第9話 VS第4魔法艦隊 エアズロック空中戦(4)
艦橋で戦況を観察していたラピス記者は、レーヴァテインの乗組員を最初は見くびって、人材不足が最大の弱点などと記事を書送ったことを恥じた。全乗組員が素晴らしい働きをしているのだ。
まずは操舵手のカレラ中尉。唯一の現役軍人だから、マシな方とは思っていたがラピスは所詮は軍に入ったばかりの新米操舵手という評価をしていた。だが、それは完全に否定しなかればならないだろう。この若い女性士官は、浮遊石が無数に浮かぶ危険地帯「エアズロック」において、全長165mの巡洋艦を岩に船体をぶつけないで巧みに操っているのだ。
さらに攻撃担当のナセル少尉。彼は士官学校の学生で訓練不足の見習い士官なのに、とんでもない射撃の腕であった。レベル10という高度な魔法砲撃を正確なねらいで敵艦隊に次々とヒットさせている。普段はただ女好きのチャラい男だと思っていたが、その実力は侮れない。
通信担当のプリム&防御担当のパリムもてきぱきと仕事をこなしており、その正確な仕事が現在の戦況を好転させているのは明らかだ。
(それに……フィン公女の特殊能力マルチも意外と効果が高い)
マルチとはいろんな属性攻撃を自由にできるの能力である。フィンは雷撃系、火炎系、氷結系の魔法を巧みに切り替え、魔法弾として攻撃するので、敵艦はシールド効果が充分得られず、次々と被弾している。そしてなにより、異世界の少年が改造した主砲の45センチバスター砲が効いている。これは第4魔法艦隊も事前には情報を得ていただろうが、予想以上の効果に戸惑っていることだろう。
(これは意外と善戦するかも……)
正面の分艦隊が成すすべもなくレーヴァテインの前に沈められていくのをシートに座って見ていたラピスはそう思った時、凄まじい光と衝撃にラピスは椅子にしがみついた。レーヴァテインが盾にしていた真上の浮遊石が破壊されたのだ。
激しく揺れるレーヴァテイン。それでもコントロールを失わなかったのは操舵手のカレラ中尉の腕によるところが大きい。
「どうしたの!」
ミート少尉がプリムちゃんに確認する。
「上からですううう」
「ドラゴンシールドの効果でかろうじてダメージをまぬがれましたが、次はやばいでおじゃる」
「旦那、どういうわけか、上の艦隊はこっちの居場所が確実にわかるみたいだにゃ」
トラ吉がそう平四郎に告げる。これだけピンポイントで攻撃してくるのだ。トラ吉が言わなくても誰もがそう思った。
「これだけ浮遊石があったらレーダーなんて役に立たないはず。だとすると、デタラメに撃って当たったか、それとも、こちらの場所を何か違う手段で把握できるのか?」
ミート少尉はそう言いながら思わず耳をすます。もしかしたら、音ではないかと思ったのだ。静かにしていると爆発音と風で岩がぶつかる音。そしてレーヴァテインのエアマグナムエンジンの音が耳に入ってくる。
「音か……」
平四郎もミート少尉と同じことを考えた。視覚やレーダーが遮られれば、次に頼るのは「音」である。それにしても、もし、音で判断できるのだったら、相当な聴力の持ち主だろう。
「上から高エネルギー接近ですうううう」
レーダーで監視をしていたプリムちゃんが叫ぶ。上空の第4魔法艦隊による砲撃だ。今度はレーヴァテインを直接狙ってきた。
(まずい……)
平四郎がそう強く感じたとき、また、あの現象が起こった。傍らのフィンと赤い糸のような光でつながると強力な魔力が解放される。平四郎の黒い瞳が赤く変わる。
「旦那のコネクト発動だにゃ」
トラ吉は平四郎のチート状態を見た。おそらく、魔力ゲージはいっぱいであろう。すさまじい、魔力エネルギーが平四郎とフィンを包むのが見える。
「さあ、激アツの時間だ。パリムちゃん、クリスタルシールド!」
平四郎はそう命じた。クリスタルシールドは一般的な空中戦艦が使う魔力による防御方法である。シールドのレベルは魔力に左右されるが、今のレベルならかなりの魔力弾もはじきとばせるだろう。 パリムは平四郎の方を向いて笑顔で応える。
「はい、でおじゃる!」
平四郎とフィンの魔力は999万となっていた。これは計測器で図るMAXの数字であったから、実際にはどれくらいの数値かは定かではない。だが、999万でもクリスタルウォールなら強固な楯になる。上空からの集中砲火によってレーヴァテインが隠れていた巨岩は砕け散ったが、シールドのおかげで船体に傷一つつかない。
「うそ! 直撃だったはず!」
第4魔法艦隊旗艦フォルテシモ内でリリムはそう驚きの叫びを上げた。通常では考えられない結果である。
「そんな馬鹿な! ありえない。普通では考えられない」
経験豊富なフォルテシモの艦長、タウンゼット大佐はそう口に出し、同じ言葉を小さく繰り返した。長い経験からしてもあんな強固なシールドは見たことがなかった。こちらの攻撃は戦列艦と巡洋艦による主砲の集中砲火だ。下方であるので全砲門による砲撃ではなかったのだが、それでも長い軍隊経験では考えられない防御力だ。だが、魔力は消耗するものである。現在のようなチートな状態が高い魔力によって支えられているのなら、そんなに長続きはしないだろう。
タウンゼット大佐はそう結論づけた。
「リリム提督、考えられないことですが一時的な魔力の増大によるシールドの強化でしょう。そう何度もできる芸当ではありません。攻撃を続けてあぶりだしましょう」
「そうね」
リリムはそう言って、また音響センサーに耳を済ます。リリムには特殊な能力があった。それは魔力による絶対音感である。どんな小さな音でも聞き分けることのできる力だ。戦列艦の音感センサーと連動ことにより、敵艦のエンジン音を正確に捉えることができた。エンジンを止めても艦内で乗組員が歩く足音、話し声ですら感知できるのだ。それどころか、空中に浮かぶ浮遊石の欠片が船体に当たる音すら聞き分けることができるのだ。
(パチパチ……)
「あそこにいる! 残りの駆逐艦、美味しくいただくよ!」
リリムは第5魔法艦隊の最期の駆逐艦の隠れている場所を発見した。平四郎が安く仕入れて見事に再生した高速駆逐艦だ。




