第11話 リメルダさんピンチです!(4)
爆風がリメルダの上着をはためかせる。
(チラチラ見える……何が?)
そして爆風で白い布が飛ばされていく。それは黒煙を上げる盗賊団のアジトと森の緑の色、青い空の色に見事マッチしてひらひらと舞っていた。
「あなたに密着した時に少し魔力を頂いたのよ。少しだけでこれだけの威力。さすが、平四郎ね。わたしが見込んだ男だけはあるわ!」
リメルダさん、先程まで泣いていたのに、完全に調子を取り戻したようだ。ちょっと意地悪そうな目つきに輝きが戻ってきた。
「よかった、公女ちゃん、貞操は失っていないみたいだにゃ」
トラ吉が余計なことを言う。
「な、なんてこと言うの! この馬鹿ネコ」
リメルダが持っていた対戦車ランチャーを振り回す。とっさに避けたトラ吉は、いつもの悪ふざけの妖精力の風を起こしてしまった。いつもより強い風がリメルダの羽織っている平四郎の上着を吹き飛ばす。仁王立ちしているスッポンポン女子が一名そこにいた。
実は先ほどの爆風でリメルダが唯一身につけていたパンツが飛んだのだ。ベックの奴がナイフで切れ目を入れていたので一瞬で破れたのであろう。
自分が下半身丸裸であることに気づき、かっちり3秒は固まったリメルダ。だんだん、体に熱を帯びてくる。そしてプルプルと体を震わせた。
「へ、平四郎、ネコ……見たよね?」
「……は、はい」
「ばっちりだにゃ。公女様。ちっちゃいのごちそうさまだにゃ!」
「……。」
(沈黙五秒、トラ吉が取りに行った上着を再び羽織らせてから、さらに五秒)
「と、取ってもらいます!」
「何を?」
「責任を取ってもらいます!」
「え?」
「平四郎は、私の裸を見ました。それにお尻も触りました。胸の感触も味わったはずです! 公爵令嬢で、この国の第2公女にそのようなことをしたのです! 責任を取って、私をお嫁にもらってくださいまし!」
「はああああ? そ、そんな決まりがあるのか?」
「あります! ありますとも! 今、この私が決めました! あなたは、私の夫で
す。お父様に紹介しますから、クロービスの屋敷まで一緒に行きましょう」
「いや、ちょっと待てよ。話を勝手に進めないで……。裸を見たなら、あの盗賊だって候補だろうが? それにトラ吉も」
「あの下衆は死にました。猫は論外です。平四郎、結婚してくれないなら、あなたも殺します!」
「こ、怖いこと言うなよ!」
「それくらい私は真剣なんです!」
「ダメだ。君とは結婚できない」
「ど、どうして? この私がこんなに頼んでいるのに!」
「僕は、僕はフィンが、フィンちゃんが好きなんだ。もう結婚の約束もしてるんだ! だから、君とは結婚できない!」
平四郎は男らしくはっきり言った。こういう強引な女の子にははっきり言うのが一番だ。でも、リメルダの返事は平四郎の予想を覆した。
「じゃあ、2号さんで構わない。側室でいい。あんな娘より、私の方がずっと魅力的だから、最初はそれでいいわ。うん、それで決定!」
この異世界トリスタンの男女関係はどうやら特殊のようだ。平四郎には全く理解ができないが、そんなこと許されるのなら、ますますピンチだ。
「いや、それはちょっと」
「それもダメなの?」
「うん。それはできない。フィンちゃんを裏切りたくないんだ」
そうはっきり告げられたリメルダは、両手で顔を覆った。
「びえええええええええええっんんんんん~。平四郎に振られた~。側室でもダメなんて、私、なんてダメな女なんだろう~。もう、女として魅力がないんだわ。それなら、ここで死んでやる~。アンドリュー家の娘として結婚前の裸を見られた恥辱は死をもって注ぐのみ~」
なんて泣き叫びながら、どこからか取り出した銃を(裸なのにどこで手に入れた? どこに隠してた?)こめかみに当てるものだから、慌てて取り上げる。気丈な女の子のこの豹変に女慣れしていない平四郎はオタオタしてしまう。
「いや、君は魅力的だよ。長い黒髪で美人だし、スタイルもスレンダーでいいし。きっと、君を好きになってくれる男はいるよ」
「びえええええええんん……。そんなこと言って、平四郎は私のこと嫌いなんだわ。口では何とでも言える。私のこと、好き? 嫌い?」
「いや、好き、嫌いって……嫌いじゃないけど」
「じゃあ、友達になって。友達からでいい」
「そ、それなら……」
平四郎はため息をついてそう言わざるを得ない。
ぱあ~っとリメルダの顔が笑顔になる。あまりの可愛さに平四郎はドキッとしてしまう。
「ありがとう! 平四郎。今日から、私はあなたのガールフレンド! 彼女よ!」
「へ?」
「友達なら、私は女ですからガールフレンドですよね」
「まあ、そうだけど。彼女って」
「ガールフレンド=彼女でしょ?」
「え? ええええええっ?」
「大丈夫。本妻とはうまくやる自信ありますから」
上空の砲艦からライトが点滅して降下の合図がされる。上空を見るとさらに駆逐艦が数隻近づいてくるのが見えた、国軍のパトロール艦隊が救出に来てくれたのであろう。生き残ったならず者たちはひとり残らず逮捕され、罪に見合った罰を受けることになる。




