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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
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第9話 VS第4魔法艦隊 エアズロック空中戦(1)

アドミラルで繰り広げられた第4魔法艦隊との決戦。このガールズフリートでは、がらりと作戦を変えました。どうやって、強大な敵艦艦隊を撃破するか?

 第5魔法艦隊がエアズロック布陣を構えたのはパンティオンジャッジ1回戦が行われる1日前。旗艦レーヴァテインと駆逐艦3隻を従えて浮遊石が数多く浮かぶ難所地帯に息を潜めていた。平四郎が立てた作戦通り、機雷を仕掛けてエアズロック内では自由に航行ができないようにしていた。


「旦那~っ。仕掛け終わりましたにゃ」


「平にい、任務完了!」


 一足先にエアズロックで極秘作業をしていたトラ吉とルキアがレーヴァテインに戻ってきた。作業をした職人を乗せた工作船がレーヴァテインに横付けしている。


「うん。ご苦労さま。首尾はどうだい?」


「思ったより難しかったにゃ。浮遊石がランダムに動くから工作船が壊れるところだったにゃ」


 このエアズロックは空中船にとっては危険地帯だ。風でランダムに動く浮遊石はこぶし大の小さなものから、レーヴァテインの何倍にもなる大きなものまであった。トラ吉たちは比較的大きい岩見つけて下部にミサイルの推進装置を装着していたのだ。


「作業が難航したせいで1日余分にかかってしまったよ。職人の手間賃に危険手当、工作船のレンタル料に延長料で完全赤字だよ」


 ルキアが計算機を叩いている。彼女はこの第5魔法艦隊の財布を預かる主計官なのだ。今回の戦いの準備にかかった費用は、総計で1000ダカットを超えていた。これは第5魔法艦隊に支給される毎月の運営費と同じだけの額である。現在のところ、借金になっているのだ。


「この戦いに勝てば、勝利ボーナスで5000ダカットは入る。だから、平にい、勝つしかないよ。負ければ借金だけが残るからね!」


 ルキアがシビアなことを言う。勝って賞金稼がないとまずい状況になることは間違いないであろう。


(う?)


 平四郎は不意に美味しそうないい匂いに意識を奪われた。ブリッジにアマンダさんと彼女が使役する魔人形のゼパルとベパルが入ってきたのだ。アマンダさんは大きな鉄鍋を置いたワゴンを押し、ゼパルはパンの入った大きなかごを持っている。


 右手にはパンばさみをスタンバイ。ベパルは両手に飲み物が入ったデキャンタを持っている。


「艦長、オレンジソーダかグレープジュースか選べるにゃん」


 可愛く首をかしげるベパル。魔力で動く人形だがどう見ても獣娘にしか見えない。平四郎はグレープジュースを選ぶ。一口飲むと濃厚な果実の香りが口いっぱいに広がる。さらにゼパルが平四郎にパンを勧める。


「クルミパンがいいか、ミルクロールがいいかわん?」


「両方もらうよ」


 香ばしい香りに平四郎はそう答えた。ゼパルが持っているかごを見たがパンのサイズは小さく、平四郎には1つじゃ物足りないと思ったのだ。


「艦長は食いしん坊だわん」


 にっこり笑ってゼパルはパンを2個、置いた皿の上に載せた。さらにアマンダさんが鉄鍋からスープをスープ皿に注いだ。これが空腹感を増殖させる美味しそうな匂いの元であった。


「アマンダさんの特製の銀鳥とコーンが入った卵スープだよ。久しぶりだなあ……」


 副官のミート少尉が恍惚とした表情でスプーンを口に運んでいる。平四郎もたまらず、スプーンですくって飲む。


(う、うまい……うまいってもんじゃないぞ!)


 体全体に染み渡るとはこのことだ。あまりの美味しさに平四郎はたちまち飲み干し、アマンダさんにおかわりのスープを注いいでもらった。


「こ、これは私の家の定番料理なんです」


 フィンが恥ずかしそうにそう平四郎に告げた。聞けば、アクエリアス家に代々伝わる料理で作るのに手間がかかるのと、材料が高価なこともあって、お祝いの時に作る品だそうだ。アマンダさんが第5魔法艦隊の初陣を祝って作ってくれたのだ。


「銀鳥は、それ自体は高価だけど、これはその中でも最高級のものね。市場で一羽3ダカットはするね。それにスープには他にも高価な材料が使われている」


 ルキアが感心したように料理を分析する。彼女に言わせれば、首都メイフィアの高級レストランで出されるものと似ていて、それはひと皿軽く1ダカット金貨が対価として払われるそうだ。


「贅沢するのはいいけど、これを食べたらますます勝たないといけないわよ。あたしはそろそろ帰る。戦いには巻き込まれるのは嫌だから」


 スープをきれいに飲みつくしたルキアは、そう言ってそそくさと帰り支度をする。彼女は第5魔法艦隊の主計官でいわゆる文官だ。ここにいて戦いに巻き込まれるのはまっぴらなのであろう。それに横付けした工作船には、パークレーンから連れてきた職人たちが乗っている。彼らの食事は航海用の缶詰とビスケットである。

 

 思わず飲み干してしまったが、こんな温かで美味しい食事を自分だけするのは気が引けたのだ。


「ルキア、気をつけて帰れよ」


「平にいもね。トラ吉もミート少尉もナセルさんもプリムちゃんもパリムちゃんも、カレラ中尉も、アマンダさんも……ゼパルもべパルも生きて帰ってきて……それと」


 ルキアは提督席に座るフィンを見た。この中で大好きな平四郎を自分から奪い取るであろう警戒すべき女だ。でも、ルキアはこう口に出した。


「フィン提督、平にいをよろしくお願いします。怪我でもさせたらあたしは許さないんだからね!」


 コクンとうなづくフィン。ルキアはそれを確かめるとプイと踵を帰して工作船へと戻った。第4魔法艦隊はこの戦場に近づいている。明日の今頃は戦いの火蓋が切って落とされ、激しい戦闘が行われているはずだ。



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