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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
42/201

第7話 VS第4魔法艦隊 準備編(5)

「なあ旦那、あのアイドル、嫌な奴だにゃ」


 そう唐突にトラ吉が喋った。トラ吉は従者なので、常に平四郎にくっついている。トラ吉の意外な問いかけに平八は、


「何言ってるのだ?いい子じゃないか。あんな気さくな芸能人はいないよ」

「ちちち……」


トラ吉は右手の人差し指を立てて左右に振った。猫だから爪が伸びている。


「旦那は女がわかっちゃいないにゃ。あのリリムってメスガキ、かなりのやり手ですにゃ」

「そんなわけないよ。あんなに可愛いのに」


 平四郎はムッとする。女がわからないのは否定しないが、あの笑顔で握手を求めてきた美少女の悪口を言われると少々むかつく。


「あのガキンチョの艦隊の乗組員、ほとんど男ばかりですにゃ」

「それがどうしたのだ?」


「男ってことは、アイツはパンティオン・ジャッジの勝者にはならないってことですにゃ」


「???」


 トラ吉はポンと雑誌を平四郎に手渡した。平四郎はこの世界の言語が何故か理解できた。話し言葉も分かるが、文字も読めるのだ。これも不思議な力の影響だろうか。


タブロイド紙 デイリーナビ


「リリム・アスターシャの黒い疑惑」


 第4公女に選ばれ、人気絶頂の歌姫リリム・アスターシャ。この世界のヒロイン候補でその活躍に期待がかかるが、ここで重要な情報を我々は手に入れた。


 それは……。彼女の艦隊が対レジェンドドラゴン用に編成されていないこと。

ご存知の通り、彼女の第4艦隊は戦列艦2隻、巡洋艦3隻、護衛駆逐艦4隻からなるが、全艦に乗組員が乗っており、その90%が男性である。魔力は相対的に男の方が強いとされるが、対ドラゴン、特に最終的に戦うであろうレジェンド級の場合、例のサウンドブレス(メンズキル)によって男性乗組員の生命の危機に直面する。


 このことを考えると、彼女の艦隊はパンティオン・ジャッジのみに特化したものであり、本来の目的であるドラゴンを討伐するという視点が欠けていると言わざるを得ない。


「ふ~ん。何だかゴシップ記事にしては難しいこと書いてあるけど、僕の世界にも芸能人の悪口を書き立てる雑誌はあったから、そういう類のものだろう?」


「デイリーナビは小さなゴシップ記事だけど、書いてあることには嘘はないにゃ。みんな知っちゃいるが、敢えて彼女の人気を考えて言わないことを書いちゃっただけにゃ」


「ふ~ん。で、トラ吉、聞きたいのだけど……」

「なんだにゃ?旦那」


「このメンズキルってなんだ?」


 トラ吉はポンと両手を合わせた。


「おや、旦那は知らなかったんですか?」

「ナセルから聞いたことはあるけど詳しくは知らないんだ。男だけを殺す攻撃だとか」


「L級のドラゴンが放つ音波攻撃の一種ですにゃ」

「音波攻撃?」


「生物の一部というか、オスのみに作用し、確率3分の1でランダムに心臓を止めるんだにゃ」


「さ、3分の一だって~っ!」


「一応言っておくけどにゃ。メスには効かない。だから、ドラゴンと戦う魔法艦隊は女性乗組員、艦長も提督も女性だ。例外もあるけどね」


 その例外がレーヴァテインではナセルだし、第一魔法艦隊ではあの嫌見たらしいヴィンセント伯爵である。3分の1の確率を恐れない男が参加することはあるが、やはり、確率的にたくさんの男が乗れば、確実に死ぬものも出るわけで、必然的に女性乗組員が多くなるというわけだ。


 平四郎はなぜ、世界を守る魔法艦隊の提督が女性で、乗組員の多くが女性であることを理解した。大半が男で構成される国軍がパンティオン・ジャッジから外されている訳もわかった。


(この攻撃をすることができるのは、L級以上だけなのでSクラス程度のドラゴンは国軍のパトロール艦隊が殲滅することになっている)


「ミート少尉狙いのナセルがそんな危険を承知でレーヴァテインに乗っているのは、アイツが馬鹿なせいもあるけど、僕も男だから危ないじゃないか?」


 平四郎もよく考えれば危険な状況だ。フィン狙いでナセルと大して状況は変わらない。そのブレスを食らうと自分も危ないことになる。


「旦那は大丈夫のはずだにゃ。異世界から来た人間には効かないことになっているにゃ」


「それって、根拠は?」

「500年前の現王家の祖先は、異世界からきた男だったそうだけど、3度のブレスをくらったけど死ななかったそうだにゃ」


「根拠はそれだけか?」

「そうだにゃ」


(あ~ダメだ!トラ吉……。お前は確率を学んだ方がいい)


 一度の攻撃で死ぬ確率は3分の1。10人いたら1回目で死ぬのが3~4人。2回目で死ぬのが2~3人。3回目で死ぬのが1人だ。3度くらったとしても、最初の10人から考えれば、二人は生き残れる。当たるのは3分の1でかなり危険だが、先代の異世界男は運が良かったのであろう。


「トラ吉はどうするんだ? 僕に付いてくるとなると必然的にレーヴァテインの乗組員になるけど」


「メンズキルはケット・シーのオスにも効くにゃ。だけど、おいらは旦那の従者にゃ。危険を顧みずお供するにゃ」


 ケット・シーのトラ吉。感動することを言う。


「ミート少尉、出港許可が出ましたですううう。レーヴァテイン発進しますううう」


「プリムちゃん、了解。カレラさん、レーヴァテインを発進させてください」


 副官のミート少尉がそう告げる。トラ吉と一緒に戻った平四郎は、まだフィンちゃんの体調が戻らず、提督室に臥せっているため、旗艦と護衛の駆逐艦にバッテリーから魔力供給して動かす。レーヴァテインの後を付いてこさせるだけだから、バッテリーでも十分であった。目指すは母港のパークレーンである。首都クロービスから近いため、航行もわずか1時間足らずであった。


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