第9話 VS第4魔法艦隊 エアズロック空中戦(2)
さあ、始めようか……。
チートな艦隊戦をw
「リリム提督。第5魔法艦隊は東方の浮遊石地帯エアズロックに布陣完了との報告です。巡洋艦1、駆逐艦3とのこと。先行している偵察駆逐艦からの報告です」
「なるほどね。敵も考えたようですね」
そう副官のマネージャー女史が答える。彼女は身の回りの世話とスケジュール調整をしてくれる人だ。リリムが芸能界に入った時からの担当で信頼している人間だ。さらにリリム・アスターシャが乗る旗艦フォルテシモの艦長はリリムが最も信頼している軍人であり、あとの乗組員は戦い経験が豊富な傭兵や国軍の軍人を採用している。
「タウンゼット大佐。エアズロック周辺のことは知ってます?」
リリムに尋ねられた初老の軍人は、第4魔法艦隊の旗艦艦長として請われて、艦隊の参謀としてもこのアイドル公女のサポートをしている。彼自身が彼女のファンであることが志願理由であり、パンティオン・ジャッジで勝てば、ドラゴンとの死闘があることも見越しての参加だ。本気でこの崇拝する歌姫を英雄にしたいと考えていた。
「提督閣下、エアズロックは大小数万の浮遊石が密集している場所で、通常、空中艦は近づきません。風の具合で浮遊石がどのように動くか予想できず、浮遊石にぶつかる恐れがあります」
「そんなところに潜んでいるの?」
リリムは呆れてそう言った。本来なら、堂々と広い空で派手な主砲の撃ち合いをしたいのに、火力不足の第5魔法艦隊は岩に隠れて穴熊のように出てこないのだ。まあ、それしか勝つ方法が見いだせないということは、戦いの素人であるリリムにも理解はできた。
「戦力はこちらの方が圧倒的。突入して殲滅するだけよ」
「ダメです。提督。浮遊石が邪魔で敵がどこにいるかレーダーでは分かりません。不用意に突入すれば、奇襲を受ける可能性があります」
そう大佐はリリムに進言する。敵の狙いはこの旗艦フォルテシモだろう。起死回生の攻撃で旗艦を破壊すれば、勝利することも可能だ。この密集した浮遊石に隠れて近づき、主砲の直撃を受ければ危ない。
敵は巡洋艦クラスではあるが、戦列艦並みの主砲を装備したという。それに、全長300mを超す戦列艦では、岩に衝突する可能性があり、縦横無尽に動くこともできなかった。回避運動が限られるのである。
「では、どうすればいいの? 高いお金を払っているのですから、プロの技を見せもらいたいです」
タウンゼット少佐は、パネルに映った第4魔法艦隊と浮遊石地帯に身を隠している第5魔法艦隊のおよその位置をポインタで差し、作戦案を説明した。
「突入するのは、軽巡洋艦、護衛駆逐艦の6隻です。これを分艦隊とします。指揮官は軽巡洋艦アンダンテ艦長のバッジョ少佐に任せましょう。敵を発見後、分艦隊は機雷を散布し、敵艦進入路を限定し、敵艦隊を追い立てます」
「どこへ追い立てるの?」
「浮遊石地帯上空です。上空9千メートルで浮遊石帯は終わっていますので、
我々、戦列艦を含む大火力の船で敵の頭を抑えるのです」
「なるほど、見事な作戦だね」
リリムは感心すると、すぐその作戦案を実行するように命じた。敵である第5魔法艦隊の戦力はこちらの半分以下である。隠れている鎧をはがして目の前に出てこさせれば、全く問題なく撃破できるはずだ。
「敵、二手に別れて、一方は浮遊石地帯に侵入してきますううう。侵入中の艦艇、6隻。軽巡洋艦1隻、駆逐艦5隻ですうううう」
そう索敵担当のプリムちゃんが告げる。
「旦那、旦那の予想通りだにゃ」
トラ吉は艦長席に座っている平四郎の横に立っている。平四郎の横には第5魔法艦隊のフィンが座っており、その左側に副官のミート少尉が立っている。第4魔法艦隊の行動は平四郎の予想した通りの行動である。
「フィンちゃん、侵入してきた敵の戦力はこちらを若干上回っているけど、魔力ではこちらが上だ。やれるよね?」
「は、はい」
魔法艦隊どうしの戦いは、艦の性能が大事ではあるが、実は操る提督なり、艦長の魔力でその差は逆転できることもある。例えるなら同じ威力のファイヤー系の攻撃魔法でも、魔力が多ければ連射も聞くし、長く撃てる。魔力が枯渇すれば、攻撃もできない。今回のように数は相手が倍でも、魔力がそれ以上であれば挽回はできないことはなかった。
平四郎は先攻させ、岩の隅に隠れていた高速駆逐艦をフィンに操らせ、敵艦隊に悟られぬよう、魔法で位置を特定させぬようにして敵艦隊の後方に待機させていた。
敵の後方に魔法機雷をばらまく。これはファイヤーボムの魔法で、触れたら大爆発を引き起こす厄介な機雷だ。同じく、他の2隻にも上空方面への出口と進行方向の出口も機雷で防ぎ、下方向のみルートを残した。隠密行動していた3隻を戻すと、浮遊石地帯の中心にある広いエリアの上空から、侵入してきた敵の分艦隊に一斉に砲撃を仕掛ける準備に移る。
「レーヴァテイン主砲を準備、下方の9時から3時の方向へ移動しつつある敵艦隊を撃つ。主砲魔力エネルギー充填。魔力を変化……。タイプ「風系」エアカッターを発動」
攻撃担当のナセルが状況を確認する。
「防御長、魔法シールドはどうか?」
副官のミート少尉が、パリムちゃんに確認する。
「シールドレベル3、4、5……上がりつつあるでおじゃる」
「フィンちゃん、主砲副砲の3連射後、高速駆逐艦は敵艦隊に突入。ゼロ距離魚雷攻撃で、撃ち落とすします。指揮をお願いします」
「了解です」
フィンは目の前の魔法による3次元モニターで、平四郎の作戦案をシュミレーションしている。うまくいけば、平四郎の作戦通りになるだろうと確信していた。
「敵艦隊、まもなく予定空間に侵入」
感知の魔法で敵艦隊の距離を計算したミート少尉は、前方を指差した。浮遊石の間から、敵艦隊が1列になって進んでくるのが見えた。こちらのアンチ魔法シールドがまだ効いていて、敵はまったく気づいていない。視覚的にも岩の影に隠れていて見つけることができていないのだ。
「主砲、副砲とも準備O.K.です。エアカッターレベル10いつでも撃てます」
「よし、レーヴェテイン、出撃。岩から出ると同時に攻撃をする。合図は提督が」
そう平四郎はフィンに言った。コクりとうなずくフィン。二人だけにしか分からない合図だ。この戦闘が彼らの長い長いウェディングロードにつながるのだ。




