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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
43/201

幕間 メイフィアタイムズ発(3)

 出発して間もなく、ミートちゃんがひとりの女性を平四郎の席に連れてきた。事前に報告は受けていたので、平四郎も驚かない。


「こちら、メイフィアタイムスの記者、ラピス・ラテリさん。第5魔法艦隊の取材のため乗船を許可しています」


「あなたが異世界からの勇者ですね。初めまして。ラピスと申します」


「東郷平四郎です」


 そう平四郎は右手を出したが、先ほど、アイドルのリリムちゃんと握手をしたことを思い出し、慌てて左手に差し替えた。ラピスは少し首をかしげて右手を出す。


「それで、平四郎さん。第5魔法艦隊のマイスター兼旗艦艦長にいくつかお聞きしたいのですが?」


「ラピスさん、軍事機密に関わる質問はノーコメントですからね。平四郎も気をつけて!」


 そうミートちゃんに言われたが平四郎としてもどの辺が軍事機密か分からない。


 平四郎の従者のトラ吉が小さい声でアドバイスする。


「軍事機密という程のことは今はないにゃ」


 いろいろと心強い猫である。


「第5魔法艦隊の旗艦レーヴァテインについては承知していますが、残りの3隻は高速駆逐艦ですね。1隻増えたみたいですが」


「ああ。1隻は最近購入したばかりです」


「購入したばかり? それにしては古いですね。しかも他の艦に曳航されています」


「あれは今、自力航行できないから。エンジンはいいけど、いろいろと故障していてね」


「はあ?」


 ラピスは状況が飲み込めない。ただでさえ戦力不足の第5魔法艦隊なのにどう見てもスクラップ同然の船なのだ。


「あれはどこで購入されたのですか? やはり、国軍から調達したのですか?」


「中古ショップです。その倉庫にあった廃艦同然のものを格安で買ったんです」


「あれを整備するには時間がないでしょう。戦いは2週間後。先にエアズロックへ移動するには整備にかける時間は10日ほどでしょう」


「十分さ」


 平四郎はそう自身満々に言ったので、ラピスも思わず納得してしまうところであったが、普通に考えてそれは無理でしょうと思った。この異世界から来た人間は大ボラ吹きなのか、それとも単に何も知らない素人なのかと考えた。あの駆逐艦だけでない。このレーヴァテインの整備もするのだ。人手をかけるといってもマイスターの指示で行わければならず、時間は1、2ヶ月かかってもおかしくはない。


(異世界から来たという勇者という触れ込みだけど……そんなことできるのだろうか)


 ラピスはパンティオン・ジャッジのパーティを思い出した。あのヴィンセント伯爵を殴り倒した驚異的な戦闘力をこの一見、頼りなさそうな少年が持っているのだ。もしかしたら、面白いことが起こるのかもしれない。


「駆逐艦の武装はやはり、空中魚雷かミサイルが主力でしょうか?」


 そうラピスは質問を変えた。駆逐艦の主砲である25インチバスター砲の火力はドラゴンに対してなら効果はあるが、魔法艦隊の戦列艦級には通用しない。そうなると他の兵器が鍵を握る。通常、駆逐艦にはミサイルか空中魚雷を装備する。どちらとも船から発射し、敵艦に当たると爆発する代物である。


 違いはミサイルがターゲットを自動で追う追尾魔法が使われており、有効射程距離も長い。空中魚雷は発射した方向をひたすら直進する。これには、目くらましの魔法がかけてあり、視認することができないが後方から噴出するガスで向かってくることはある程度分かる。ミサイルの方が効果はあるが、値段が魚雷の5倍はする。


「う~ん。予算がないから魚雷だろうね」

「予算ですか」


(こりゃダメだ……)


 戦力不足、時間不足、予算不足だ。


「第5魔法艦隊はこの旗艦レーヴァテイン以外は無人艦ですが、有人艦と比べてどのような利点があると考えていますか?」


 ラピス嬢が質問を重ねる。だが、平四郎には利点と言われても分からない。


「他の艦隊は有人艦が多いのですか?」


 平四郎は逆質問した。後から思えば、この世界の住人なら知っていることだったかもしれない。ラピスは改めてこの異世界の少年が何も知らないことを知った。


「そうですね。主力となる戦列艦や重要な補助艦艇である巡洋艦は有人がほとんどです。護衛駆逐艦は提督の魔力で無人操作している艦隊が多いでしょうね。それを考えると第5魔法艦隊は他の艦隊と同じと言えます」


「ふ~ん。じゃあ、利点は人が死なないってことかな? パンティオン・ジャッジじゃ、人は死なないと聞いているけど?」


「いえ、艦橋そのものが脱出ポッドになっていて緊急時に射出させるだけです。運が悪ければ、死ぬことはありますよ。確率は低いですけど」


 大抵そうなる前に白旗を上げて降伏するのがルールであったから、これまでパンティオン・ジャッジで艦隊を率いる提督が戦死した例はないそうだ。


「それを聞いたら、ますます、無人艦の方がいいじゃないか」


「それはそうですが、パンティオン・ジャッジは対ドラゴン用の魔法艦隊を鍛える戦いでもあり、勝者は人類の存亡をかけて戦うのですから、みんなそれなりの覚悟はありますわ。みなさん、自分の妻や子、家族を守るために決意をもっています」


 そうラピスはレーヴァテインの艦橋を見る。副官のミート少尉に操舵手のカレラ中尉、椅子を後ろへ倒して足を投げだして昼寝しているナセルに双子のプリムちゃん、パリムちゃんを見て、ため息をついた。平四郎の傍らに控えている従者と称するケット・シーは気になったがこの際、どうでもいい情報だろう。


(戦力なし、火力なし、時間なし、予算なし。それに加えてこの艦隊の最大の弱点は人材だわ。いくらなんでも子供のお遊びじゃないのだから)


 他の艦隊はベテランの軍人が主体である。無論、ドラゴンのメンズキルを想定して女性が多く採用されているとはいえ、3分の1の確率を恐れず乗り組んでいる男たちも多い。みんな戦闘のプロであり、経験も豊富である。今回、この第5魔法艦隊が戦う第4魔法艦隊は提督と副官以外はほとんど男の傭兵で構成され、しかも護衛駆逐艦に至るまですべて有人艦であった。


「確かに無人艦なら人は死にませんが、提督の魔力が消耗される分、有人艦率が高いほうが有利であるという意見もあります」


「ふ~ん。そういうものか……」


「平四郎さんは、本気でこの第5魔法艦隊が勝てると思っているのですか?」


「勝つ」


 平四郎はラピスに言われてポツリと言った。そう彼としては勝てば、愛しのフィンと結婚できるのだ。「勝つ」意外にありえない。


「勝つ秘策はあるのですか?」

「秘策なんて今はないけど、僕たちは勝つ!」


「はあ?」


(こりゃダメだ)とラピスは思った。乗組員は素人軍団で何も知らない異世界の勇者。提督の第5公女フィンは熱が出て臥せっているという。もうダメダメ感満載である。


(あの男にだまされた~)


 あのパーティで第5魔法艦隊が勝つと言ったハウザー教授は、きっと自分をからかったに違いない。フィンの魔力は計測上、序列5位レベルであり、この少年については謎が覆いが、勝てる要素は全く見いだせない。



 ラピスはメイフィアタイムスに送る電文を作っていた。


人材の弱点はすべて経済力に起因し、これはフィン・アクエリアスが地方の貧乏貴族出身であることが原因である。国民的スターであるリリム嬢や大財閥令嬢のローザ嬢、大貴族のリメルダ嬢に現女王の愛娘マリー王女の財力にかなうはずもなく、この強烈なハンディはいかんともしがたく、第5魔法艦隊が史上最弱の艦隊であることは事実である……。


                  メイフィアタイムス ラピス・ラズリ


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