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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
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第1話 そして僕は出会った(3)

 平四郎はステアリングを握って高速道路を走っている。今日、エンジンを下ろしてオーバーホールしたポルシェ964の試運転中である。ポルシェ独特の官能的なエンジン音はこの車がいい状態にあることを示していた。


「うん。完璧だ。調子が出てきた。鷲津社長、これは喜ぶぞ」

 

 平四郎は鼻歌を歌いながら、ウィンカーを出して右車線に移動する。慣らし運転を終えて少しぶん回すのだ。アクセルを踏むと一挙に加速する。市販のレーシングマシンと呼ばれるポルシェ。964型の911。日本でかなり売れた車である。ディプトロと呼ばれるオートマチックトランスミッションを持つ。平四郎はシフトノブを右側ゲートに倒し、進行方向に動かし、ギヤを上げていく。


「来て! 平四郎くん」

「え?」

 

 女の子の声と共に前が急に光った。光の中に道がある。そこへポルシェが吸い込まれる。


「何だ? これは現実か、夢か!」


 クオオオオオオオオッ……。ステアリングを握りながら平四郎は確信した。これは夢なんかじゃない。ついに行く時が来たのだと。



「おい! あんたどうした? 事故でも起こしたのか?」


 平四郎は目を薄らと開けた。あごヒゲをはやした渋いおじさんである。ゆっくりと体を起こす。このおじさんが乗っていたのであろう馬車が目に入る。後ろを振り返るとポルシェがひっくり返り燃えているのが目に入った。


(おいおい……鷲津社長にどやされるじゃないか!)


「あんた、この国の人間じゃないな? 見たところタウルンの人間ぽいが。あの燃えてるのはなんだ?」


(タウルン?)


 おっさんの話している言葉は、聞いたことのない言語の発音で耳では理解できないのだが、何故か頭の中で意味が日本語に変換されているのだ。おっさんは燃えているポルシェを指差している。


(あ~あ。鷲津社長のポルシェ、おシャカ。どうしようか~)

(いやいや、そんなこと考えてる暇はない!)


「ここは?」


 平四郎はそう尋ねる。今まで走っていた高速道路ではないことは確かだ。おっさんの見てくれから日本語が通じるとは思えなかったが、何故か会話はスムーズにつながる。


「事故で軽い記憶喪失にでもなったのか? 綺麗なメイフィア語を話すところをみるとタウルンの人間じゃなさそうだが」


「メイフィア語? そんなの話していませんよ。僕が話しているのは日本語で……」


「何言ってる。お前の話しているのがメイフィア語だ。そんなに綺麗な発音をしてメイフィアの民じゃないというのはおかしな話だ」


(おかしな話って、こっちが聞きたいぐらいだ)


 そう平四郎は思ったが、こんな変な世界に現実に自分はいて、そこで言葉が何故か通じるというのはある意味ありがたいことではある。


「ふーむ。変わった男だ」


「は?」


 平四郎はそう言われて自分の格好とおっさんの格好を見比べた。作業服のつなぎ姿ではあるが、それを差し引いても格好の違いは時代や世界を超えたところに起因している状況であった。


(完全に日本じゃないな。ここは)

 

 声をかけてくれたおじさんはどう見てもヨーロッパ系の外人って感じだ。格好は田舎だからなのか、それとも時代が違うのか吊りズボンにシャツに帽子と今時にないダサい格好だ。馬車を見て時代錯誤な感じがしてならない。何が自分の身に起こったのか分からない。ただ、男が人間臭さ過ぎてここが死後の国ではないことだけは平四郎は理解した。こんな天使はさすがにいないだろう。


「とにかく、自分は日本という国に住んでいて、車を運転していたらここにいたんです。信じられないかもしれないけど」


「日本? 車? わからんことをいう青年だ。あの燃えているのが車というものか?」


「車知らないんですか? ここが日本じゃないのでしたら、どこの国ですか?」


「ここは魔法王国メイフィアさ。国都クロービスから30キロ離れた町パークレーン。メイン街道から外れた間道で滅多に人が通らんところだ。わしが通りかかって、お前さんはラッキーだったな」


「メ……メイフィア……」


 平四郎にとって知らない地名ではない。あの黒髪の少女がいつも口にしていた名前だ。


「お前さん、名前は?」

東郷平四郎とうごうへいしろう


「ヘーシロー。変わった名前だな。わしはバルド。バルド商会って名の空中艦の整備工場をやっている。中古の販売や修理、改造、なんでもござれ商売だ」


「く、空中艦?」


 ボーッとした平四郎の頭が冴えていく。空を見上げると遠くに飛行船のような物体が飛んでいる。


「ああ、あれはハンターの狩猟艦だな。砲艦クラスの船だ」


「すげえええっ……。乗ってみたい。いや、あれをいじってみたい」


 普通ならこの異常状態に頭がパニクるところであるが、平四郎の好奇心はそれを完全に凌駕した。持って生まれたメカニック魂である。その様子を見ていたバルドは大きく頷いた。


「平四郎って言ったな。これも何かの縁だろう。よかったら俺んところに来ないか? ちょうど人手が欲しかったんだ」


 そう言ってバルドは手を差し出した。機械油の汚れが染み込んだ職人の手である。平四郎にはその手が好きだと感じた。迷いなく平四郎はその手を握って立ち上がった。


(何だかわからないけど……。ここはこのおっさんについていくべきだろうなあ。異世界に飛ばされたぽいからな。どう考えても。それに……)


 あの黒髪の少女、フィンに会える気がした。あの時の約束を果たす時がきたのではないかと平四郎は思った。


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