第15話 VS第3魔法艦隊 ~ゴティバ平原上空戦(5)
「クラインっと言いましたわね」
「は、はい。ローザ様」
新入りのイケメンが足元に膝まづく。手には金時計を握りしめている。
「時間は何分になりますか?」
「は、はい。25分を過ぎたところです」
「それはいけませんわ。ここで決めないと国民に笑われますわ。リンツ中尉」
「はっ」
ローザをただの金持ち道楽娘だと思っているリンツ中佐は、次の命令に唖然とする。そして、何も知らない素人娘が、素人だけに非情な命令を簡単に行うことができるのだと感心するのであった。
「前方の駆逐艦と巡洋艦で釘付けにしなさい。ほんの2分でいいわ。そして、このクイーンエメラルドのデストリガーで華麗に、ゴージャスに、マーベラスにエンディングを飾りますわ。ホーホッホホ……」
「デ、デストリガーを撃つのですか!」
「そうよ。後5分で勝つにはそれしかないでしょう」
「そ、それでは、前方の巡洋艦と駆逐艦も巻き添えに」
「あら?」
ローザは事も無げに言い放った。
「ローたんのために死ねるなんて光栄でしょう。心配いらないわ。死んだ将兵の家族にはたっぷりとお金を払いますから」
リンツ中佐は怒りでブルブル震えた。味方を犠牲にしてまで面子にこだわるローザを怒鳴りつけたい、そんなことをしなくてもこのまま、長期戦に持ち込めば勝利は確実なのだ。
「味方を犠牲にするのですか? それにデストリガーを撃つなら、深淵の楯の効果をなくさなければいけません。絶対防御がなくなりますよ」
ローザは右手で払う仕草をした。さっさと命令通りやれという仕草だ。
「あなたと議論している暇はないわ。あと4分しかない」
リンツ中佐は何か言おうとしたが、ローザを取り囲むイケメン15人が一斉に睨むので、言うのをやめた。この第3公女の命令に従うしかない。
「敵旗艦クイーンエメラルド、深淵の楯を解除するでおじゃる」
「こちらも行くぞ。パリムちゃん、ダミー放出!」
「はいでおじゃる」
「フィンちゃん、ミラー&ステルス発動」
「ハイです!」
今回、平四郎が改造に使ったのは、あの500年前の基地の遺跡で発見したパーツ。アンナが言っていた(シャインデスプロエンジン)はまだ修理中で搭載できなかったが、シールドパーツは幸い壊れていなかった。ミラーが発動できる(写鏡の楯)とステルスが発動できる(反射鏡)を高速巡洋艦レーヴァテインとリメルダのハーピーⅡに施していた。
それが発動することで視界から消え、レーダーからも消える。だが、同時に放出したダミーの風船型の空中武装艦、ちょうど、レーヴァテインとハーピーⅡと同じ大きさの風船が出て入れ替わる。一瞬のことで第3魔法艦隊には入れ替わったことが分からない。少なくとも前線の巡洋艦と駆逐艦の艦長は、異変にきづいただろうが、それを報告する前にデストリガーで葬り去られる。
「さあ、皆さん、ショータイムよ! 残り10秒、9、8、7、6、5……」
「4、3、2……」
イケメンたちがシャンパンの栓に手をかけ、ローザを取り囲む。その光景はホストクラブで豪遊するお馬鹿な金もち女とそのお気に入りホスト御一行様である。
「1、今よ、撃ちなさい、我がデストリガー、(ゴールドラッシュ777)、てーっつ!」
凄まじい火炎の塊が現れ、それが渦を巻いて発射される。撒き散らされる火花がまるで金貨のようにキラキラと空を舞った。凄まじいエネルギーの塊が第5魔法艦隊と第3魔法艦隊の駆逐艦も巻き込んで、その炎の渦は突き進み、やがて全てを蒸発させて消えた。
「なんて、美しいの! まさにローたんにふさわしい攻撃だわ!」
ローザは、露出の多いパーティドレスをなびかせて、美しく輝くデストリガーの軌跡を見送った。
「敵艦消滅」
リンツ中佐がそうつぶやくように報告した。あっけなく、第5魔法艦隊は消滅した。こんなにあっさり決まって良いのだろうかとリンツは呆然とした。
「ローザ様、おめでとうございます!」
「ローザ様、万歳!」
「ホーホッホホ……。約束通り、30分で決めましたわ!」
パンパン……とシャンパンが抜かれた。金色の泡がほとばしる。一本10ダカットする高級な酒だ。だが、その音と同時に轟音が鳴り響き、クイーンエメラルドが激しく傾いた。
持ったグラスを落とし、イケメンたちのシャンパンを体に浴びてしまって転倒するローザ。その目の前にレーヴァテインが姿を現した。左にはリメルダのハーピーⅡもだ。
「そ、そんな! どこから現れたの!」
突然と姿を現した2つの船。まるで幽霊になって出現したかのようであった。
「フィンちゃん、リメルダ!」
「分かっています。ナアム、ありったけの魔力でレールガン発射!」
「ナセルさん、撃ちます」
二人の美少女提督が命令し、同時に超接近した2つの船が前方から後方にかけて、レールガンを撃ちながら高速移動していく。この至近距離からの攻撃だ。装甲を破壊し、主砲や副砲を根こそぎ削り取り、さらに中心のコアである浮遊石ユニットを一瞬で破壊する。
「カレラさん、フィンターン!」
平四郎が叫ぶと、レーヴァテインは右エンジンを切って急速に180度回頭する。瞬時に空中武装艦の向きを変える技だ。さらにレーヴァテインはクイーンエメラルドの柔肌に爪をたて、引き剥がし、破壊する。
「そ、そんな~っ。ローたんが負けるなんて!」
数度の爆発に見舞われ、その強大な光に思わず両腕をクロスさせてまぶしさから目を守るローザ。その後ろでシャンパンまみれでびしょ濡れになったイケメンたち。激しい泡のシャワーがローザに雨のように降り注ぎながら、第3魔法艦隊旗艦クイーン・エメラルドは爆発する。
リンツ中佐はすぐさま、脱出装置を作動するよう命じたので、この場違いな面々はその後、レーヴァテインに収容されることになる。
 




