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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
6/201

第2話 バルド商会にて(1)

「おやっさん、いい若者が入ったね。どこで見つけたんだね」

「ふふん。内緒だ。わしは思ったね。奴を見たとき、コイツは天才だとね」

 

 そうバルドは常連客の船長とソファで会話をしている。カウンターでは客と船のカスタマイズプランの相談を平四郎が慣れた様子で進めている。設計図に赤鉛筆で記入し、時折、計算機で計算して数字を書き込みながら、熱心に説明をしている。

 

 バルドはドラゴンハンターを主な顧客にしている空中武装艦の中古パーツショップ、バルド商会を経営している。国軍の下げ渡しの武器やパーツを仕入れ、それを顧客に売りつける。ものがものだけに儲けも大きく、さらに最近、ドラゴンがよく出没するとかでハンターの客も増えて商売は繁盛していた。特に3ヶ月前に平四郎と出会って、彼が仕事を覚えると共に、客が増えてきた。

 

 この世界のことを全く知らない平四郎であったが、空中武装艦の仕組みはすぐ理解し、その整備もすぐに覚えた。何故か言葉の壁がなく、この国の言語であるメイフィア語が理解できて、話せることが大きかった。驚いたことに文字まで読めるのだ。

 空中武装艦に限らず、空中艦の整備をするには専門教育を2年は最低受け、現場の整備工場えあどっくでみっちりと修行して10年で一人前と言われる。それなのに平四郎は1ヶ月で基礎を覚えると3ヶ月後の現在では、自分の代わりに顧客の船のカスタマイズプランを提示し、そのように船を改造するまでになった。

 バルドは思った。

(こいつは天才だ。それしか言い様がない)

 10年どころか20年以上の経験値を一瞬で身につけたということだ。この3ヶ月で教えたバルドの能力をほぼ受け継いだと言っていい。


(最初はあんな大きなものが空を飛ぶなんて信じられなかったけれど、要は浮遊石の力と魔力という名の電気が使われていると思えば原理は簡単)


 平四郎はこの世界に来て一番驚いたのは(浮遊石)という物質があることであった。これは、このトリスタンでは珍しくない物質で、石だけど重力を無視して空中に浮かんでいるのだ。その特殊な能力を抽出して空中艦は空に浮かんでいる。船はこの石の力をコントロールして上昇したり、下降したりすることができるのだ。


(まあ、昔で言えば水素ガスを使った飛行船といったところか。ガスが石に変わったと思えばいい)


 ちなみにこのトリスタンの住人は、全員、空に浮かんでいる浮遊大陸や浮遊島に住んでいる。それらは巨大な浮遊石の塊でできており、それで空中に浮かんでいるのだ。もちろん、地上には海と大陸があるが、過去の出来事で人が住めない場所になっているとのことであった。

 空中武装艦の整備、改造に夢中であった平四郎には、この世界のことはあまり知ろうとしなかったこともあって、この世界とりすたんのことは空中武装艦ほど知らなかった。


「ですから、ここで武装を増やすよりもエンジンをチューンして、スピードを20%上げることをお勧めします。主砲は二連装35インチバスター砲を載せるよりも、追尾型ミサイルランチャーを左右に載せた方が攻撃力は上がります」

「そうだな。平四郎くんに言われるとそうした方がいいような気もする」

 

 今日の客は中堅どころのドラゴンハンターである。船は旧式の駆逐艦クラスでドラゴンハンターの中では中々大きなクラスの船を所有していた。最近、ベイビー級のドラゴンを退治することができ、その報奨金で船を強化しにこのバルド商会にやってきたのだ。


「船長のところのメインターゲットはB級でしょ。それなら火力よりもスピードだと思います。昨日、軍から旧式のロケットランチャーシステムが2基入ったんです。今なら安く取り付けますよ。35インチバスター砲をつけてもいいですけど、魔力消費はバカになりません。数発の射撃で魔力切れで無用になる危険性もありますし」


 魔力という概念も現代の日本で暮らしていた平四郎には、にわかに理解できない現象ではあったが、これも持ち前の想像力で納得していた。要するに電気と同じと考えたのだ。魔力は魔法王国名メイフィアに住む人間は大抵持っている。人によって力の大小があり、その力をエネルギーとして活用することでこの国のインフラは成り立っていた。

 

 ちなみに平四郎の魔力は、バルドに拾われた時に一度計測したが、値は0ということで全くないということであった。この世界で魔力を持たないタウルンという国に住む人々ですら、10~50の魔力を計測できるというのにである。ちなみにメイフィアの住人の平均が500~1000。軍人などの訓練された人間が3000~5000。特権階級である貴族で10000前後というのが一般的らしい。空中武装艦を動かすには最低1000以上は必要と言われる。これも船の大きさ、装備に左右される。今日のお客の魔力は3860とかなり高いのだが、駆逐艦クラス船を動かし、さらに攻撃、防御にも魔力を使うとなると、乗組員の能力を合わせても攻撃に余裕があるわけでもなかった。


 35インチバスター砲は、メイフィアではかなりポピュラーな武器である。国軍の対ドラゴン用パトロール艦の主力武器であり、魔力の特性に応じて属性を変換し、攻撃することができる。属性に対する汎用性が優れており、またレベル5までの魔法弾射撃ができるとあって、ドラゴンハンターたちにとっては目標とするパーツなのである。


(だが、魔力消費が激しすぎる……)

 国軍の将軍クラスでも連続発射は10発撃てるかどうかだ。それなら、無理せずに魔力消費が少ないロケットランチャーによる魔法弾攻撃にした方がいいというのが平四郎の持論だ。その意見で船を改装し、着実に成果を挙げるハンターが出てきて平四郎の信用はうなぎのぼりであった。


「平にい。見積もりができたよ」


 ファイルを持ってきたのは、このバルド商会の看板娘ルキア。オレンジ色のクールフェミニン風のショートカットの髪に作業帽をかぶっている。作業帽からぴょんとアホ毛が一本飛び出しているところはご愛嬌というものだろう。年齢は十五歳でバルドの一人娘なのだ。この商会の経理が主な仕事だが、それは父親のバルドがどんぶり勘定で商売するためにこのしっかり娘が財布の管理をしないとあっという間に経営が傾くからだ。


 バルドときたら生粋の職人気質なので、欲しいパーツがあると見境なく買い、気に入った船には商売抜きで取り付けてしまうのだから、誰かが歯止めをかけるしかない。母親は幼い時に病気でなくなっているから、小さい時から自立していた。家ではバルドの世話から、商会では従業員への昼のまかない作りから経理、それにメカニックの仕事までこなしている。スーパー16歳なのだ。


 つなぎの作業着を愛用していることから察するとおり、ルキア自身は空中艦いじりが大好きなようで経理や仕入れよりも一日中メカをいじっていたい性分であった。

 パラパラと書類をめくって平四郎がチェックをする。ルキアの仕事は大抵完璧だが、それでもミスは誰にでもある。それをしないようにするためのチェックだ。


「ランチャーの規格はⅢ型駆逐艦のものだから、ジョイントするのに加工しないといけない。ブッシュ類の交換が必要だが廃艦のパーツがあったからあれを使おう。新品使うと値段が上がるからね。部品の手配はしてあるの?」

「平にい、そこは抜かりないよ」

「よろしい」

 平四郎はポスッとルキアの頭に軽く触れた。いつもの褒める時の仕草だ。ルキアは嬉しそうにしている。


「お前さんとこ、後継ができたみたいだな……」

 客が微笑ましそうに二人の様子を見てつぶやいた。バルドは思わず、茶を吹きこぼす。


「ゴホゴホッ……。馬鹿言ってんじゃねえ。ルキアはまだ16だ」

「平四郎はいくつなんだ?」

「奴は21とか言っていたが、それを証明する術はない。平四郎は別世界から来たと言ってるが、本当のところはどうのか俺では分からん」

「それって、ゲートじゃないのか?」

 

 客が驚いてそうバルドに言った。ゲートとは異世界から召喚する魔法。たくさんの魔道士の力と費用をかけてこの世界に必要な人間を召喚したり、こちらから別世界に行ったりするものだ。個人レベルでできるものではない。


「ゲートってことは、パンティオン・ジャッジのために呼ばれた勇者ということもある」

 

 客の男はしたり顔でそう言った。パンティオン・ジャッジというのはこれからこの世界で始まる人類存亡をかけた一種の儀式なのである。

 

 このトリスタンは500年ごとに災厄に見舞われる。それはトリスタンに住む生物の90%の生命を奪う。1000年前の災厄では、地上の大陸は破壊と汚染で人が住めなくなり、海も腐海と呼ばれるものになってしまった。生き残った人類は、かろうじて浮遊大陸に逃れ、500年の歳月を経て何とか今の文明を取り戻したと言われる。だが、その次の500年で浮遊大陸に築いた文明も破壊され、また、一から作り直したとされている。

 そして、その500年ごとの災厄の度に人類が生き残ることができたのは、異世界から来た人間の存在があったと言い伝えられている。


 人々はその異世界人を「勇者」と呼んでいた。今のメイフィア王国の祖先はその勇者の子孫であると言い伝えられていた。バルドはメイフィア人なら小さい頃に学校で教えられる歴史を思い出したが、それと平四郎がリンクすると考えただけで馬鹿らしいと思った。


「ははははっ……。平四郎は確かにすごい奴だ。だが、奴はメカニックの天才に過ぎない。勇者なんてことがあるものか。まあ、異世界から紛れ込むという現象は珍しいがないわけじゃない。現に機械国家タウルンはそういう人間が集まってできた国だし。平四郎もそういう類さ。魔力がないのが何よりの証拠」


「ふむ。まあ、普通に考えればそうだが。だが、お前、ルキアちゃんに婿を取らんわけにはいかんだろ」


「そりゃ、今はまだ早いが、婿というなら平四郎が一番候補だろうな。わしの目に適う男は今のところ、奴しかいない。まだまだ修行がいるがな。がはははっ……」


 バルドは右手でパンパンと自分の後頭部を叩いてそう笑った。ルキアはしっかりしている娘だが、まだ、幼いとバルドは思っている。お兄ちゃんと呼んで平四郎とはまんざらでもないようだが、色気も素っ気もない作業着で平気で接しているところを見ると、まだまだ、色恋沙汰には程遠いだろう。


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