第10話 リメルダ艦隊の危機(4)
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前を航行する傷ついた戦列艦オパールローズが爆発する。振動で旗艦ブルーピクシーも揺れる。リメルダは思わずカップを落とした。床に落ちて割れてお茶が飛び散る。
第3魔法艦隊が攻撃してきたのだ。そうパンティオンジャッジ中であり、公女の艦隊はお互いに代表権をかけて戦っている最中なのだ。
通常、第5魔法艦隊が順に勝ち上がっていくのであるが、途中の艦隊が上の艦隊に戦いを挑んでもルール上は許された。第3魔法艦隊は、下から勝ち上てくる4ないし、5魔法艦隊と戦い、その戦力と経験値でもって第2魔法艦隊に挑むのが定石であったのだが、今の状況を見て方針転換したに違いない。
第2魔法艦隊はドラゴンとの戦闘でその戦力の大半を失っていたのだ。そしてデストリガーを使ったリメルダも魔力が枯渇していた。提督の魔力が十分でない状態の艦隊をここでトドメを指すのは簡単であった。だが、それはルール上許されても、人として許されない行為でもあった。かなり卑怯なのである。
「第3魔法艦隊旗艦、クイーンエメラルドにつなぎなさい!」
リメルダは通信兵に命令する。ほどなく、魔法通信で提督ローザ・ベルモントが艦橋のスクリーンに映し出された。リメルダが着ている魔法艦隊士官用の軍服ではなく、豪華なパーティードレスをアレンジしたオリジナルの提督服。リメルダに言わせれば、(ふざけんな!)というような遊び心満載の軍服? なのだ。そして、彼女の周りを7人のイケメン男子がちゃらい格好で取り囲んでいる。しかも、この女。いい年して、自分を名前で呼ぶ。しかも(ローたん)と呼ぶのだ。
「これはどういうこと! ローザ第3公女」
「あら、お怒りのようですわね。ドラゴンにひどくやられてご機嫌斜めかしら?」
「当たり前です。こちらは対ドラゴンとの戦闘で大半の戦力を失ったのです」
「そのようですわね。おかげでローたん、楽に勝てますわ」
「卑怯とは思わないの!」
「思いませんわねえ。ローたんの目に映るのは千載一遇のチャンス。こういうのをあれ? なんていうのかしら?」
「お嬢様。こういうのをサルも木から落ちるというのです」
「いえ、お嬢様。蓼食う虫も好き好きです」
「いやいや、虎穴にいらずんば孤児を得ずです」
周りのイケメンたちがフォローするが、残念ながら顔だけで教養はないようだ。
リメルダはそれが余計に腹が立つ。このパンティオンジャッジは遊びではないのだ。人類の危機を救うための神聖な戦いなのだ。
「こんなことで勝っても、国民はあなたをあざ笑うでしょう」
抑揚のない声でリメルダはそう言った。人類を救うための崇高な行いを汚す人間とは真剣に話したくない。
「ふふふ。勝てばいいのです。それにこんなこと、お父様のお金の力でいくらでも改変できますわ。あなたはここで終わりなさい。まあ、撃沈するのはかわいそうだから、適度にダメージを与えておくわ。艦隊は全滅させてもらいます。これでローたんは、マリー王女様だけがターゲットとなりますわ。ホーホホッホ……」
高笑いと共に通信が途切れた。と同時に第3魔法艦隊からすさまじい砲撃が開始される。ドラゴンとの戦いに傷ついた第2魔法艦隊はなす術がない。
「戦列艦からレベル7ファイヤーボム3発来ます!シールドがもちません!」
「魔法魚雷1発、後部に着弾、浮力低下……」
「姫さま、このままでは全滅です!」
ナアムがリメルダに叫ぶ。リメルダは決心した。ここで意地を張って全滅しても意味がない。少しでも戦力を逃がし、再起を図ることだと。それには艦隊を解散し、各艦がそれぞれで逃げることだ。
「第2魔法艦隊の指揮を解除する。有人艦は各自の判断で戦場を離脱せよ。航行不能になった艦は降伏しなさい」
そう命令を伝える。すると各艦の艦長から、
「降伏して、第3魔法艦隊に編入されるぐらいなら、自爆します!」
「最後まで戦って、少しでも卑怯者にダメージを与えたいと思います!」
と返答が入る。リメルダは彼らの思いに感謝したが、これ以上、自分に従う者たちに死んで欲しくはなかった。
「ダメです! これは命令です!」
リメルダは各艦長に逃げるよう再命令するが、誰ひとりとして聞かない。みんなリメルダのことが好きで忠誠を誓っているのだ。
「提督、最初の解散命令は受諾しています。もはや、我々は提督の指揮下にはありません。我々は自由意思で戦うのです」
「あなたたち……」
「我々はリメルダ様が、パンティオン・ジャッジに勝利し、人類を救う方だと信じております。ここで艦隊は潰えたとしても、あなた様なら、どんな形でもドラゴンどもを狩って、この世界を守ることができると信じています」
熱い気持ちが胸いっぱいに広がり、リメルダは声が出ない。目が潤んで涙が溢れてくる。元部下の船が次々と第3魔法艦隊に破壊され、落ちていくが猛反撃で第3魔法艦隊の損害も出ている。
「姫さま、エアブレイドレベル9来ます! 直撃です!」
敵旗艦から発射された魔法弾がこちらに向かってくる。あれを受けたら、このブルーピクシーの装甲では耐えられない。もはや、これまで……と思ったリメルダは思わず目をつむる。
だが、それは割って入った味方の戦列艦ナイトローズに当たった。巨大な戦列艦が破壊され、爆発炎上して落ちていく。
落ちながらも艦橋で、こちらに向かって敬礼している乗組員の姿が見えた。
「ば、馬鹿なんだから…あなたたち…」
リメルダは胸が詰まって言葉が続かない。自分を慕う部下に何もできない自分が情けなくて悔しかった。
「姫さま、ブルーピクシーの被害も甚大です。浮力ユニットが破壊され、これ以上、浮いてられません。森に不時着するしかありません」
ナアムがそう叫ぶ。もはや、船のコントロールは不能であり、持てる魔力を総動員して船の行方をごまかす魔法と存在をしばらく消す魔法を駆使して広大なレジェンドフォレストと呼ばれる森の中へと不時着していった。
逃げ惑う第2魔法艦隊とコントロールを失ってめちゃくちゃに行動する無人艦を撃破、拿捕した第3魔法艦隊であったが、ついに不時着した旗艦ブルーピクシーを発見することはできなかった。
「まあいいわ。旗艦を撃沈しないと正式に勝ったとは言えないけれど、これで第2魔法艦隊は消滅。パンティオン・ジャッジでは、ローたんの敵にはならないわ。全艦、引き上げますわよ。この付近は何だか嫌な感じだわ。ローたん、ドラゴンと戦うのはゴメンですから」
ローザ・ベルモントは、旗艦を撃沈し、第2公女リメルダを捕らえて自分の前にひざまづかせたかったが、それよりもさっさと帰ってくつろぐことを優先した。窮屈な空中戦艦暮らしで、派手なパーティが開けなくて機嫌が悪かったのだ。この快勝をネタに遊び友達を大勢呼んで夜通しパーティをしたい気分になったのだ.
「提督、戦った相手の救出は勝者の義務です。墜落したブルーピクシーを捜索して救出するべきです」
そう参謀のリンツ中佐がローザに進言した。ローザの第3魔法艦隊は軍隊から引き抜いたはえぬきの軍人で構成されている。魔力の弱いローザは全艦船が有人であり、多くの職業軍人が雇われていた。
「なに熱くなっているの? それは彼女が降伏して助けを求めて来たら……でしょ。逃げていたものを追って助けてやる義務はないわ。中佐、ローたんは今日中に帰ってパーティをしたいの! 貴族女を探す時間なんてないわ!」
リンツ中佐を始め、艦橋で仕事をしている軍人は、このブルジョア娘の言動に憤りを感じていた。そもそも、相手が弱っているところを叩く事自体、苦々しく思っていたのに、救出をせずにこの命令だ。正義感あふれる軍人ほど、この女を怒鳴りつけたい気分であった。
「提督、このレジェンドフォレストは、未だ国軍が制圧していないゲリラの支配地です。第2公女の身が危険に晒されます。すぐ救出に向かいましょう」
「しつこいわね!リンツ中佐、あなた病気のお嬢さんがいたわよね。特殊な病気でお金がかかるって聞いてますけど……。今、ローたんに逆らってクビになったら困るんじゃなくて? 国軍の中佐の給料じゃ、治療費が支払えないと思うのですけど」
リンツ中佐は言葉が出ない。家族を引き合いに出すとはどこまで卑怯な娘であろう。彼女の場合、これらの行為を卑怯と感じてないところが余計に頭にくる。裕福で小さい頃からわがままし放題で育ってきた結果であろう。
こういう人間に何を言っても仕方がない。ローザの親衛隊の青年数人が彼女を取り囲んで、一緒にリンツ中佐らを睨みつけるので、もはや命令に抗うことはできない。下手すると上官の命令に背いた罪で軍法会議にかけられかねない。
「分かりました」
そうリンツ中佐は言ったが、それでも打つだけの手は打った。ローザには内緒で救援要請を近くの艦隊へ打診したのだった。




