第9話 VS第4魔法艦隊 エアズロック空中戦(5)
「さ、3番艦撃沈……うそ、物音立てずに隠れていたのに」
「平四郎くん、どうしよう」
ミート少尉とフィンが平四郎に不安げな視線を向ける。敵の分艦隊を全滅させたとはいえ、こちらも護衛駆逐艦を全て破壊されてしまった。浮遊石を縦にするゲリラ戦術を狙ったのに敵はこちらの位置を正確に掴んで集中砲火で岩ごと破壊する作戦に出てくるとは思わなかった。
だが、平四郎は焦っていなかった。先程からレーヴァテインは回避運動をしつつ、浮遊石地帯を移動していた。カレラ中尉の巧みな操船技術のおかげである。
第4魔法艦隊もレーヴァテインの動きに合わせて上空で動いているのが分かった。平四郎の狙い通りである。
「プリムちゃん、敵の位置は?」
「本艦の真上ですうううう……」
「ふふふ……。フィンちゃん、今からこちらのターンです」
「どうするのです?」
「トラ吉、やれ!」
「へい、旦那。ポッチとにゃ!」
トラ吉が携帯ボタンを押す。それはこのエリアの浮遊石に取り付けられたミサイル推進エンジンの起動スイッチである。平四郎に命ぜられたトラ吉とルキアが作業員と共に岩に仕掛けていたのだ。埋め込まれたロケットエンジンが火を吹き、巨大な浮遊石を上空へと押し上げた。それだけではない。ロケットエンジンがついていない岩も鎖を打ち込み、連結させていたから、その数はエンジンの数100だけではなかった。1000近くの浮遊石が上空に待機する第4魔法艦隊に襲いかかったのだ。
「リ、リリム提督、下方から浮遊石が!」
そう副官が告げると同時に第4魔法艦隊提督リリム・アスターシャが乗る旗艦フォルテシモが激しく揺れた。
岩が次々と艦体に当たるのだ。当たるだけならまだしも、巨大な岩に衝突した巡洋艦は真っ二つに裂け、岩と岩に挟まれた護衛駆逐艦は爆発して粉々になっていく。
「駆逐艦ウイル・スミス、爆発炎上。巡洋艦メゾピアノ撃沈、戦列艦ガダニーニ、大破」
「こ、こんなことって!」
次々と味方艦が破壊されていく報告が入る。艦橋から目に飛び込んで来くるのは味方艦が爆発して燃え落ちていく光景だ
「すぐさま、この空間から離脱しなさい!」
「無理です!移動しながら、交わすのは不可能です。魔法防御を固めてやり過ごすしかありません」
リリムの命令にタウンゼット大佐は専門家としても意見を述べる。普通なら思わぬ展開でパニックになってしまうのだが、さすがにタウンゼットは歴戦の軍人であった。だが、提督であるリリムの方が予想以上に慌てていた。
「巨大な岩相手では、その魔法防御は役にたたないよ。離脱よ。避けきれない岩は砲撃で破壊しなさい!」
リリムはそう叫ぶ。目の前で僚艦である戦列艦カンタービレに巨大な岩がぶつかり、なすすべもなく爆発したのを見て、半狂乱になる。
「提督の言う通りです。あんな岩が相手ではシールドが持ちません!」
副官のマネージャー女史がタウンゼット大佐に言った。タウンゼット大佐は迷った。リリムの言うことも分かる。火力の強大な戦列艦なら、ぶつかる岩を破壊して安全地帯まで脱出できるかもしれない。だが、それは傷ついた僚艦や火力の劣る巡洋艦や駆逐艦を見捨てるということになる。
(さらに……この状況を作ったのが敵ならば、移動先には罠があるはず。だけど、敵艦隊は浮遊石群の中に身を潜めていて、分艦隊と戦闘をしたから、こちらに現れるとは思えない)
「やむを得ません。旗艦フォルテシモ及び残存艦隊は、P-1空域に急速移動。邪魔な岩は各自、最大の魔法攻撃で破壊して進路を確保します」
タウンゼット大佐はそう全艦隊に命令する。
だが、現実はこの経験豊富な軍人の予想を上回っていた。浮遊石の嵐を避け切った第4魔法艦隊に向かって、攻撃が行われる。まさに高速巡洋艦ならではの移動である。エアズロックの中にいたはずのレーヴァテインはそこから脱出して上空へ出て、第4魔法艦隊が集結するポイントに現れたのだ。
「魔法魚雷他数、それに魔法弾!」
「シールド全開!」
タウンゼット大佐の命令が届くやいないや、凄まじい衝撃で彼もリリムも倒れこむ。ようやくこの空間に逃げ込んだ護衛の駆逐艦と巡洋艦が魚雷の直撃をくらって爆発炎上する。
「フォルテシモ、被弾!第1主砲、第3格納庫爆発炎上!」
「他の艦は?」
「この空間に逃げ込めたのは、駆逐艦レイ、軽巡洋艦マンダリンですが、直撃を受けて戦闘不能です」
「そんな……旗艦以外、ほぼ全滅なんて!」
「リリム提督、まだ、諦めるのは早いです」
「タウンゼット大佐?」
「してやられましたが、敵は巡洋艦1隻に過ぎません。こちらは被弾して小破したとはいえ、戦列艦です。火力はこちらが優っています」
タウンゼット大佐のいうことも最もだった。不意を突かれて被弾したものの、第2撃目は魔法防御壁を展開したので、その攻撃を弾き飛ばした。現在は45センチ口径の二門の主砲が雷撃系の魔法弾を放ち、敵艦の接近を阻んでいる。
「敵はこちらの防御壁を破ろうと至近距離で攻撃してくるはずだ。落ち着いて狙えば、一撃で撃沈できるはず!」
「主砲の斉射準備できました!」
「ライオットレベル10、放て!」
戦列艦フォルテシモに搭載されている主砲は45センチバスター砲4門である。さらに35センチバスター砲が副砲として3門装備されている。これに魔法ミサイルを10発放つ。この攻撃をかわせることは不可能だ。
だが、タウンゼント大佐は信じられない結果になる。レーヴァテインは巧みな回避運動で数発はかわしたがさすがに避けきれず、被弾する。大爆発したかと思われたのに全てシールドで弾き飛ばしたのだ。
「うそだ! こんなことがあるわけがない」
強力なシールドも然ることながら、敵艦レーヴァテインは先程、分艦隊と激しい交戦をしているのだ。いくらなんでも魔力が尽きるはずなのに、そんな気配もなく強力な攻撃をしてくるのだ。
(フィン公女の魔力は無限か? 馬鹿な。第5公女であるフィンがリリム様を上回るはずがない。となると……異世界のあの青年か!)
タウンゼット大佐は思い出した。彼もあのパンティオン・ジャッジ前夜祭のパーティで異世界から来た青年がヴィンセント伯爵を倒した出来事を一部始終見ていたのだ。




