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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
89/201

幕間 勝利の後に……

「第3公女ローザ・ベルモント様をお連れしました」


 ローザの脱出ポッドを回収したレーヴァテインは、戦いを終えたハーピーⅡと合流していた。今はレーヴァテインにリメルダと艦長のナアム、30km先から合流したリリムとトラ吉が乗り込んでいた。

 

 ローザはレーヴァテインのメイド長、アマンダさんに連れられている。レールガンにいる至近距離からの猛攻を受け、艦が大爆発しての脱出であったため、緊急脱出の救命ポッドも若干の被害を受けたらしく、ローザの美しい金髪の髪はところどころ焼けて、くるくる巻いていたし、ローザの美しい顔もススで汚れていた。

 

 見るからに高価そうなドレス(戦闘にはおよそ不向きな)も焼け焦げて、見るも無残である。靴は失くしたのか裸足である。

 

惨めな姿ではあったが、ローザのプライドだけはまだ失っていなかった。目は爛々と光り、フィンや平四郎、そしてリメルダを睨みつけた。


「卑怯だわ! 隠れて近づいて攻撃するなんて」


 彼女から卑怯という言葉を聞くとは思わなかったリメルダは思わず、「プッ」と吹き出した。


 「卑怯」という文字を背景に輝かせながら歩いているローザに「卑怯」と言わせれば、それはそれですごいことだ。


「絶対防御なんてチートな装備に頼るのは卑怯じゃないのかにゃ」


 トラ吉がそう言った。猫であるがにやにやと笑っている。


「このね~こ! あんたが、30分で勝つとか言うから、ローたんは焦ってしまったのですわ」


 ローザの言葉には反省がない。もし、ローザがリンツ中佐のアドバイスを受け入れて、深淵の盾を解除しなかったら、さすがに平四郎も打つ手はなかっただろう。あの絶対防御を破るにはデストリガーしかない。レーヴァテインはまだデストリガーを撃てるまでの改造をしていないのだ。


「私の第2魔法艦隊は、あなたの卑劣な行為で大損害をうけました。私を慕う多くの部下もあなたのせいで、命を失いました。危険地帯に不時着した私の救出もしませんでした。あなたの艦隊でも、あなたのわがままな命令のせいで出さなくてもいい犠牲を払いました。あなたは、提督として、第3公女として責任を取らなくてはいけません」


 リメルダが静かな口調でそう言った。最も、ローザを恨んでいる人物の冷静な言葉だ。さすがのローザもその空気を読んだ。


「ねえ、リメルダ。お金で解決しましょうよ。償いは、お父様に頼んでそれ相応のお金を払いますから、それでチャラ……ということに」


「ダメです!」


 一番後ろで聞いていたフィンだ。普段、口をあまり開かないフィンの言葉だったので、みんなビクッとする。(しかも、ラメですとか噛まなかったw)


「お金なんかではすみませんです」


 フィンはそう言うと、平四郎の顔を見て合図を促した。資金不足でいつも困っている第5魔法艦隊の提督が「お金はいらない」というのだ。ローザはその意外な答えに声も出ない。


「負けた艦隊の提督、つまり、今回選ばれた公女は、勝った艦隊の提督のパートナーの思い通りになるというのが、古来からのルールだと聞いています」


 平四郎が先ほどフィンと打ち合わせたことを言葉にしている。


「あら、そう。わたしが欲しいというわけね。いいわ。わたしが望みなら、あなたのモノになってあげる」


 ローザは急に険しい目から、獲物を襲う女豹の目になる。


(この異世界の男を虜にすれば、この敗北の汚名を晴らすことができるかもしれない)


 という打算である。この辺りは、金持ちお嬢さんにあるまじき、変わり身の早さである。


 平四郎は思わず、ローザの豊かな胸に目をやった。そして、フィンとさらに慎ましいリメルダの胸と比べる。


「いや、そういうことじゃなくて……」


「じとー(-_-)」


 フィンとリメルダが、平四郎を見る。


(ここで信頼を失っては……)


「負けた艦隊の公女様は自分の艦隊に組み込めます。第3魔法艦隊の残存艦はそっくり頂戴します。でも、あなた自身には興味はありません。そういう場合、無罪放免が僕のモットーですが、あなたは、少々、お仕置きをしないといけないでしょうね」


「お、お仕置き?」


「そうです。今からパンティオン・ジャッジの全てが終わる日まで、あなたをレーヴァテイン付きのメイドに任命します」


「メ、メイドですって!? こ、このローたんが? 大財閥ベルモント家の後継者たるローザ・ベルモントがメイド? そんなこと……」


 すると、レーヴァテインのモニターにフェルナンド・ベルモント……ローザの父が映し出された。


「あっ! パパ、助けてよ! こいつら、ローたんをメイドにするとか、馬鹿なことを言っていて……」


「バカもの!」


 ものすごい勢いでフェルナンドがローザを叱責した。


「お前の道楽には、もう付き合えん! 今まで大切な娘と思って協力はしてきたが、わしはお前を甘やかせ過ぎたようだ。お前はそこで修行して、一度、生まれ変わったほうがいい。フィン様、リメルダ様、そして平四郎殿。どうかローザをお願いします」


 そう言うとフェルナンドは無情にも通信を切った。へなへなと崩れるローザ。ベルモント財閥は今後、一切、ローザには資金援助をしない。ローザは、パンティオン・ジャッジが終了するまで、メイドとして働いて給金をもらってその中で生活するということだ。少なくても1年は……かかるはずである。


「そんな~。パパ~」


 ローザは消えたモニターに両手を伸ばした。今後、アマンダさんの下で働くという体験を人生で初めてすることになる。


「では、フィンちゃん、帰ろうか?」


 平四郎はそうフィンに話しかけた。


「はいです」


 そう笑顔でフィンは答える。第3魔法艦隊を倒した喜びがやっと実感できたのである。


 平四郎の横にリメルダが、いつものごとくさりげなく隣に立った。さっと、平四郎の右手の甲をつねる。そして小声で


「フィンさんは許したようですけど……。ローザと私たちを比べましたよね」


「え? そんな、比べてなんかない……イタタタ」


 もっと強くつねるリメルダ。


「あんな大きなモノがいいんですか! もう男なんて信じられない。大きい方にすぐ目が行くのだから! 小さくたって、感度とか、形とか……。あ~ん! 公爵令嬢になんてこと言わせるんですか!」


「いや、それは君が勝手にいっているだけで」

「もう、とにかく、小さい方もそれなりにいいんだからね!」


「そ、そうだね……」


 平四郎はそっとフィンの方を見た。その慎ましい胸に……。


(あのくらいの方がいいよなあ)と変な妄想モードになる平四郎。


 そんな平四郎をまともに見られず、ちょっと照れて下を向くリメルダさんが、


「小さくてごめなさい」


 そう可愛いデレを見せたのが、平四郎はまったく聞いていなかった。気がついたリメルダが、ギュッと平四郎の右足を踏む。


「イタタタタっ!」


「私はハーピーⅡに帰ります! ナアム行くわよ!」

「はい、姫様」


 プンプン怒って出て行くリメルダ。それを見送りながら平四郎は命令する。


「それでは第5魔法艦隊は残存する第3魔法艦隊の艦船と共にパークレーンへ帰投する。全艦、発進準備せよ」



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