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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
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第8話 リメルダさんのアプローチ(3)

「それはリフレクトコーティングですわ」

「リフレクトコーティング? さすがお姫様。役に立たないものを偉そうに持ってくる」

 

 ルキアがそう言って説明を始める。パーツショップの跡取り娘だから、パーツの性能には詳しい。平四郎はまだこの世界に来て3ヶ月だから、知らないこともあるがルキアに知らないものはほとんどない。


「リフレクトコーティング。2年前に開発されたコーティング剤。施工すれば敵の攻撃を跳ね返して敵にそれをぶつけることができる」


「すごいじゃないか!」


「すごくないよ、平にい。跳ね返すのは1度だけ。施工は難しくてコーティング漏れがあると効果が出ない。コーティングするのに早くても1週間かかるよ。だから、費用対効果はゼロどころか大幅マイナス。あたしらパーツ屋にとっては欠陥商品て言われているんだ」


「ふ~ん。そうなのか」


「そうそう。全く、世間知らずのお姫様はしょうもないもんよこす」


 腕組みをしていた平四郎はしばらく考えていたが、にっこり笑顔になって頷いた。


「リメルダ様、ありがとう。これはありがたくいただくよ」


「それはよかったわ」

「もう、平にいったら!」


「ルキア、1号洗浄タンクは使用できるだろう?」

「空いてるけど。使用料も安いよ」


「じゃあ、すぐ予約してくれ。僕はうすめ液を買ってくる」


「うすめ液? コーティング剤の? リフレクトコーティングは必要ないと思うけど」


「考えがあるんだ」


 平四郎は町に戻ってパーツ屋に行くことにする。リメルダは町のパーツショップを見たことがないので、是非、見てみたいというので連れていくことになった。




「あの、リメルダ様、どうしてくっつくのです?」


 パークレーンの市場を歩いている平四郎とリメルダ。後ろには護衛のケット・シーが歩いている。リメルダは平四郎の腕に絡みつき、まるで恋人とデートのようだ。


「平四郎、私のことはリメルダでいいです。これは私のことを知ってもらうための行動です。あ、でも誤解しないように。別にあなたとデートというわけではないのですから」


(いや、なんでこれが……)


 平四郎はそう思った。実にリメルダは楽しそうで鼻歌まで歌っている。こんな片田舎の市場は珍しいのかキョロキョロ見ては平四郎に質問をぶっつける、平四郎は右腕にリメルダの慎ましいものが当たって気が気ではない。こんなところをフィンに見つかったら……。


 そう思うと大抵そうなるのだ。ちょうどホテルのバイトを終えたフィンとアマンダさんとばったり出会ったからだ。みるみるうちにフィンの顔がぷくっとふくらむ。怒るとこういう顔になるのだ。


「フィ、フィンちゃんこれは、その……」


 ますます膨れるフィンの顔。それを見てリメルダは悪びれる風でもなく、一層平四郎に密着した。


「あら、フィン。お久しぶり」


(じとー)っとフィンの視線は平四郎の腕に注がれている。リメルダの胸に押し付けられているのだ。


「フィン、誤解しているようですけど、これはデートじゃないわ。私が民間のパーツショップに興味があるので平四郎に案内してもらっているのです」


「あ、案内?」


(じとー)っと疑いの目で平四郎を見るフィン。


「そ、そうだよ。フィンちゃん。これは第2公女様に案内しているところで」


「……」


 黙ってフィンは空いている平四郎の左腕に絡みついた。対抗するつもりなのか、フィンも自分の胸にグイグイと平四郎の腕を押し付ける。


(ふああああっ……フィンちゃんの胸、Cカップ? リメルダはBか? ひんぬーっもいいけど、やっぱり、ふつぬーも捨てがたい)


 傍から見たら美少女二人。しかも国を代表する第2公女と第5公女を両手に抱えてである。男なら超羨ましい状態に市場の人々が視線を向ける。


「おいおい……兄ちゃん、見せつけてくれるよなあ」


 人相の悪い男が平四郎に声をかけてきた。その後ろに仲間と思われる男どもがいる。全部で10人だ。


(姫様、あいつら市場の入り口でウロウロした奴らです。後を付けてきたようですよ)


 ナアムがそっとリメルダに告げた。そうだとすると、単にちょっかいをかけてきたチンピラではなさそうだ。


「なんだい?」


 平四郎は男にそう言って顔を観察した。見たことのない顔ではない。この市場でのたくっている、どこの街にでもいるチンピラである。こういう輩は大抵、マフィアの下部組織に属しているものだ。


「兄ちゃんには悪いが、彼女の前で死んでもらう」


 いきなり、男どもがナイフを出した。これは尋常ではない。色々と難癖をつけてくることはあるが、一般市民をいきなりナイフで攻撃してくるのはありえないからだ。


「へ、へいちろう……」


 フィンは慌ててしまって噛んでしまった。リメルダも突然のことで声が出ない。


(彼女らを守らねば……)


 平四郎がそう思ったとき、例の赤い光の糸がフィンの胸から伸び、平四郎の胸からも伸びて結ばれた。平四郎の瞳の色が黒から赤に変わる。そしてクールな表情になった。


「コネクト!……激アツと行こうか……」


 ナイフがシールドで弾かれた。驚く男たちに平四郎の拳が炸裂する。まさに一撃。10回拳を突き出しただけで10人の男は地面に這いつくばった。


「ば、化けもんだ~」

「こ、殺さなきゃとボスに制裁されるぞ」


「バカいえ、制裁より命が惜しい」

「畜生、禁止されているが俺は使うぞ!」


「バカ、やめろ!」


 一人の男が銃を突き出した。魔力チャージがされている魔法銃だ。男は迷わず引き金を引いたがビビっていたので照準がずれた。平四郎の傍にいたリメルダに発射された光の矢が向かう。


「姫様!」

「きゃああああっ」


 ナアムとリメルダの声が市場の空にこだまする。


「えっ?」


 目をつむったリメルダ自分の体に何の変化もないことをいぶかった。それもそのはず。光の矢はありえないことに平四郎が素手で叩き落としたのだ。


「うそ!」

「あ、ありえねええ、どんなけチートなんだ」


 驚く暴漢共とリメルダ。


「てめえら、女の子を撃ったな~。てめえら、三途の川を見たいかーっ!」


 ボコボコである。わずか30秒で10人の男たちは顔の形が変わった。平四郎の拳が一人につき30発は放たれたからだ。10人のチンピラ共は地面に転がっている。そのうちの一人の襟首をつかんで、平四郎は聞いた。


「おい、お前ら僕を殺そうとしたな。誰の命令だ」

「い、命だけはお助けを~」


「言えよ。言わないとぶっ潰す!」


 平四郎の左拳が魔力で金色のオーラをまとわす。それを男の股間付近につきつける。この魔力で殴ったら、明日から性別変更だろう。


「い、言います、言います。といっても、上部組織からの命令で……何でも、都のやんごとないお方の要望だと……」


(やんごとないお方?)


 平四郎には恨まれる理由が思い当たらない。が、リメルダにはピンと来た。というより、平四郎も思い当たらないというのが信じられない。


「ヴィンセント伯爵じゃない?」


 リメルダはあの平四郎にぼこられた王族の男の顔を思い出した。あの男、自分にも声をかけてきた女の敵である。


「ヴィンセント? 誰だっけ?」


 トラ吉でもいれば、教えてくれただろうが平四郎は思い出すのに時間がかかった。そういえば、城で言いがかりをつけて決闘を挑んできた奴がいた。


「思い出したよ。あの男、まだ殴られ足りないらしい」

「平四郎、アイツは粘着質で嫌な奴だけど、権力はもっているのよ。用心はした方がいいわ」


「用心ね……」


 小賢しい小細工をしたところで、ぶん殴れば済むと平四郎は軽く考えた。事実、これから嫌がらせをしてくるヴィンセント伯爵に対して、平四郎は正攻法で挑み、お灸を据えまくることになる。


 やがて、駆けつけた警官が倒れた暴漢を逮捕したが、逆に気の毒になってしまったくらいだ。平四郎のやり過ぎではあったが、相手はナイフで明らかに平四郎を殺そうとしていたようだし、第2公女に向かって銃を発砲したのだ。重罪は間違いがない。


(それにしても、な、なんて男かしら)


 命を救われたリメルダは平四郎から目が離せなくなってしまった。コネクト状態の平四郎はさらにたくましく、リメルダの心を鷲掴みにしてしまったのだ。



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