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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
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第15話 VS第3魔法艦隊 ~ゴティバ平原上空戦(1)

今日から始まる第3魔法艦隊ローザとの戦い。

どんな作戦で仕留めるのか? アドミラルとは別の作戦で展開します。

「第3魔法艦隊、戦闘エリアに進入してきました。その数、戦列艦5、巡洋艦7、駆逐艦12」


「やっと到着したわね。時間通りだわ」


 リメルダは眼下に展開する第3魔法艦隊の大艦隊を眺めながら、平四郎が立てた作戦を頭で整理していた。この作戦を告げられたとき、その突拍子もない発想に思わず息を飲み、目の前が急に広がっていく感覚に体が震えたのであった。この作戦を知っているのは、レーヴァテインの乗組員を除けば自分とナアムだけである。


(作戦の第一段階は完全に成功だわ……。ローザの派手な性格をうまく利用するとは)


 リメルダが感心したのは、平四郎がトラ吉を使って、マスコミにいろいろと情報をリークさせ、この戦いをショーアップしたことであった。テレビに出演したトラ吉は、開戦から30分以内に第3魔法艦隊旗艦クイーン・エメラルドを撃沈すると挑発したのだ。


 これに反応したローザもテレビの前で「やれるならやってみろ!」と挑発を返し、大いに盛り上がったのだ。どちらが勝つか……しかも30分以内に……という宣言は国民に大変な関心を呼んだ。元々、パンティオン・ジャッジは国民に関心の高いものであったが、平四郎が仕掛けた作戦によって、さらにヒートアップすることになったのだ。

 

 マスコミの取材合戦は多岐に広がり、両艦隊がどのような作戦を取るか、評論家や軍人が解説をする番組が放映された。そして、ついにはテレビの生中継で戦いの模様が伝えられることになったのだ。


 第5魔法艦隊が選んだ戦場は、ゴティバ平原上空であった。これは予想に反した設定であった。なぜなら、この平原は広大な平地の上空にあり、遮るものは何もない。艦隊の動きが全て見通せてしまうのだ。戦力が大幅に劣る第5魔法艦隊には大いに不利な場所なのである。


(本当に勝てるのかしら……。こんな場所じゃ、圧倒的な火力の的になるだけじゃ)


 リメルダは平四郎の作戦の有効性も理解していたが、不安も多かった。何しろ、敵にはデストリガーという絶大な切り札があり、さらに旗艦クイーン・エメラルドは絶対防御である「深淵の楯」を装備しているのだ。今もそれを使って強力なシールドを構築している。


 あれを打ち破るにはデストリガーしかないのだが、第5魔法艦隊の旗艦レーヴァテインはそれを撃てる性能が今はない。リメルダの旗艦ブルーピクシーは撃てるが、今は修理中で現在は非力な駆逐艦に乗っている。当然、デストリガーを撃てるはずもない。


(それでも彼は成功させるのでしょうね)


 リメルダは隣に位置するレーヴァテインを見る。それに座乗する平四郎は敵の大艦隊を前にしても微動だにしていないだろう。リメルダはとても頼もしく感じた。

 

「敵の旗艦レーヴァテイン確認。第5魔法艦隊の数、巡洋艦1、駆逐艦3」


「はあ~ん。相変わらずゴミのような艦隊ね。しかもリメルダまで参戦しているとは、貴族のお嬢様の考えていることは全く分からないわね」


 ローザは前方に位置する駆逐艦を見る。あんな非力な船に乗って自分にリベンジしようなんて馬鹿げていると思った。


「まあいいわ。やっと、役者が揃ったわね。テレビ中継もあることだし、予定通り30分で撃破して、ローたんの華麗なる勝利に華を添えましょう」


「ローザ様、勝利は我が艦隊に。ユア、ハイネス!」


 ローザの周りにイケメンの執事が取り囲む。一人はお茶を差し出し、一人は果物を差し出す。みんなローザの取り巻きのイケメンたちである。


「ローザ様、気をつけた方がよいです。この戦場は奴らにとって、不利であるのにあの余裕。何か仕組んでいるとしか思えません」


 そう職業軍人のリンツ中佐が忠告する。この大艦隊に対するのには明らかに戦力不足にも関わらず、大軍が有利な広い戦場を選ぶとは理解に苦しむのだ。通常なら、エアズロックのような大艦隊が展開できない戦場を選ぶはずだ。第5魔法艦隊の考えが全く読めない以上、警戒するにこしたことはない。


 それに当初掴んでいた情報より、巡洋艦が1隻少ないのである。ただでさえ、戦力不足なのにこれは理解に苦しむ。


(いないのは第4公女。リリム様が乗る巡洋艦……どこに配置したのだ?)


 リンツは戦場に入ってすぐ全艦隊に索敵するように命じたが、この4キロ四方の戦場エリアにはいないようだ。何だか嫌な予感がする。


 だが、ローザはそんな忠告に耳を貸さない。


「あの猫め! テレビで散々、ローたんの悪口をいいやがったですわ! しかも、この第3魔法艦隊を30分で撃破するなんて大ボラ! こちらが30分で撃破してやりますわ!」


「ローザ様、敵の挑発に乗ることはありません。いくらなんでも30分なんて、笑えますね。どうでしょう。時計をスタートさせ、30分後にシャンパンで乾杯するという趣向は」


 イケメンの一人が金の懐中時計を見せて提案した。


「面白いこと言うわね、あなた」


 ローザは青年の顔を見た。取り巻きは常に15人程いるが、見覚えにない顔であった。


「あなた、名はなんでしたっけ?」

「新入りのクラインと言います」


「そう。いいわ、クライン。そういう派手な趣向、好みだわ。30分たったら、栓を抜きなさい! これは命令ですわ」


「はい、ローザ様」

「さあ、パーティの始まりよ!」


 ローザは指揮座から立ち上がり、仁王立ちした。ゴージャスなドレス風の軍服である。これが軍服かと言われれば、誰もが悩むがローザにはこの格好が合っていた。彼女は豪華で派手な扇を広げて口をかくし、高らかに宣言し、よく響く高い声で笑った。


「ホーホホホッツホ……」



「こちらテレビメイフィアのキャスター、アンヌ・ソフィーです。今日はパンティオン・ジャッジをリアルタイムで皆様にお届けします。これはパンティオン・ジャッジ始まって以来の試みです。解説は空中戦艦の艦隊戦にお詳しい、王立メイフィア大学の教授、ハウザー氏にお願いしてあります。また、ゲストとして、国民的アイドル、リリム・アスターシャさんにも来ていただいております。リリムさんは、第5魔法艦隊に参加しつつ、実況中継をしていただきます。まず、ハウザー教授、この戦い、どう見ますか?」


「そうですね。普通に見れば、第3魔法艦隊の一方的なショータイムというところですが、そのようにならないと思いますね」


「あら、大半の予想を裏切る結果になるという予言ですか? いくら何でも、大胆な発言ですね。まさか、第5魔法艦隊が勝つなんていうのではないでしょうね?」


「敢えて言います。僕の予言では、第5魔法艦隊の勝ちですね! なーんて、言うとテレビ的に盛り上がりますでしょうね」


 ハウザーはそう言うとカメラ目線で片目をつむった。今ので女性視聴者のハートを釘付けにしたであろう。ハウザーは渋い容姿とダンディな言動で女性には大変人気があった。アンヌキャスターは、ちょっとリップサービスし過ぎだとハウザーに目で合図したが、ハウザーは気にしていない。そこで、アンヌはハウザーに問いかけた。


「ハウザー教授、ここで番組を盛り上げる発言はありがたいのですが、具体性がないとちょっと、信じられませんよ。では、ちょっと、ここでお茶の間の皆様に、各艦隊の戦力比を確認してもらいましょう」


 キャスターがそう言うと、テレビ画面に両艦隊の戦力比がグラフに映し出される。


「第3魔法艦隊は旗艦クイーン・エメラルドを筆頭に戦列艦が5隻、巡洋艦が7隻、駆逐艦が12隻。対する第5魔法艦隊は巡洋艦2、駆逐艦3です。艦の数は4分の1以下。火力に至っては、10分の1とさえ言われます。これでは一方的な戦いになってしまう恐れが強いですね」


「通常の艦隊戦ではそうでしょうね」


「私には第5魔法艦隊が勝てる要素なんて思い浮かびませんが、それは素人だからでしょうか」


「さあ、どうでしょうね?」


 ハウザー教授は中年おやじと感じさせないダンディな笑みを浮かべて、バッチリカメラ目線でメイフィアの奥様のハートを捉える。


(結局、策なんてないんでしょう? もう教授ったら、引っ張るだけ引っ張って答えがないなんて分かったら……)


 これ以上、ハウザーに聞いても埒があかないし、番組的には煽るだけ煽って謎にしておくほうが盛り上がる。そこでアンヌはゲストのリリムに話を振った。


「では、ゲストのリリムさんにも聞いてみましょう。リリムさんは、現在、第5魔法艦隊の一員として戦場にいらっしゃるそうですが、そちらはどんな様子ですか?」


「はい! リリムちゃんで~す。今、リリムは少し離れた場所にいます。作戦なのでどこにいるかは教えられませ~ん」


「そういえば、メインの戦場にはリリムさんはいないようですね。それが作戦なんですか?」


「はい」


 そうリリムは答えたが実際に彼女にも分からなかった。作戦上、テレビには言えなかったが、第3魔法艦隊と相対しているポイントよりも30キロも離れた場所に、巡洋艦一隻で停止している。隣には武装した大きな浮遊石が浮かんでいる。そこにいるのはトラ吉である。


(平四郎のお兄ちゃん、一体、何考えているのよ?)


 リリムにも全く分からなかったが、命じられた作戦を淡々とこなすしかない。ここは戦場から離れているので危なくないし、おかげでテレビにも出演できてタレントのリリムとしては好都合ではあった。


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