけにはいかない。それに、彼女にはプロポーズしてO.K.をもらっているのだ。正式な婚約にするためにも、両親には正式に会って話をしておく必要がある。


「も、もちろん、いいよ」

「はあ~。よかった~」


 フィンはとても嬉しそうに笑顔で言った。翌日、二人は休暇を取って定期船に乗り込んだ。


 フィンの家は、マグナ・カルタの中心地にあった。貴族と言ってもそんなに裕福ではないのだが、それでも平四郎から見れば十分お屋敷であった。(大貴族のリメルダの家は敷地から果てしなく広かったが)パンティオン・ジャッジに出て、ここまで勝ち進んだだけあって、たくさんの見物人やマスコミ関係者が押しかけてきていて、国軍の兵士や警察官が交通整理や警備にあたっていた。


 玄関に入るとフィンの父親であるジルド・アクエリアス子爵と以前、街で出会った母親のフォーリナ・アクエリアスが出迎えてくれた。


「平四郎さん、ようこそ、いらっしゃいました」


 フォーリナが年を感じさせない笑顔で平四郎を出迎えた。ジルドの方は帰ってきたフィンには、笑顔で接したが、平四郎の顔を見ると怒ったような顔をして目をそらした。


(か、感じ悪いな……)


 あの遺跡では一応、型通りの挨拶はした。嫌われるようなことはしていない。これまで、女の子と付き合ったことはなく、ましてや彼女の父親と話すなどと言ったシュチュエーションの出合ったことのない平四郎はどうしてよいか分からない。


「へ、平四郎くん、こっち、こっちに来て……」


 フィンが平四郎の手を取って、応接間に案内する。いつの間にかパークレーンの港から戻っていたアマンダさんがテーブルにお茶を出してくれた。


(そういえば、ローザの奴、どうしているのだろう? レーヴァテインのメイド室暮らしは慣れただろうか?)


 などと思ってソファに座るとフィンの父親がその対面に座る。だが、新聞を広げてパンティオン・ジャッジの記事を読みふけっているだけで、平四郎に話しかける素振りもない。


 フォーリナとフィンはアマンダさんと一緒に夕食を作っているらしく、平四郎はこの気難しそうなオヤジと息苦しい時間を過ごすハメになった。


 平四郎はお茶の入ったカップに口をつけながら、フィンの父親である、ジルド・アクエリアスを観察する。このマグナ・カルタにある大学の教授をしているという人物だが、あんなに美人の奥さんがいる割には、パッとしない容貌だ。白髪が目立つ髪、少々やつれた顔、中肉中背でいかにも地方の公務員といったイメージである。


(フィンちゃんが無口なのは、この父親の遺伝子を受け継いだからだろうか。母親の方だとおっとりとしたおしゃべりになるはずである)

と勝手に平四郎は考えていた。


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