第15話 VS第3魔法艦隊 ~ゴティバ平原上空戦(2)
「リリムさ~ん。聞こえますか?」
アンヌソフィーがリリムに再度尋ねる。ただでさえ、戦力が少ない第5魔法艦隊が唯一勝る魔力においても、強力な魔力をもつ公女を戦場から外すことが疑問なのだ。少しでもリリムから情報を得たいと考えていた。
「はい。なんでしょう」
「リリムさんは第5魔法艦隊に破れたわけですが、その経験から今回の第5魔法艦隊の作戦はどうなのか聞かせてもらえませんか?」
(もう、嫌な聞き方をして!あの戦いのことは言わないで!)
心の中でどす黒く毒づいたリリムだったが、そんな気持ちは微塵も感じさせない百点満点の笑顔でこう答えた。
「第5魔法艦隊は戦力は確かに少ないですけど、異世界から来た東郷平四郎さんがいます。リリムも頑張ったけど、やはり、異世界からの救世主には勝てなかったみたい~」
「なるほど。艦隊数や火力以外の指標から考えるのも大事な要素ですね。第5魔法艦隊の旗艦の艦長&マイスターは、異世界から召喚した青年です。500年前にレジェンドドラゴンを退けた英雄も異世界から召喚した男でした。今回もその再現なるか……ですね」
(もう、このキャスター、しゃべりが長い! 早く、リリムに話をフリなさいよ)
「そうと、リリムさんはこの戦い、第5魔法艦隊の一員として参加しないのですか?」
キャスターの無神経な質問にリリムは、ニコニコしながらもピクピクとこめかみを震わせた。黒いオーラが背中から沸き起こる!
(このキャスター、後で手を回して降板させてやる! このど素人め!)
「ああん、それは~リリムも参加して直接砲火を交えたいですよ~って言ったのに、君は歌で応援してくれればいい……なんて、艦長さんがいうので、渋々、あきらめたんですよ~」
キャピキャピな声でリリムは、その場を和やかにする。一応、この後に両艦隊を祝福してリリムちゃんが、パンティオン・ジャッジの応援ソングを披露する予定だ。本当は平四郎に言われて役割は分かっている。この戦場から30キロも離れた場所から攻撃に参加するのだ。
この攻撃がどんな効果があるのかをリリムは知らなかった。まあ、危険な戦場で働かなくてもよいし、こうやってのんびりとテレビ番組に出ていればよい。さらに新曲まで披露できるのだ。このテレビを見ている視聴者に大いに宣伝になる。
(ふん。どうせ、負けるわ。ローザー・ベルモントに勝てるわけがないじゃない。所詮、この世はお金よ! お金持ちが勝つようにできているのよ。1回戦負けて、2回戦も負け戦に身を投じる無様な真似はできないわ!)
「それでは、まもなく開戦ですが、その前にこのパンティオン・ジャッジのテーマソングをリリムさんに歌ってもらいましょう!曲は、(プリンセスの翼、今、羽ばたけ)です」
「はい!戦う兵士のみなさんに心を込めて、頑張って歌います!」
リリム・アスターシャの歌を聞きながら、レーヴァテインの副官席でミート少尉は、(ちっ)と舌打ちをした。
「あの子、よくもいけシャーシャーと! あんな子でも魔力は高いから、巡洋艦に乗って前線で活躍しなさいと私が言ったのに。あの子の方が(リリム、また負けたくないし~。今度は死んでしまうかもしれないし~。お兄ちゃん、このおばさん、こわ~い)なんていったくせに! それに騙されて、平四郎も甘いよ!(かわいそうだから、リリムちゃんはいいよ)なんて言うから、ますますつけあがるのよ、あのメスガキ!」
「クスクス……」
フィンが後ろで笑っている。
「フィン、笑い事じゃないわ!」
「いえ、でも、平四郎くんのこの作戦では、あの子はあの位置で十分役目を果たすですよ」
「そりゃだけど……なんだか、悔しいじゃない!」
「まあまあ、ミート。彼女は彼女しかできない役割を果たすんだ。平四郎の作戦通りならあと30分でこちらの勝ちなんだ。小さな女の子の言動にいちいち目くじらを立てるなよ」
ナセルがそうミート少尉をたしなめる。リリムの役割は第5魔法艦隊の勝利への第1の鍵なのである。
「敵艦、射程内に入りましたですううううっ」
プリムちゃんの報告が艦橋に響いた。平四郎とフィンが赤い光の糸で結ばれる。
平四郎の瞳が赤く変化した。「コネクト」の発動である。
「さあ、激アツ行っとこうか!」
「撃つです!」
「てーっ!」
ローザとフィンが同時に命じて、艦隊戦が開始された。後にゴティバ平原上空戦と言われる戦史に残る戦いが切って落とされた。
ゴティバの空中戦は、はじめの5分は平凡な砲撃戦で幕を開いた……。
後にこういう出だしでベストセラーになるこの空中戦のドキュメンタリー作品を執筆したラピス・ラズリ記者は、レーヴァテインの艦橋から、この戦いの行方をも見守っていた。
(いよいよ始まった。あの鉄壁の守りをどう打ち破るのか。この私が一部始終を見極める)
ラピスは独自取材で、第5魔法艦隊が使えない不良品の武器を仕入れたことを知ったが、資金不足の第5魔法艦隊が不良品を掴まされたのだと思い込んでいた。だから、その情報はどこにも出していない。大して役に立たないと思っていたのだ。
数が少ない第5魔法艦隊は、各艦が散開して戦っていた。防御シールドを展開しているが、出力が弱い巡洋艦や駆逐艦で構成されるために、避けるという方法を取らざるを得なかったのだ。強烈な戦列艦の主砲を受け続けると、あっという間に魔力切れでシールドを失い撃沈されてしまう。
逆に第3魔法艦隊は密集隊形で、集中砲火を浴びせてくる。圧倒的な火力と装甲を誇る戦列艦を前面に押し出すパワープレーである。だが、第5魔法艦隊の攻撃は熾烈を極めた。
通常、艦隊どうしの砲撃戦は、2時間、3時間とかかる長期戦が普通で、エネルギーやミサイル等の消耗を抑えながら戦う。圧倒的な火力を誇る第3魔法艦隊でさえ、長期戦に備え、計画的に砲撃をしていた。
だが、第5魔法艦隊の攻撃はめちゃくちゃであった。連射、連射でまるで30分で全エネルギーと弾薬を使ってしまう勢いの攻撃である。よって、最初の5分は、4分の1にも満たない第5魔法艦隊が戦況を有利にしていた。これは平四郎とフィン、さらのリメルダまで加わった「コネクト」効果である。無限の魔力が第5魔法艦隊を狂戦士に変えたのであった。
「巡洋艦オニキス被弾、駆逐艦モランタン撃沈!」
「あいつら、戦い方を知らないのか! バカみたいに攻撃してくる」
第3魔法艦隊参謀のリンツ中佐が、信じられない光景に唖然とする。こんな自殺行為的な戦い方など、馬鹿げているとしか言いようがない。魔力を失えばそれでジ・エンドである。それなのに第5魔法艦隊の各艦は、最大の攻撃を第3魔法艦隊に浴びせてくるのだ。
そしてついには、旗艦クイーン・エメラルドの隣で砲撃していた戦列艦トワイニングが、レーヴァテインの攻撃をを浴びて、大爆発して撃沈されてしまう。
「馬鹿な! 巡洋艦の攻撃で戦列艦がこんな簡単にやられるとは!」
プロの軍人であるリンツ中佐には信じがたい光景である。だが、第3魔法艦隊はまだ戦力に余裕がある。戦列艦の1隻を失ったところで、痛くも痒くもない。
ローザ・ベルモントはゴージャスな扇をゆっくりと揺らして、椅子から立ち上がった。
「ホーホホッツ……。あのバカ猫が言ってましてよ。30分で我が艦隊を撃破するって。これがその答えでしょう。いいでしょう! こちらも受けて立ちなさい。戦力の差を思い知らせてあげなさい! 敵の中央部、ミサイル駆逐艦と巡洋艦に砲撃集中、主砲3連、斉射!」
ローザの命令で、第3魔法艦隊の戦列艦3隻の主砲が一斉に火を吹いた。レーヴァテインはカレラ中尉の巧みな操船でこれを交わす。リメルダの座乗する駆逐艦ハーピーⅡも巧みに交わす。フィンが操る無人の巡洋艦と駆逐艦のうち、一隻が逃げ遅れた。被弾すると共に、大爆発を起こして一瞬で破壊された。
「左翼、1隻撃沈ですうう」
高速巡洋艦レーヴァテインの通信長、プリムちゃんが平四郎に伝える。
「最新鋭艦のミサイル駆逐艦じゃなくてよかったよ。プリムちゃん、レーダーに例のものは映っている?」
「はい、あと10秒で着弾予定ですうううううっ」
「平四郎くん、計算通りです」
フィンが右目を閉じて平四郎に合図した。
「よし、トラ吉、リリムちゃんよくやった。敵はさぞかし驚くだろうな!」




