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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
72/201

幕間 第1魔法艦隊提督マリーの憂鬱

感想いただきました。

ありがとうございます。PVも1日5000に達しそうw

まあ、淡々と続けますけどw

「ヴィンセント、あなたマグナカルタに行くって聞いたけれど、あんな田舎に何しに行くの?」


 ここはメイフィア王国の首都クロービスにある王宮。この一角に第1魔法艦隊司令部が設置されている。第1魔法艦隊提督、第一公女マリーは、ここで試験航海のための準備中であったが、昼近くになってやってきた従兄弟のヴィンセント伯爵にそうたずねた。本来ならヴィンセントは第1魔法艦隊の乗組員、旗艦の艦長という重要な職にある。出勤時間の9時に来ないことを咎めるべきだが、そんな無駄なことはマリーはしない。そんな小言は聞かないし、遅れた理由も察しがつく。この男のことだ。今までどこぞの女と一緒に過ごしていたのは間違いない。


 それより、この伊達男があんな田舎の町に行くのは不可解だと最初は思ったが、賢いマリー王女は既にこの軽薄な男が何をしにくのか見当がついた。


(マグナカルタ……確か……)


 マグナカルタという小さな地方都市が、第5魔法艦隊提督である、第5公女フィンの生まれ故郷であることを思い出した。


「いや、マリー。ちょっと野暮用でね」

「はは~ん。あなたのその態度、また女ね!」


(やっぱり、フィンさん絡みか……)


 マリーは自分の予想が当たったことに呆れて思わず天を仰いだ。予想どうりの愚劣さ。この重要局面にこの男は本当にどうしようもない女好きである。


「また女って、人聞きが悪いな。今度は本気なんだよ。マリー」


「あなたの本気って、全く信用がならないわ。わたくしもあなたの幼馴染ですから、あなたのその性分、よく理解しているつもりですから」


 実際、幼少の頃からマリー王女はヴィンセントと遊んでいたので、この男がどれだけ女たらしか知っていた。この男、今から思えば4、5才の頃から女好きだったような気がする。ヴィンセントの方がマリーより3つ年上で、10歳くらいまでは「お兄様」などと言って慕っていたマリーであったが、ヴィンセントに飽きられて捨てられた女の子たちのことを見聞きする度、(コイツは女の敵)とこの面に関しては軽蔑していた。


 だが、旗艦の艦長たるにふさわしい魔力を有している。彼の魔力はパンティオンジャッジに出場する公女に匹敵するものだ。さらに、ドラゴンのメンズキルを恐れず、自分の船に乗ってくれることには感謝している。私生活はどうしようもない男だが、その能力は人類のために生かすべきだとマリーは割り切っていた。


「あんな田舎、用事が済んだらすぐ戻るさ。今日中には楽勝かな。それより、マリー、いっぱいファイルを広げて何しているんだい?」


「ああ、これね」


 マリーが読んでいるファイルやテーブルに広げられているファイルは、他国の艦隊の情報であった。妖精族、機械族、霊族とこのトリスタンに存在する種族の艦隊の情報がまとめられていた。マリーは国の情報機関に他国のパンティオンジャッジの様子を調査させていた。これは他国もメイフィアでやっていることで、国同士の駆け引きの類であるのだが、5人いる公女の中で先を見据えてここまで準備をしているものはマリーの他にはいないだろう。


「まだ一戦もしていないのに、もうメイフィアの代表になって他国と戦うつもりなんだ。君は可愛い顔しているのに、随分と計算高いね」


 ヴィンセントはそう皮肉を言った。実はヴィンセントもマリーのことを快く思っていない。というより、この完璧なまでに真面目な従姉妹は苦手であった。美女殺しのヴィンセントもマリーにはちょっかいを出していない。


「あらあ、そういうヴィンセント伯爵様も第5魔法艦隊に勝った気でいらっしゃる。マグナ・カルタはフィン・アクエリアスの実家がありますものね」


 マリーはそう最初から見抜いていることを嫌味たっぷりに話したが、ヴィンセントは最初からこの聡明な従姉妹にバレていることは承知していた。


「勝つのは想定内というのは君も同じでしょ。そもそも僕は第5魔法艦隊が第3魔法艦隊に勝てるとも思っていないけどね。君も二つの艦隊のどこが出てきても勝つつもりなんでしょ?」


「一番の強敵のリメルダがいなくなったのです。わたくしが負ける可能性はほぼ0ですわ」

 

 正確にはリメルダの第2魔法艦隊は、まだ失格したわけではないのだが、大半の戦力を失ったことでマリーの脅威にはならなかった。戦力的には互角以上の第3魔法艦隊はローザの魔力が大したことがなく、その強力な武装を「張子の虎」と見抜いているマリーには楽勝の相手であった。


「大した自信だ。それで、メイフィアの代表として、次に戦う相手についてはどう分析しているんだ?」


「そうですわね。まず、妖精族ですが今回は王位継承争いで王族、貴族に内紛があって国内のパンティオン・ジャッジがまともに行われていないわ。一応、代表は妖精族女王が率いるそうだけど、今回は戦力不足は否めない」


「なるほどね。内紛で力が落ちているとは……。世界の危機に妖精どもは何をやっているのやら。他には?」


「機械族タウルンは年々レベルを上げているけれど、所詮は直接打撃しかでいない艦隊。こちらの魔法防御さえしっかりしていれば、問題ないでしょうね。機械族は数で押してくるだけですから、わたくしたちの敵ではないわ」


「じゃあ、霊族がライバルってわけだ」


「そうですわね。今回はこの霊族、静けさの世界に眠る霊族のプリンセス、スリーピングビューティがライバルとなるでしょうね」


「スリーピングビューティって、いい女か?」

「さあ? ビューティっていうのですから、絶世の美人でしょうね。但し、霊族ですから足がないですけど」


 このトリスタンは4つの種族がいる。マリーたちの魔法族。魔法王国メイフィアをつくっている。第2大陸には魔力のない人間たち、機械族がつくるタウルン共和国。第3大陸にはエルフやドワーフ、ケットシーなどの様々な妖精族と呼ばれるものたちが建国したローエングリーン王国がある。そして同じ第3大陸の山岳地帯に部族ごとで住んでいる霊族という種族がいるのだ。


「そうだったね。いくら美人でも、足がないと楽しくないね。残念だけど。まあ、艦隊戦のことで君と話はしていたいけれど、もうそろそろ時間だ。僕は失礼するよ」


「まあ、あきれますわ。今、出勤してきたばかりなのに……」

「ふん。マリーちゃん。僕がいてもいなくても問題ないでしょ?」


 その通りである。いない方がマリーも邪魔されなくて済む。この男は戦闘以外は役に立たないのだ。


 ヴィンセントは軽く片手を上げ、マリーに挨拶すると王宮から姿を消したのであった。


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