第12話 高速巡洋艦レーヴァテインの秘密(1)
第5魔法艦隊の奇跡的な勝利と第2魔法艦隊が第3魔法艦隊に敗れるというニュースは瞬く間に魔法国家メイフィアを駆け巡った。第3魔法艦隊が第2魔法艦隊を打ち破ることができたのは、第2魔法艦隊がMクラスのドラゴンと死闘を演じ、かなり戦力を失っていたことが原因であったが、経済界を牛耳り、マスコミにも力が及ぶベルモント家の威光が働いてか、そのことは一切国民には知らされなかった。
だが、第12パトロール艦隊の生き残りの兵士が帰還するにつれて、第3魔法艦隊の卑怯な振る舞いは少しずつであるが国民の知るところとなっていった。
「ローザ、ローザはいるか!」
首都クロービスにある広大な邸宅で、ベルモント財閥総帥フェルナンド・ベルモントが愛娘を探していた。ローザの父である。
ローザは第2魔法艦隊との戦いを終えて帰投し、昨日まで連夜のパーティを繰り広げて馬鹿騒ぎをしていた。パーティ疲れでソファに寝転び、うたた寝をしている娘を見つけたフェルナンドは、バカ娘をたたき起こした。
「なあに? パパ」
目をこすり、あくびをしながらローザは目を開けて体を伸ばした。
「お前、第2公女リメルダ様に卑怯な手で勝ったそうだな?」
「ああ、そのこと?」
「第2魔法艦隊は第12パトロール艦隊の救援に行き、見事にM級のドラゴンを退けたのに、お前はその直後に傷ついた第2魔法艦隊を襲ったと聞いたが?」
「はい、そうですわ。千載一遇のチャンスでしたから」
「……。さらに、レジェンドフォレストに落下したリメルダ様を救出せずにさっさと帰ったと聞いたが?」
「あれは、彼女が逃げたからですわ。逃げたものを探すことなんてできませんわ」
プルプルとフェルナンドは体を震わせた。彼は現在60歳を超えており、ローザは長いこと子供ができなかったところに生まれたたった一人の後継であった。そのせいか、幼少の頃より猫可愛がりに可愛がりすぎたところがあり、育て方を間違ったと最近やっと理解できるまでになったが、それでもバカ娘が引き起こす問題の尻拭いに奔走してしまうバカ親からは卒業できていなかった。
「ば、馬鹿者! 世間でお前がなんと言われておるのか分かっているのか!」
「庶民は馬鹿ですから噂もすぐ消えますわ。現にマスコミは何も報道していないんじゃない?」
「それはわしが抑えておるからこそだ。それにリメルダ様を救出しなかったことは、貴族の中で問題になっている。なあ、ローザ、もう提督ごっこはやめて家でおとなしくしておいてくれ」
「やだやだ、ローたん、そんなのつまらない!」
「パンティオン・ジャッジは遊びではない。この世界を救うための予選会なのだ。お前のような遊びで参加など、全世界の危機に許されない」
ローザは小さな子供が欲しいものを買ってもらえない時に、ぷく~っと膨れて機嫌悪く起こる時の表情になる。
「パパはローたんが世界の救世主になることに反対なんだ。もうパパのこと嫌い!」
そう言われてフェルナンドはひるんだ。経営の鬼と言われ、非情な判断を次々と下して大きくしてきた巨大財閥の総帥も娘には大甘の大甘ちゃんになっていた。
「そんなことを言わないでくれ。お前に嫌われたら、パパは生きていけない」
ローザの豊かな金髪もクリクリした大きな目も今はなき妻そっくりであり、フェルディナンドは娘を通して最愛の妻を思い出していた。
そもそも、このパンティオン・ジャッジに娘が選ばれたのも財閥の豊富な資金を動員してのこと。本来、ローザ程度の魔力では都市の代表程度にはなれても国の代表には遠く及ばない。順位的には40番台だった娘を3位まで上げるのに一体どれだけお金を使ったことだろう。
「ねえ、パパ。マリー王女様の旗艦コーデリアⅢ世並の魔法障壁を構築するのに、あと10万ダカットが必要なの。改造費お父様のツケでいい?」
「じゅ、じゅうまんダカットだと!?」
10万ダカットは現代日本の10億円相当に当たる。このパンティオン・ジャッジのために娘につぎ込んだお金はすでに百億円に達していた。さすがにポケットマネーで何とかできるような金額ではない。
「ねえ……買ってよ、パパ。それとも可愛い娘が惨めに負ける姿を見たいの?」
そう言われるとバカ親父の性がフェルナンドの理性を侵食していく。
「仕方がない。旗艦の改造費はパパが支払う。だがなローザ。お遊びは決勝戦までだ。我が国の代表はマリー様にやっていただき、お前は代表になってはいかんぞ。ドラゴンと戦うなんてそんな恐ろしいことをやって欲しくない」
「わかってるわよ、パパ。さすがにローたんもあんな怪物と戦うなんて面倒だわ!
マリー様とよい戦いができればいいわ」
(はあ~っ)
フェルナンドは安堵のため息をついた。娘の気まぐれに付き合うのはいいが、危険なことは絶対させたくなかったのだ。この時、彼は既に、ローザがリメルダを卑怯な手で勝ち、救出しないで帰ってきた大失態を咎めに来たことを忘れてしまっていた。




