第14話 先代の眠れるパーツをゲットせよ!(1)
「火蜥蜴が100匹以上ですって? 冗談でしょ!」
第5魔法艦隊提督の副官、実際は参謀といってもよいミート・スザク少尉は、部下に当たるナセル・エンデンバーグ少尉の報告に思わず問い返した。部下といっても旗艦である高速巡洋艦レーヴァテインの攻撃担当であるという職務上の理由からで、第5魔法艦隊に所属する前は、同じ学校の同級生という関係だ。
公女の率いる魔法艦隊は国軍とは別組織のため、実は明確な階級はない。平四郎は異世界から召喚された特別な人というので、少佐の位が当たえられたのだが、プリムちゃんやパリムちゃんは特に階級はない。ミート少尉とナセルは軍の士官学校出身だったから、卒業時に与えられる少尉の階級を付与されていた。フィンは第5公女なので自動的に准将待遇となった。
カレラ中尉のように軍人から引き抜いた場合は、その階級が生かされる場合もある。ただ、ほとんど提督であるフィンの学友である第5魔法艦隊の場合、上下関係はないといっていい。ちょうど、学校の生徒会のような関係だ。フィンが生徒会長なら、ミート少尉が副会長。ナセルは書記といったところか。その線で行くと主人公の平四郎はなぞの転校生ということになる。
(ちなみに階級は正式にはないが、制服は魔法艦隊専用のものを着用している。)
ミート少尉がナセルに問い返したのは、遺跡周辺がファイアリザードの巣になっているという情報は知っていたが、その数が予想をはるかに上回る数で数字が間違っていないか確かめるためであった。
「本当さ……。大学から討伐を依頼されたマグナカルタ駐留軍が、あまりの多さに断念したというのだからな」
ナセルは魔法艦隊に与えられた権限で地元の部隊から貴重な情報を仕入れてきたのだ。まず、その情報は間違いないといっていい。
「ファイアリザードは恐ろしいモンスターだけど、ちゃんとした装備があれば倒せる雑魚よ。でも、100匹以上となるとちょっと考えてしまうわね」
「ヒトカゲの皮じゃ大した儲けにもならないし、遺跡に眠る宝がガセだったら目も当てられないな」
目も当てられないというのは、討伐用に仕入れた冷凍弾のことを言っているのだ。ファイアリザードには専用の武器がいる。コールド系の魔法を込めたものだ。これはハンドガンでは触媒として弱いのでアサルトライフル型をしている。一丁20ダカットはする。これを遺跡突入する人数分揃えた。
ここにいるミート少尉にナセルはもちろん。平四郎にフィンにリメルダ。リリムも動員したかったが、あの歌姫。コンサートを理由に拒みやがった。あとはトラ吉にナアムのケットシー。軍人のカレラさんや魔力は人並み以上のプリム&パリムちゃん、フィンの侍女であるアマンダさんも魔力は高いが、今回は動員を取りやめた。
操舵手のカレラさんが怪我をするとレーヴァテインが動かなくなるし、プリム&パリムちゃんはまだ子供。子供に戦闘は厳禁である。アマンダさんは謎のであるが、やはりメイドさんに戦いは合わないであろう。それで入手したアサルトライフルは7丁だけだ。
「君たち、本当にこれだけの人数であそこへ突入するのか?」
メイフィア大学で考古学を教えているジルド・アクエリアス教授はそう不安げにミート少尉に尋ねた。始め、軍隊も討伐を諦めたこの案件に魔法艦隊が乗り出すと聞いて、光明が見えてきたと思ったのに、その魔法艦隊がしょぼい第5魔法艦隊だったのだ。
久しぶりに愛娘に会えると思ったのに、こんな危険な任務に参加するとは父親としては複雑であった。
「教授、大丈夫ですよ。魔力の数値だったら陸上部隊1個大隊よりも強いですから。公女さま方の魔力は半端ないすよ」
「そ、そうなのか?」
「それに異世界の勇者平四郎の力はとんでもないレベルですからね。ファイアリザードなんて、あっという間に黒焦げの漢方薬の原料にしてしまうよ」
教授相手に軽口を叩くナセル。一応、フィンの父親は考古学者として有名な偉い人であったが、ナセルにとって考古学は理解できない学問。よって、フィンの父ちゃんという認識でしかない。
「へ、平四郎だと?」
ジルド教授はその名前は妻であるフォーリナから聞いている。パンティオンジャッジにおける愛娘のパートナーという男だ。父親としては心穏やかに接しられない人間の類なのだ。
そうこうするうちに、平四郎たちがマグナカルタに到着し、ミート少尉らの前線基地にやって来た。主力戦力の7人が揃った。
フィンは自分の父親に久しぶりにあってちょっと動揺している。この案件は自分の父親が関わっているとは聞いていたけれど、まさか、前線基地にいるとは思っていなかった。
前線といっても森の外にある森番の小屋であるが。
「フィン、元気にしてたか?」
「お、お父様もお元気で」
「うむ。第4魔法艦隊には勝ったとは聞いたが、もうこれ以上は勝ってくれるなよ。艦隊ごっこなんかはやめて、家で花嫁修業をするんだ」
ジルドはフィンが第5公女に選ばれたことを快く思っていなかったし、パンティオンジャッジなどという危ないことに参加するのも反対であった。艦隊を維持するほど経済力はないとはいえ、ジルドも国立大学の教授だ。それなりに援助はしてやれるはずだが、フィンがバイトをしているのは反対の気持ちからくる複雑な感情が仕送りを一切しないことにつながっていた。
それでも、身の回りのことが心配で侍女のアマンダを派遣しているのは、父親としての心配からであったが。仮に例のバイトのことが父親の耳に入ったら卒倒するだろう。
「あ、あの……。お、お父様……」
フィンがモジモジする。両手を組んでモジモジ、両足でモジモジ……。ジルドは娘の態度を察したので話題を変えた。わざとらしく。娘の彼氏紹介の言葉が出てくるのを避けたのだ。
(もうお父様ったら!)
「で、どういう作戦でいくのだ?」
「は、はい。まずは砲艦で遺跡があると思われる上空まで行きます。そこから降下します」
ミート少尉がもっとも効果的な作戦案をジルドに提示する。モンスターの大群のいる陸上を突破していくのは無謀だから、この作戦案は妥当なものだ。
降下したあと、遺跡の入り口を背にリメルダと平四郎、フィンがファイアリザードに対して攻撃を加えて近づけさせない。その間にジルドが扉を開けてミート少尉とナセルが中の安全を確認。平四郎たちが中に入った後、扉を閉める。集まってきたファイアリザードを上空の砲艦による爆撃で一網打尽にするのだ。砲艦の操縦はトラ吉とナアムが行う。
「この作戦のポイントは、ジルド教授。パスワードを解読して如何に素早く正面扉を開けることができるか」
「うむ。文献によっておおよそ分かっている。任せなさい」
ジルドが胸を張った。これまで長い時間をかけて古文書を解読し、この遺跡について調査を進めてきたのだ。ある程度の自信はあった。
「第2に平四郎とフィン、リメルダさんの攻撃力。多数のファイアリザードが気配を察して集まってくる。奴らを倒しつつ、できるだけ引き付ける。まあ、これは心配ないでしょうね」
ミート少尉は平四郎の「コネクト」という反則技はこれまでに何度も見ている。この危険な任務でも大して驚異じゃないと思えるのは、平四郎のとんでもないチートな力を知っているからこそだ。しかも、今回は贅沢にも両手に華状態である。どんな反則技が展開されるであろう。下手したら砲艦による爆撃はいらないかもしれない。
「第3に……」
ミート少尉はナセルを見た。ナセルと目が合う。急に顔が赤くなった。第3のポイントはミートとナセルが突入して中の安全を素早く確認することだ。ここで何かあると作戦がうまくいかない。例えば、中に侵入者防御の対策が取られていれば、速やかに排除することになる。そう説明しようとしたが、ミート少尉はナセルの不思議そうな顔を突然グーでぶん殴る。
「また乳か~っ」
「な、なぜ……」
殴られたナセルはワケが分からない。ミートを見ていたことは事実だが作戦内容をおとなしく聞いていただけだ。
いや、訂正。心の中でちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、
(相変わらず、ええ乳しとるのう……。眼福眼福)
と思っただけだ。それで殴られるとは……。
ボロッ……。
崩れゆくナセル。
ナセルくん、かわいそう。




