表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
41/201

第7話 VS第4魔法艦隊 準備編(4)

「マネージャー、出航時間は変わりない?」

「はい。リリム様」


 魔法艦隊の制服を身にまとった女性が手帳をペラペラめくりながら答える。彼女はリリム・アスターシャが所属している芸能プロダクションのマネージャーで、彼女がデビューした時からの担当であった。気が利くのでリリムはこの30代のキャリア女性をずっと自分のそばに置いていた。


「クロービスを出航後、アーセナルに到着は予定通り?」


「はい。全て予定通りです。アーセナルでコンサート後に出航。第5魔法艦隊から通告があった決戦場へ向かいます」


「はあ~疲れるううう。戦いまで2週間あっても全然休めないよ。寝不足じゃ、魔力に影響あるのになあ」

 マネージャー女史はリリムの泣き言は意図的に無視する。いつものことなのだ。それで機械的に戦場となる場所の資料をペラペラとめくって、これまた機械的にリリムに報告する。先程、第4魔法艦隊のスタッフと入念に打ち合わせをしてきたのだ。


「エアズロックは特殊な地形です。それに応じた改造を行う必要があります」

「それは職業軍人のおじさんたちに任せるよ」


 リリムの艦隊はすべてが有人艦であった。フィンのように旗艦が司令塔になって護衛艦を操る手間がいらなかった。提督自らが動かさないから、思い通りに動かないリスクが伴うが、リリムの場合は彼女の命令に忠実に従う熱狂的なファンの軍人により構成されていた。戦いに関してはプロで固めているのだ。


「はあ~。かったるいなあ。パンティオン・ジャッジなんて面倒。どうしてアイドルのリリムが艦隊戦なんかしなくちゃいけないのかな。人類のためなんかに戦いうなんてやだなあ……」


「それは魔力の適性があったからで……。選ばれた以上は全力を尽くすのもこの世界に生を受けたものの努めです」

 

 マネージャーはそうリリムをたしなめようとした。一応、義務は義務。でも、リリムはプロダクションの重要なタレントであった。如何にパンティオンジャッジとはいえ、アイドルが真剣に戦うのはリスクがあり過ぎる。


 リリムは人気絶頂のドル箱スターなのだ。芸能プロダクションの方針は、パンティオンジャッジへ参加は、あくまでも注目を集めるだけのイベントという位置づけなのだ。


「魔力適性なんてたまたま。プロダクションもこれはあくまでもリリムの人気のためということでしょ?」


「そうですが、それだからこそ、第5魔法艦隊との戦いは勝たないといけません」

 

 リリムはちょっとだけ、心が動揺した。正直、「竜の災厄」というものに危機感なんか感じてない。これは国民の大半がそうだ。おそらく、このパンティオンジャッジの勝者は第1王女のマリー殿下だろう。義務感をもって戦うのは王族に任せておいて、こちらは守ってもらうのだということはなんとなく思っていたが、正直、それでいいのか? という思いもあった。第5魔法艦隊に勝つのは、「竜の災厄」から人々を守るために必要なことであって、テレビの視聴率を上げることではないだろう。


「人気のために戦うなんてちょっと違うんじゃないとリリムは思うの」

 ポツリとリリムはつぶやいたが、マネージャーはリリムの心の変化には全く気付かなかった。


「リリム様。もちろん、最後の勝者になれとはいいません。格下の第5魔法艦隊には華麗に勝ち、第3魔法艦隊には善戦してくれるだけでいいのです」


(そういうことか。第3魔法艦隊のローザさんの実家はテレビの重要なスポンサーだから、勝ちを譲るってわけね……」


(大人の世界は汚い)とリリムは思ったが、芸能界に入って足の引っ張り合い、ライバルを陥れるなんて日常茶飯事の世界を垣間見たリリムは別に驚かない。パンティオン・ジャッジは人類の存亡をかけた戦いということだが、それも実感はない。ほとんどの人間はドラゴンなんて見たこともないのだ。


「リリム様、アーセナルの会場じゃあ、新曲ドラゴンファンタジーを披露するからね。振り付けは大丈夫でしょうね」


「誰にものを言ってるの。リリムはメイフィア一番の歌姫なの」


 そう言ってマネージャーは消毒されたウェットティッシュを取り出し、リリムが差し出した右手を拭いていく。先ほど平四郎と握手した右手だ。


「全く、戦いがなければ、あんな異世界の男と握手なんてしないよ」


 先ほどのお兄ちゃんと微笑んでいた顔とは全然違う表情でそう言った。リリムはファンとの握手会でも表では笑顔だが、仕事が終わるとこうやってマネージャー女史に消毒させているのだ。ついでにあのファンはキモかったとか、手の汗かきやがってとか、暴言をはきまくるのが常であったから、平四郎があまり悪態をつかれなかったことは幸いであった。


「あの男にいくら不思議な力があっても、所詮は魔力の媒体となる戦艦が貧弱では私の敵ではないよ。順当に第5艦隊を撃破して、第3艦隊といい勝負をすれば、リリムの人気はもっと上がるよね?」


「それはもう、間違いないですわ。このパンティオン・ジャッジのイメージソングもヒットしつつありますし、リリム様が活躍すれば、ますます売上は伸びます」

(そうね。最初の予定通り、ここは最大限に生かすことが芸能界で生き残るために必要)

 リリム・アスターシャは、年少ながら厳しい芸能界で生きてきたために、とても強かな性格の持ち主であった。公女に選ばれたことを自分の人生の最大限に生かすことを常に考えていた。自分も所詮は第4魔法艦隊提督に過ぎず、また、仮に勝ち抜いても世界を守るためにドラゴンと戦うなんてまっぴらごめんであった。第5魔法艦隊を破り、新聞紙上を賑わせ、第3魔法艦隊に勝てなくても善戦すればそれで十分なのだ。


 リリムは右手のひらを撫でると中指にはめられた魔法の指輪が彼女の魔力と反応して、スマートフォンのように情報画面が映された。それをいじって世の中の

 

 ニュースをチェックする。この戦いに第4公女として参加することになってから、ネットでは自分に大して好意的な意見が多かったが、少なからず批判する連中もいた。メディアも多くは人気者のリリムに好意的であったが、中には痛烈にバッシングし、それで売上を伸ばそうとするところもある。そういう情報を集めて対策することも人気者の重要な仕事であった。


(三日後、お兄ちゃんの船、沈めちゃうからね。ククク……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ