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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
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第12話 高速巡洋艦レーヴァテインの秘密(2)

「失敗しただと! 一体どういうことだ」


 ヴィンセントは声を荒げて手にした携帯端末にそう怒りをぶつけた。裏世界のボスに命令して、パークレーンでならず者に平四郎を襲わせたのだが、返り討ちにあったと報告があったからだ。


「10人の若い奴にやらせたのですが、信じられないことに一瞬でみんな叩き伏せられました。伯爵様、異世界の人間には手を出さない方が……」


 ヴィンセントに怒鳴られてギャングのボスは恐縮するしかない。実のところ、平四郎たちを襲うという命令は気が乗らなかったので、使い捨てのゴロツキの若いものを差し向けたのだが、その判断は間違ってはいなかったと思っている。自分の子飼いの部下でも結果は同じだったろう。借りがあるとはいえ、このわがままな青年貴族の命令で大事な部下を怪我をさせられたら元も子もない。


「裏世界のボスが弱気だな」

 ヴィンセントの言葉にはたっぷりと皮肉が込められている。暗に(お前は手を抜いただろう)というボスには聞こえた。だが、ここは形式的でも否定しておかないと、後の仕返しが怖い。


「弱気ではないです。伯爵様。これは畏れです。偉大なる力への畏怖心です」

 

 裏世界の悪党の割には、真に迫った素直な言葉だ。大半の国民は「竜の災厄」を遠い昔の過去のことで自分たちには関係ないと思っている。だが、このボスはドラゴンと遭遇したことが過去にあり、その恐ろしさは身に染み付いていた。


「ふん。お前は500年前の出来事がまた起こると思っているのか?」


「私は思っています。政府関係者や軍の関係者、王族の方はとっくにご存知でしょう。そのためのパンティオンジャッジなのですから」


「ふん」

 ヴィンセントは鼻を鳴らした。こういう態度が人を不愉快にするのだが、大抵の人間はヴィンセントを王族として敬うので、この男は気づいていなかった。


「もういい。どうせ、チンケなチンピラを差し向けたのであろう」


「異世界の勇者には、不思議な能力が備わっているのです。我々のような凡人では何ともし難いというのが本音です」


「分かったよ。所詮は能力の低い一般人には無理な話だった。僕に考えがある」


 ヴィンセントはそう言って通信端末を切った。ギャング組織に平四郎を襲うように指示したのに逆にやられてしまって恥の上塗りである。しかも、第5魔法艦隊は第4魔法艦隊に圧勝してしまい、平四郎はその立役者として今や時の人である。テレビで第5魔法艦隊の活躍ぶりが語られるとヴィンセントの胸に怒りがフツフツと湧いてくる。


 しばし考えていたが、またもや通信を始めた。


「ああ、隊長はいるか? ヴィンセント伯爵だ。ちょっと、頼みがあるんだ。」


 ヴィンセントの目には悪意が満ちていた。裏で葬るよりも正規ルートで平四郎を陥れ、フィンを奪い取るのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「で、第3魔法艦隊の陣容は、戦列艦5、巡洋艦7、駆逐艦12、戦力差は絶望的だにゃ。まともに戦ったらだけどにゃ」


 第5魔法艦隊の艦長付き従者のトラ吉がそう机上の駒を見ながら言った。ここは、パークレーンの港に停泊する第5魔法艦隊旗艦レーヴァテインの作戦会議室。ここには、司令官であるフィン、その副官のミートちゃん、旗艦の攻撃担当のナセル、航海長のカレラさんがいる。何故か、第2魔法艦隊提督のリメルダとその副官兼旗艦ブルーピクシーの艦長であるナアムと平四郎の7人である。


「また、浮遊石地帯に誘い込む?」

「いや、今回は別の方法を考えよう」 

 

 ミート少尉の問に平四郎は否定した。さすがに同じ作戦は通用しないだろう。それに前回の戦いは、ひどくダメージを与えすぎて吸収するはずだった第4魔法艦隊が使えなくなり、第5魔法艦隊の戦力アップが微々たるものになってしまった。

これはおおきな反省点だ。勝つにしても相手の戦力を戦後に活用できるようにする方法を取るべきだろう。


「圧倒的な戦力差でも勝つ方法を考えなきゃね」

 

 そう当然のように意見を述べるリメルダ。まるで第5魔法艦隊の一員のようだが、彼女は正式な立ち場は部外者だ。(笑)

 現在、彼女が率いる第2魔法艦隊は第3巻魔法艦隊に撃破されたのだが、完全に負けたわけではない。旗艦を撃破されて降伏したわけではないからだ。それに残存艦隊を集めて新たに編成していた。破壊された船は修理に入り、旗艦ブルーピクシーも突貫工事をして修理をしていた。旗艦が破壊されたわけでないので正式には負けたわけではないが、それでも戦力が大幅に削られてしまったことは間違いない。


 リメルダがここにいるのは理由わけがある。


「パンティオンジャッジ憲章第11条。同盟に関する条項」


 そうリメルダは平四郎の前で説明した。同盟に関する条項はこう書かれていた。


 パンティオンジャッジに出場する魔法艦隊は一時的に協力することができる。結んだ場合、相手に援軍を参加させることができる。


「いわゆる同盟条項です。この条項に基づいて私ことリメルダ・アンドリューは一時的に第5魔法艦隊に所属します」


「えーっ!」

 一同、リメルダの言葉に驚く。だが、勝気な第2公女は動じない。


「当然です。ローザには借りを返さないといけません」


 そう言ってリメルダは第2魔法艦隊で被害を受けなかった1隻の駆逐艦に乗って参加するというのだ。


(ふん。1隻だけじゃ、何の援軍にもなりはしないよ。第2公女様の狙いは援軍じゃなくて、男だろ)

 

 小さな声で不平をつぶやくルキア。リメルダは平四郎にちょっかいを出す悪い虫扱いしている。それでも彼女の身分を慮ってそれを大きな声にすることは避けた。


 もう一人、負けて編入された第4魔法艦隊提督リリム・アスターシャがいるが、彼女は応援ありがとうツアーと称するコンサートの最中で来ていない。第3魔法艦隊との決戦では巡洋艦に乗って協力することになる。前回の戦いの勝利で第4魔法艦隊から受け取って使えるのは、巡洋艦1隻と駆逐艦2隻しかなく、大破した戦列艦は基本修理に3ヶ月はかかるということで、1ヶ月後にせまる第3魔法艦隊との戦いには使えなかった。


(ついでに戦列艦の修理費が高くて、修理ができないでいた。現在、格安の修理部品を集めるためにルキアがあちらこちらに奔走していた)


「リメルダの駆逐艦が加わって、こちらは巡洋艦2、駆逐艦3。前よりは戦力は上がったんだ。前よりは条件はいいよ」


 そう平四郎は力強く言った。強大な戦力を誇る第3魔法艦隊に比べれば、大して変わらないのだが、この場にいる面々には平四郎がそう言うと何だか説得力を感じる。平四郎は対面にいるフィンを見つめながら、励ますようにそういったのだが、平四郎の横にはリメルダが位置していて、意識的に体を寄せているので、フィンはそれが気になって言葉が耳に入らない。

 リメルダはそんなフィンの視線を感じても、めげずに平四郎にググッと体を密着させる。そして、平四郎を少し見上げながらこう話した。


「平四郎、私もがんばるから。火力で負けるなら、作戦で勝ちましょうよ。少なくともこちらは魔力ではローザを上回っているのだから……」


「じと……っ」


 平四郎はフィンの視線が痛いと感じた。やっとリリムが離れてくれて、ほっとしたのにガールフレンドと称するリメルダが親しげに話してくるので、フィンの機嫌が直らないのだ。

 

 機嫌といえば、トラ吉はブルーピクシーの艦長であるナアムと知り合いのようで、どうも様子がおかしい。ナアムは会った時にトラ吉に話しかけたのだが、トラ吉自身が素っ気ないのだ。トラ吉の奴は第2魔法艦隊の救出を主張したのにこの態度は謎であったのだが、平四郎としては、今は第3魔法艦隊の決戦に備えて策を練ることに専念することにした。


(これだけの戦力差だ……。勝つためには敵の旗艦のみ、一点集中で撃破するしかない。それが戦後、第5魔法艦隊の戦力アップにつながる。だけど、第5魔法艦隊には一撃で敵を倒す火力がない)


 短時間で戦列艦級を撃沈するには、やはり戦列艦級の主砲で周りから集中砲火を浴びせるか、最大の攻撃デストリガーしかない。だが、第5魔法艦隊の旗艦レーヴァテインには、戦列艦ではない。構造上、デストリガーを撃つシステムが備わっていない。

 

 デストリガーがなければ、正攻法で攻めるしかないが、そのためには旗艦の周りに存在する敵艦を排除する必要があるが、それができるだけの戦力がないのだ。


(どうするべきか…)


「ああ~。いい案が浮かばない! 今日はこれまでにしよう」


「そうですね。まだ戦いまで1ヶ月あります。それまでに良い案を考えるです……」


 平四郎が延期を提案したので、フィンはそう言って作戦会議を打ち切った。


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