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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
8/201

第2話 バルド商会にて(3)

「パンティオン・ジャッジ……」

 バルドから以前に聞いたことがある。2年後に起こるというドラゴンの災厄のために戦う艦隊を選抜する戦い。パンティオン・ジャッジ。このメイフィアの代表を決め、その代表が他の国家と戦い、勝った艦隊をトリスタン代表として戦いの中心にするという。平四郎には少し理解できない点もあったが、この世界では重要なものらしい。


「フィン提督はあなたの力を頼りにしている。報酬は月12ダカット金貨。食事、服、住居は提供する。休みは不定期。これは空中武装艦に乗るから仕方ない。条件は悪いと思うけど、これが私たちの精一杯の条件。受けてくれるよね?」


「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな端金で平にいをこき使おうなんて虫が良すぎる。いくら、パンティオン・ジャッジだからって、ひどすぎる」


 黙って聞いていたルキアが口をはさんだ。結構な怒り口調である。


「大体、突然現れて平にいをマイスターなんて変。命令した本人はいないし、少尉かなんだか知らないけれど、偉そうに命令するな!」


「なんだって! 小娘が国軍に逆らうのか!」


「うるさい! あんただって小娘じゃないか。胸だけ大人だからって偉そうにするなよ。大体、そんなエロっちい体で魔法艦隊の士官なんてこの世の終わりだよ」


「エロっちい言うな!」

「まあまあ、二人共そこまでだ」

「だってお父さん」


 娘とオレンジダイナマイト少尉が口喧嘩になるのを見て、バルドが間に入った。本当はルキアが言ったことをバルドがこの突然来訪した軍人娘に浴びせたかったのだが、先に言われて仲裁役を買う羽目になったのだ。


「少尉さんや」

「なんでしょう」

「娘の言い分も世間一般でいう普通の見方だ。それはあんたでも分かるだろうよ」

「無理を言っているのは承知しています」

 

 ミートは頭に乗せた軍帽をそっと取った。それを両手で胸元に当てる。


「それにだ。平四郎を第5魔法艦隊のマイスター、少佐待遇って話だが、それにしては報酬が少ないのではないか。通常はその3倍でも足りないくらいだ」


「第5魔法艦隊は予算不足なのです。これが精一杯であることを理解してください」


「だがな。平四郎の腕は親方であるこの俺が一番知っている。おそらく、戦列艦だってこいつなら軽く扱えるだろうよ。だがな、その腕が月にたった12ダカットって腕を見くびるのもほどほどにしろっと言ってるんだよ!」

 

 勢いよくバルドがドンとカウンターを拳で叩く。一瞬、ビクッとなったミートであったが、それでも目をそらさずバルドを睨みつける。その目には決意の火が灯っていた。


 そんな中、当の平四郎がおずおずと口をはさんだ。


「親方。報酬の件はいいよ。今だって、別にもらってないし」


「な、なんだ。金が欲しいならそう言えばいいのに。今月から給料を出そう」

「いや。お金じゃないんだ。親方もこの件については、考えがあるんだろう?」


 そう言って平四郎はバルドに視線を送った。前にバルドと語った件である。もうすぐ、ドラゴンの災厄が起こる。それは500年に1度必ず起こるこの世界の必然なのだ。だが、世の中は平和すぎて人々は危機を実感できないでいる。だが、この世界は続かない。持続しないのだ。必ずドラゴンの大軍がどこからともなく現れ、この世界を徹底的に破壊し尽くすのだ。バルドはこういう商売でドラゴンハンターたちと接しているので、その危機感をいつも肌で感じていた。その審判の時は伝承によれば2年後なのだ。

 

 (ふう~)バルドは心の中で来るべき時が来たのだと感じた。


「まあ、決めるのは平四郎、お前自身だがな。わしは止めはせんよ」

「あんた、フィンを見殺しにする情けない男じゃないよね」

 

 ミートがそう言って平四郎に片目を閉じた。フィンとの経緯上、この青年が自分たちの仲間になることは確実と踏んだのだ。


「ああ。小学生の時からの約束だからね。僕はフィンちゃんの艦隊を最強にする」


「ふふふ……。そう来なくっちゃ。契約成立」


 ミートは右手を差し出した。平四郎は握手をする。


「親方、今までありがとうございました」

「ふん。お前自身で決めたことだ。それにこれが今生の別れでもあるまい。どうせ、艦隊の本拠地はこのパークレーンなんだろ。お前の家はここだ。いつでも戻ってこい」


「親方……」


 だが、バルド並みにカウンターをバンっと叩いた人物がいる。ルキアである。


「あたしは納得できないからね。ミート少尉、あたいも第5魔法艦隊に雇いなさいよ」


「え、えええええっ。ちょっと、待て、ルキア」


 バルドが慌ててルキアを制する。平四郎が抜けて娘のルキアまで抜けたら商会の経営が傾くというものだ。


「お前のような小娘にできる仕事はない」


 ミート少尉はきっぱりとそう言った。


「本当に?……。第5魔法艦隊といっても随分と台所事情は苦しそうだけど」

(ギクッ)


 ミート少尉は痛いところを突かれたと思った。そう。平四郎の給料の件をもってして、第5魔法艦隊の財政事情が苦しいことが露見するのは難しいことではない。


「弾薬の補給とかメンテナンスとか、あたしらの民間中古ショップを利用したほうがいいんじゃない? 正規ルートの半値以下だよ。それに魔法艦隊なら報酬で船を揃えていくんだよね。今後、船の買い入れも民間ルートなら安く手に入るんだけど……」


「ほ、本当か」


 思わず、叫んでしまったミート少尉は慌てて頭を左右に振って、コホンと1つ咳をした。


「いえ、結構です。民間人の力など借りるわけには……」


「あらあ。それは本音?。あたしがパーツの調達から修理、人員集めをやれば助かると思うけど。そういうこと、副官のあなたが全部やるんだろ。オーバーワークじゃない?」


「うううっ……」


 図星である。ミート少尉の役割は提督であるフィンの補佐。これだけでも大変なのに、フィンが全く提督の仕事に向いていないものだから、艦隊の経営すべてが彼女にかかっていた。最近肩こりがひどいのはそういう面での書類作成や交渉事に時間が取られているせいだろう。


(単に成長したおっぱいが原因という説もあるが)


「あたしだったら、そういう面も引き受けてさらにメカニックとして平にいの助手もできるよ。雇いなよ」


「……わ、分かった。あなたを第5魔法艦隊直属主計官に任命する。後でフィンに承認してもらうから」


「やった!」


「おい、ルキア。待ってくれ。お前がいなくちゃ、この商会はどうなるんだ」


 バルトがちょっと泣き言を言うが、娘は意に介さない。


「お父さん。第5魔法艦隊付きといってもあたしの職場はここ。このバルト商会が第5魔法艦隊の司令部ってことで。私まで船に乗っていたらお金の管理ができないじゃない」


「そういうことか」


「お父さん。大船に乗った気持ちでいてね。今日からバルト商会は第5魔法艦隊直属のパーツショップになるから、これはドラゴンハンターのお客さんにもすごい宣伝になる。この国一番の店ってわけ」


「ルキア、お前は商売上手だな」

「任せてお父さん」


 がしっと手を取り合う父娘おやこ。転んでもタダでは起きないたくましさがある。それを横目で見ながら平四郎はミート少尉に話しかけた。ミート少尉はしっかりしているので年上に思えるがフィンと同じ年で18歳だ。


「ミート少尉。騙されたって思っている?」


「いや。思ってない。むしろ、助かる。お察しの通り、私たち第5魔法艦隊の財政事情は逼迫している。クロービスの軍港に停泊するお金にも逼迫していて、この田舎町の港に来ているのだ。ここならクロービスにも近いから。停泊料も半分以下で助かる。民間のパーツショップとは言っても、バルト商会はドラゴンハンター専門で名高いところだし、私たちの艦隊のメンテナンスをお願いできれば助かると思う」


「そうか……」

「平四郎、あなたは今日から我が艦隊の一員だ。艦隊のことはおいおい話していくから」


「了解」

「まずは、第5魔法艦隊の仮司令部に集合だ」


「仮司令部?」


 第5魔法艦隊の仮司令部。一体どんなところであろうか。

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