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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
56/201

幕間 戦闘の後に……

「ここで解説者として、メイフィア王立大学教授で空中武装艦の権威、パンティオン・ジャッジの評議員もされているハウザー教授に解説をしていただきます。教授、この戦いについてどう思われますか」


 メイフィアTVの看板キャスターであるアンナ・ソフィーは、そうゲストで呼んだ変人で有名な男に意見を求めた。変人といってもそれは世間の噂であって、ハウザーは不良中年といった形容がぴったりの男であった。見た目もダンディ加えて女性には優しいので彼女は素敵だなといつも思っていた。

 ハウザーは2番カメラに一瞬視線を向けて、そのあと、アンナ・ソフィーに笑みを浮かべながら第5魔法艦隊の買った理由を語りだした。


「特に賞賛すべきことは、旗艦レーヴァテインの性能を最大に引き出し、その火力を十分に上げたことです。45インチバスター砲を1基装備したということですが、安易な火力増強はバランスを崩すことが多いものです。それをうまく調整したマイスターの腕が素晴らしいとしか言い様がない」


「なるほど……。素人考えでは強力な武装をたくさん付ければなんて考えてしまいますが、そんな単純なものではないのですね」


「そうですね。それにリフレクトコーティングの使い方が上手かった。この効果を最大限に利用するには、戦列艦の最大の攻撃であるデストリガーを撃たせる必要があります。第4魔法艦隊旗艦フォルテシモに相当なプレッシャーをかけて、リリム提督にデストリガーを撃たせた戦略も見事というしかない」


「第4魔法艦隊ははめられたというわけですか。これは異世界から召喚した東郷平四郎という勇者の力と言えますね。彼は我々の救世主となるのでしょうか?ハウザー教授」

 パンティオンジャッジは単なるショーではない。「竜の災厄」に対する人類の戦いの一環である事はアンナ・ソフィーは理解していた。その点は危機に疎い、国民に対する警告を発することがマスコミの仕事だと思っている。


「それは分かりませんが、第5魔法艦隊が今後、勝ち抜くには彼の力は欠かせないでしょうね。今後の活躍が楽しみです」


「そうですね。今後もこの異世界から来た勇者、トーゴーヘイシロウに注目です!これでニュースデリバリーの時間を終わります」


 そうメイフィアTVの美人キャスターが特別報道番組を締めくくった。コメントをしたハウザー教授はそっと魔法印が刻まれた小さな紙を彼女に手渡す。


「どう? 今晩、第5魔法艦隊に関する情報が欲しければ、私の宿泊するホテルに訪ねて来て欲しいのだが」


「情報って?」


「もちろん。次の第3魔法艦隊戦に彼らが取りうる作戦なんかの見解とか……。もちろん、情報量が多いので明日の朝までかかるかもしれないが」


「もう! 教授ったら……。いつも、激しいのだから。私は明日の朝の番組にも生出演するのだから、そんなに付き合えませんことよ」


「そうかな。君はタフだから、この業界でも生き残って今や看板キャスター。今後も一番になるためには、独自の情報網がいるのではないかな?」


「ふふふ……。相変わらず、女を口説くのがうまいわね。いいわ、お伺いするわ」


「待ってるよ」


 そう言うとハウザー教授はヒューっと口笛を吹いた。今晩も楽しい夜が迎えられそうだ。


(異世界から来た勇者。平四郎くんには想像以上の力あるようだ。彼を語る上で注目しなければいけないのは、彼が優秀なマイスターであり、そしてこの世界の住人では考えも及ばない発想力。それがこの世界を救うことにつながる)


「お兄ちゃん、救出してくれてありがと……」

 

 リリム・アスターシャは救難艇からレーヴァテインに乗り移り、救出してくれたお礼を平四郎に述べた。パンティオン・ジャッジでは、戦いが終了した後は敵対しないルールであったし、脱出した救難艇を救助するのが義務であったから、お礼を言われるまでもないのだが、やはり、救われた方としては言わざるを得ないだろう。


 だが、今回の戦いで第4魔法艦隊は、多数の戦死者を出している。助かったのは旗艦の艦橋にいた乗組員、リリムの幕僚、後、かろうじて撃沈しなかった戦列艦、巡洋艦の乗組員たちである。


(なあ、トラ吉。味方同士でこんな殺し合い、意味あるのか?)

 

 そう平四郎はトラ吉に話しかける。


「意味はあるにゃ。そしてメイフィア、いや、トリスタンの住人はみんな死に対する認識がこのパンティオン・ジャッジに関する場合は違うんだにゃ」


「どう違うんだ?」


「普通、戦争で殺されたりすると悲しむにゃ。そして殺した相手を憎むにゃ」


「それが普通だ。人間なら……」


「悲しむのは一緒だけど、決して相手は恨まないにゃ。なぜなら、パンティオン・ジャッジの勝者は世界を救うのだからにゃ。これもドラゴンと戦いのために必要なことなんだにゃ」


(そんなものでいいのか?)


 平四郎の疑問は晴れなかったが、正直、自分の作戦で第4魔法艦隊の兵士がたくさん死んでしまったことは間違いない。罪悪感で自分の心は張り裂けそうであった。だから、リリムちゃんの顔は見たくなかったのだが、これも艦長としての役割だから仕方がない。


「リリムちゃん、怪我はなかった?」


 そう平四郎は優しくリリムに声をかける。怪我はなさそうだが、リリムちゃんは下を向いて涙をポロポロと流した。平四郎は多くの部下を死なせてしまったことへの悲しみと思ったが、腹黒娘、リリム・アスターシャの心の中は、簡単に勝てた相手に完敗した自分の不甲斐なさと結果を出せなくて世間の評判が落ちることへの無念さでの涙であった。

 戦死した者は、所詮、パンティオン・ジャッジで死んだのだから、本望だろうし、自分を勝利に導けなかったのだから、死んで当然とまでこの腹黒娘は思っていた。


「ううううっ……」

 

 声にならない声で泣くリリムに平四郎は優しく頭を撫でなでした。こんな少女には過酷な戦いだったのだと彼は思い込んでいる。平四郎の態度に思わずリリムは流れで彼の胸に顔を寄せて涙した。

 

 しばらくの時間、リリムは不本意ながら異世界の男の胸で泣いてしまったが、そっと肩ごしに目をやると第5魔法艦隊提督フィン・アクエリアスが顔を真っ赤にし涙目でプルプル震えてる姿が目に入った。顔もぷくっと膨れている。


(これは?)

 

 腹黒娘、リリム・アスターシャはピンときた。彼女はまだ経験の少ない小娘であったが、こと男女の恋愛については異常なほど敏感に感じ取ることができた。一種の魔法能力なのかもしれない。


(女の子には恋の魔法があるのよ……)


 なんて、チンケな魔法少女モノのアニメなんかに出てきそうなセリフだが、リリムに関しては現実の能力と言えた。そして、この腹黒娘はこのシチュエーションで全てを理解し、そして、自分を貶めたこのバカップルに意地悪することを一瞬で思いついたのだった。


「ねえ、お兄ちゃん?」

 

 急に泣きやんだリリムちゃんがモジモジして平四郎の胸のボタンを指でくるくると撫で回す。


「な、なんだい? リリムちゃん」


 このアイドル少女。年端もいかぬ小娘ながら、時折、ドキっとする表情を見せる。歌手としてだけでなく、女優としての資質も備わっているのであろう。


「リリムは負けたのですよ」


 指だけでなく、腰もクネクネと動かす。左手は平四郎の腰に回してギュッと自分の体を押し付ける。


「負けた艦隊の公女は、勝った方のいいなりというのが決まりだけど」


(そう言えば、トラ吉がそんなことを言っていた。それがこの戦いのルールであった)


 負けた相手は、勝った方に従って今後も戦ったり、協力したりすることになるのだが、勝った相手のパートナーが男であった場合、望めば、負けた公女を嫁にすることもできる。これは250年前の英雄。現王家の始祖である異世界の男が、負けた公女をすべて側室にして、子供を設けて現在の王族につながる子孫を残した故事につながるのであるが、平四郎にはそんな気持ちはもちろんない。


 だが、平四郎は後ろから、ゴゴゴゴ……という重苦しいプレッシャーが起きた。平四郎はそのプレッシャーに慌てて、リリムに問い返す。


「あの、リリムちゃん。それはどう言うことで?」


「もうお兄ちゃん、鈍いよ。だ・か・ら……。リリムがお兄ちゃんのお嫁さんになってあげるってことよ」


 そう言って、リリムちゃんは平四郎の首に手を回して抱きついた。目は後方でギンギンに睨んでいるフィンを見ている。リリムは心の中で舌を出して挑発している。


「なんなら、愛人でもいいよ? ねえ、平四郎お兄ちゃん。リリム、眠たくなっちゃった。お兄ちゃんのベッドで寝ていい?」


「あ、あいじん? リリムちゃん、何言ってるの?」

 

 慌てて平四郎は場を取り繕う。リリムのような小さな子の口から出てくる単語ではない。


 ガタガタ……っと振動が起き始めた。


「レーヴァテイン、推進エネルギー低下中。艦長、魔力が下がってます」


 操舵手のカレラ中尉が叫ぶ。大破した第4魔法艦隊の残存艦を曳航している影響もあるが、明らかにフィンの魔力が不安定になっているのだ。


「リリムさんは、部屋を用意してあります。他の方々もお疲れのようですから、それぞれの部屋で休んでください」


 そう副官のミート少尉が促し、フィンのところに足を運ぶ。フィンをなだめてなんとか艦の推進エネルギーを保った。


(戦いには負けたけど、女の戦いには勝つよ。見てなさい、フィン・アクエリアス。あんたはこのリリムが泣かしてやる……)


 そう別部屋に移動するリリムは、次の自分の居場所を見つけた。腹黒娘のストレス解消のターゲットは、このバカップルに決定したようである。


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