第15話 VS第3魔法艦隊 ~ゴティバ平原上空戦(6)
「まさか、まさかの結末です!」
実況中継していたテレビメイフィアの人気キャスター、アンナ・ソフィーは、目の前に起こった出来事に10秒ほど呆然と沈黙したあと、プロのキャスターの仕事を思い出したかのように第1声を発した。たぶん、お茶の間の多くの国民も同じように10秒は言葉を失っただろう。それくらい、大逆転劇であった。
「第3魔法艦隊旗艦、クイーンエメラルド撃沈! 繰り返します、クイーン・エメラルドが撃沈しました。信じられません……。この目の前に起こった現実は、本当
なのでしょうか? 第5魔法艦隊の勝利です。大逆転です!」
アンヌソフィーは興奮してしゃべりが止まらない。
ゲストとして招かれていたリリムも、この予想だにしない結末に言葉が出てない。さっきまで、(参加しなくて大正解だったわ)などと思いながらも、テレビカメラに映る度に、
「あ~ん、第5魔法艦隊、負けそうだわ~。リリムも応援してるから、がんばって~」などと心にもないことを喋っていたが、まさかの結果に何も話せないでいた。
(これなんなよ……。この予想外の結末。これがお兄ちゃん……の作戦?)
「腹黒アイドルちゃんにゃ。勝利するって気持ちいいだろにゃ」
「ふん。猫に言われたくないよ。でも、リリムが役に立ったことは事実ね」
リリムとトラ吉がここから攻撃したことが、このパンティオンジャッジのキーポイントになったことは事実だ。だが、これも異世界から来た青年のアイデア。
使い物にならないレールガンを活用したこと。
昔のパーツを発掘し、失われた魔法を復活させたこと。
ローザを挑発し、30分以内で倒すことを意識させたこと。
フィンとつながった時に発動する無限の魔力「コネクト」の力。
戦術、作戦、戦略、技術の面で第3魔法艦隊を上回ったからこその勝利である。
「ハウザー教授、この結果、どう思われますか?」
「いや、びっくりしましたね」
そうハウザーは言ったが、少しもびっくりしていない口調であった。この男、こうなることを知っていたのでは? とアンナソフィーは疑った。
「ハウザー教授はあと5分で逆転すると言いましたが、そのとおりになりました。私はすごく驚いています。私の目にはレーヴァテインとハーピーⅡが突然、クイーンエメラルドの近くに出現したように思えましたが」
「あれは500年前の技術です。ミラーとステルス。今は失われた魔法で、原理は分かっていても実際に発動する方法がありませんでした。強力な魔法ではないけれど、使い方によっては絶大な効果があります」
「レーヴァテインのメンテナンスをしているマイスターは異世界から来た青年と聞きます。その天才マイスターの力でしょうか」
「彼の力は大きいです。でも、それだけではない。レーヴァテインの巧みな操艦技術。正確な射撃、的確な防御。第5公女のフィン殿下のマルチ能力も地味ですが、効果が大きいと思います」
「総合力の勝利ということでしょうか?」
「そうですね。第5魔法艦隊はこれでダークホースならぬ、優勝候補になりましたね」
「確かに……」
アンヌソフィーは冷静に今後のことを考えた。ハウザーの思考は既に次の対戦へと移っている。この勝利は大きい。なぜなら、第3魔法艦隊への被害を最小限に抑えての勝利だ。
前回の第4魔法艦隊戦のように完膚なきまで叩きのめすと、奪い取る船がなくなるが、今回は戦列艦をはじめとする強力な船を無傷に近い状態で手にれることができたのだ。
「これで第5魔法艦隊は、戦列艦をはじめとする有力な船を手の入れることができました。次の対戦が楽しみですね」
アンヌソフィーは目の前のディレクターが終わるように手をぐるぐる回していることに気がついた。番組を終われとの合図である。
「只今、パンティオンジャッジ2回戦が終わりました。これは大方の予想を裏切る結果です。テレビの前のみなさん、いや、今、テレビを見始めたみなさん。パンティオン・ジャッジの2回戦は開始30分ちょうど、第5魔法艦隊の勝利に終わりました。もう一度、言います。第5魔法艦隊の勝利です」




