第10話 リメルダ艦隊の危機(1)
おはようございます。なんと3000人超えましたw
驚きだあああw 感想、お待ちしてます。気軽にどうぞ。今後の展開の参考にさせていただきます。
「提督、エアズロック空戦の結果が出ました」
そう副官に告げられて第2魔法艦隊提督リメルダ・アンドリュー公爵令嬢は、少しだけ緊張した面持ちで、ちょっと険のあるつり上がった目で彼を見た。士官学校を出たばかりの若き少尉である副官は、自分が仕えることになった上官が、美人の女性でよかったと心から思った。
「で、その結果は?」
「提督、驚いたことに、第5魔法艦隊の勝利との報告です」
リメルダは一瞬だけ、ホッとしたような表情を浮かべたが、すぐ厳しい顔に戻して副官に詳細を報告させる。聞きながら、だんだん、顔がにやけてきてしまうことを止められないでいた。
「姫様、うれしそうですね」
そう艦長のケット・シー族のナアムが、リメルダに話しかけてくる。リメルダは慌てて、顔を引き締めると、いつものツンに戻った。
「ナアム、私がいつ嬉しがりましたか? あの男の無事を嬉しがるようなことは絶対ないわ! 私がプレゼントしたリフレクトコーティングが役に立ったことはよいことだけど」
「クスクス……」
「何、笑っているの? ナアム!」
「いえ、姫さま。わたくし、男の方の話など一切していませんよ。姫様が、レーヴァテインの艦長の男に惚れているのはわかりますが」
「ば、馬鹿にしないで! なんで、私が……あんな、奴のことを!」
「でも、姫さま。この戦いぶりを見れば、異世界から来た勇者の能力はすばらしいですね」
「そ、そりゃそうよ。この私が唯一認める男ですから」
「姫さま。いつ、平四郎さんを認めたのですか?」
ケットシーのナアムはそうリメルダにツッコミを入れる。この友人である公爵令嬢とは気が合い、共に行動をしているが、いつもツッコミ役はナアムの仕事だ。
「ナアム、あなた、いつからそんな意地悪になったの?」
「意地悪じゃありません。姫様が素直じゃないからです」
「……ふん。いいわ、勝手にしなさい。あんな男なんか、私は気になどかけていませんから」
「はいはい」
ナアムは誰がどう見てもツンデレ的な態度としか見えない友人を温かく見守ることにした。そして、現在の艦隊の状況を報告する。
「我が第2魔法艦隊は、艦隊演習のために出撃していますが、後方、80キロに第3魔法艦隊が追従しています」
リメルダは露骨に怪訝な顔をした。第3魔法艦隊といえば、ベルモント財閥の令嬢ローザが率いる艦隊だ。金にものを言わせた艦隊で装備と空中武装艦の数では第2魔法艦隊を上回っていた。だが、ローザ自身の魔力はリメルダよりも下であったから、リメルダはローザを脅威には思っていなかった。
「どういうつもりかしら? まさか、私たちに戦いを仕掛けるつもりじゃあないよね」
「どうでしょう? この距離では攻撃してくるのに40分はかかりますし、スピードを上げている素振りもありません」
パンティオン・ジャッジは、トーナメント戦であり通常は、第4魔法艦隊に勝った第5魔法艦隊が第3魔法艦隊と戦う。だが、それは決まりではなく、第3魔法艦隊が第2魔法艦隊に攻撃してきてもルール違反ではない。ただ、その可能性はかなり低かった。普通に戦っては、格上の第2魔法艦隊に勝てる可能性は低い。下の艦隊と戦い、その戦力を吸収してレベルを上げて向かってくるのが定石である。
ただ、今回の第3魔法艦隊は、大財閥の令嬢であるローザ・ベルモントが指揮するだけあって、豊富な資金力で戦力的には互角であった。
(ただ、私の旗艦を倒すにはまだ力不足よ。いくら魔法アイテムで強化しようが、所詮は勝ち負けは魔力の勝負。私のブルーピクシーは撃沈できませんわ)
第2魔法艦隊旗艦であるブルーピクシーは、戦列艦ではない。全長は165mと巡洋艦クラスであるが、探知魔法の能力に優れ、対ドラゴンの切り札であるデストリガーを放ちやすくした構造で、通常の火力である主砲が装備されていないという大胆な艦であった。
搭載された武器は、威嚇用の機関砲とマジックミサイル発射管がある程度である。情報を的確に集め、それを分析して味方艦隊の能力を最大に生かすという点では、現代のイージス艦ともいうべき船であった。艦隊としては戦列艦を4隻配備しているので第5艦隊とは違い、旗艦が戦列艦でなくても十分であった。
「リメルダ提督、前方東のクラーケン山脈地帯で第12パトロール艦隊から通信が入りました」
通信士がそうリメルダに報告をする。少し、興奮して声が上ずっていた。リメルダはその声の気配でただらぬ状況を感じ取った。
「何?」
「我、ドラゴンと遭遇。至急、援軍を乞うと!」
「ドラゴンのレベルは?」
「不明です」
艦長のナアムが、リメルダにある可能性を告げる。
「姫さま、クラーケン山岳地帯の麓には、第3の都市バーニングカムがあります。パトロール艦隊の手に負えないとしたら、レベルはM以上の可能性があります」
「近くに打撃艦隊は航行していないの?」
「ダメです。第12パトロール艦隊の他には、我が艦隊が最も近い位置です」
打撃艦隊というのは、メイフィア国軍の中で最強装備を誇る魔法艦隊のことで、レベルS以上のドラゴンを討伐するために編成されていた。メイフィアにはこの打撃艦隊は3個艦隊配備されていたが、この打撃艦隊に相当する、いや、それ以上の戦力をもつのが公女率いる魔法艦隊である。パンティオン・ジャッジ中とはいえ、緊急事態に対処するのは当然であった。
(レベルMとなると、都市への被害が心配だわ……)
そう思ったリメルダは素早く次の行動を指示する。もう第3魔法艦隊の思惑については棚に上げることにした。人的被害が出るかもしれない危機にパンティオンジャッジどころではないであろう。
「ナアム、第2魔法艦隊は第12パトロール艦隊の救援に向かいます。後方のローザにも一応連絡しなさい」
第2魔法艦隊提督リメルダ・アンドリュー公爵令嬢は、そう告げるとすぐさま、全艦隊に最大戦速で救援に向かうように命じたのだった。




