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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
7/201

第2話 バルド商会にて(2)

カラン……。

扉に取り付けられた鐘が鳴った。


「へい、いらっしゃい」


 バルドが扉に目をやる。逆光に照らされているので、表情は見えないが国軍の士官服を着た女の子二人である。国軍と書いたが正確にはデザインコンセプトが似ているだけで、街でよく目にするものとは違っていた。白を基調とした端正なもので、王国の近衛隊かと見間違える華やかさである。タイトスーツスカートがシックで大人ぽさを強調しているが、二人共明らかに若く、その違和感が逆にバルドをクギ付けにした。

 2人ともおそらく20歳は超えていないだろう。軍服よりも学生服が似合うといった感じだ。この若さで士官ということは、生まれが貴族なんだろうとバルドは思った。


「国軍のお嬢様方が何の用で?」

 バルドはそう訪ねた。ここはドラゴンハンター専用のパーツショップであり、国軍の士官が来る場所ではないからだ。もちろん、バルドはパーツの買い付けで基地に顔を出すから、全く関わりがないわけでもないが。


(もしかしたら、先日のパーツ取引の契約で何かあったか?)

 この二人は秘書官で契約関係の問題解決のために店を訪れたとバルドは早ガッテンをした。

 ツカツカ……っと女性士官が歩いてくる。その後ろというか、歩く女性士官の後ろの上着をちょっと握ってもう一人がオドオドと付いてくる。歩いてくる短いオレンジ髪の女性士官は制服がはちきれるんじゃないかと思うくらいパツンパツンの胸の豊かさである。


「私は第5魔法艦隊所属。公女艦隊司令部付き少尉、ミート・スザクと言います」

 そう言って自信ありげな態度でその少女は胸を張った。パツンパツンがパツパツになる。


「だ、だい5まほう……」

 バルドは驚いた。そりゃそうだ。


(第5魔法艦隊と言えば……)


 バルドはミートと名乗った少女の後ろを見た。どこかで見たことのある美少女である。銀髪の長い髪を編んで左肩に乗せている。先端部分を赤いリボンで縛っている。ミートの右腕には第5魔法艦隊のエンブレムであるⅤの字にユニコーンがあしらったデザインのワッペンがあり、襟には白いライン1本と星が1つある。これは少尉の印だ。後ろのおどおどしている少女はそれとは違い、ラインが3本。しかも金のラインである。星はない。


(准将……この小娘が……)

 答えは一つである。


「こ、公女殿下でありますか!」

 バルドは直立敬礼をする。カウンターの客も同様だ。別にバルドも客も軍人ではないが、メイフィア王国の公女にはそれなりの敬意を持って当たるのが一般常識であった。

「店主、堅苦しいのは抜きです」

 そう言ってミートはそっと右手の人差し指を口につけた。

「ほら、フィン、店主に挨拶を……」

「は、はい……。め、メイフィア王国第5公女、フィン・アクエリアスです。階級は准将。第5魔法艦隊アドミラル(提督)を勤めています」

 たどたどしく、そう少女はミート少尉の後ろに隠れてそう言った。公女の割には人見知りしすぎである。


「その公女殿下がこんなところに何の用で?」

 魔法艦隊は今回特別編成された国軍のエリート集団のはずである。見た目17、8才の小娘が少尉だとか、准将というのはちょっと理解できないところもあるが、これから始まることを考えれば、それもありえない話ではない。それにしても魔法艦隊の提督とその副官なら、こんな場末のパーツショップに顔を出すより、国軍の整備されたエアドックで艦隊の整備を監督するのが常識であろう。


(ということは……)

 店に用事があるわけでないことは明白だろう。バルドは店の奥で商談中の平四郎に目をやった。何だか嫌な予感がした。

「ここに腕利きのマイスターがいると聞いたよ。異世界から来た男」

「マイスター? 平四郎はまだその域じゃない。マイスターの資格も持ってねえ」

 

 マイスターというのは、国家資格で戦列艦クラスの整備が担当できる。空中武装艦のスペシャリストである。国軍に数十名いるが民間にマイスターの称号を持つものなど数える程しかいないのだ。

「平四郎? 平四郎って言ったね! その人、どこにいるの?」

 ミートがキョロキョロと店内を探す。騒ぎを聞きつけて平四郎が近づいてきた。ミートはブルブルという振動を上着越しに感じる。振り返るとフィンが今にも泣き出しそうな顔になっている。


「フィン、平四郎って探している男だね」

 

 コクコクと頷くフィン。もう顔が真っ赤である。大変な犠牲を払って呼び寄せたのに、何かの手違いで座標軸がずれて行方不明になった勇者なのだ。実際のところ、ミートはこれから行われることにその異世界から来た男が役に立つとは思えなかったが、親友のフィンが必死なので協力しているのであった。


(別にどってことない男じゃないか。まあ、顔はフィン好みだし、イケメンと言えなくはないけれど……)


 ミートとしてはもっと大人で筋肉モリモリのたくましい感じの男が好みだったから、平四郎が普通の青年に見えた。異世界から来た天才マイスターだとフィンは言っていたけれど、空中武装艦の整備ができるマイスターが天才だからといって状況が変わるとは思えないのは、豊満ボディの割には冷静沈着な副官としての意見であった。


「初めまして。私は第5魔法艦隊所属……」

「ミート・スザク少尉でしょ。さっき、親方に話していたのを聞きました東郷平四郎です」


 平四郎はそう言って右手を出した。握手である。この世界でも初対面の人間に挨拶がわりで握手する習慣があった。ただ、相手が若い女の子でもするかどうかは微妙であったが、ミート少尉はおずおずと右手を出す。そして後ろを振り返った。


「フィン、あなたが夢にまで見た人よ。フィン!」

 フィンは両手で顔を覆っている。耳が真っ赤だからおそらく異様なくらい赤面しているはずだ。ミート少尉は親友の状況を大体理解した。


「フィンちゃん……だよね」

 

 平四郎はミート少尉の背中に隠れている銀髪の美少女に声をかける。銀髪の美少女はそれに応えてやっと蚊の鳴くような声で声をふりしぼった。


「フィン……アクエリアスです……」

「ど、どうしたの? フィン? いくら、男の人の前で緊張すると言っても……」

 

 モジモジしてそれ以上話さない銀髪少女にオレンジ髪の少女が助け舟を出す。


「フィンは第5公女。第5魔法艦隊提督なのよ。一応、この国では偉い人扱いだけど、そんなことは気にしないでとのこと。それで、担当直入に言うわ」

 

 ミート少尉は目がクリッとした可愛い顔である。何より、大きな巨乳が動くたびにバイン、バインと揺れる。だが、平四郎はそんなセクシーなミート少尉より、スレンダーで清楚な佇まいのフィンの方に目がクギ付けであった。


「フ、フィンちゃんだよね? 小学生の時に……」

 平四郎がそう言いかけると、清楚な軍服少女の顔がさらに真っ赤に染まっていく。ピンクをを通り越して赤だるまが爆発しそうな勢いだ。


「う、うう……」

 

 突然、涙目になったフィンが部屋をものすごい勢いで飛び出して行ってしまったではないか。慌ててミート少尉が後を追いかけていく。みんなあっけに取られてその場でフリーズした。



 10分後ぐらいして、渋々、ミート少尉が戻って来た。宿舎の部屋にこもって出てこないという。

「フィンの馬鹿。やっと会えたというのに恥ずかしくて会えないってなんなの!」


「はあ……」


 待っていたバルド商会の面々もため息しかでない。何だか非常に残念な空気が漂う。


「しょうがない。ここは副官の責務を果たさないと。一応、確認させてもらう」


 ミート少尉は両手を腰に当てて、顔を前に倒して平四郎に接近する。


「あなたの名前は東郷平四郎で間違いない?」

「あ、ああ」


「で、異世界、えっと、日本だったかな? そこから来たということで」

「一応そうだけど……」


「年齢は21歳っと」

「な、なんで知ってるんだ?」


「あんたのことは調べがついている。一応、別人だと困るので確認しているだけ。この世界に召喚されて気の毒とは思うけど」

 

 コクコクと平四郎は頷いた。この異世界に平四郎を召喚したというなら、迷惑をかけられているのは平四郎の方だ。


「で、あんたは12歳ぐらいの時にフィンに会ってるよね」

「あ、ああ。会ってる」


「はい。決まり。あんたを今から第5魔法艦隊専属マイスターに任命します。身分は国軍少佐相当。これはメイフィア国軍特別条項規則に則り、第5公女フィン・アクエリアスの名のもとに発令される特別人事だ。私たちと共にパンティオン・ジャッジを戦い抜こう」


「はあ?」


 

突然の美少女の申し出……。メインヒロインはどこかへ行ってしまうし……。

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