第1話 そして僕は出会った(2)
平四郎……この作品の主人公。ヒーロー。メカ気狂いのスキル持ち。しかも、異世界へ行くとチート能力付与。いいなあ・・・。
「平四郎くん。時計の修理ありがとう」
昼飯時に会社の事務を担当している女子社員が手作り弁当を持ってやってきた。昨日、カルチェの時計が動かないと言っていたので、平四郎が分解して直してやったのだ。車どころか時計のような精密機械でさえ、平四郎には苦もなく直せるのだ。
「でね。平四郎くん。お礼と言ってはなんだけど……」
ムシャムシャと弁当を食べる平四郎。頭の中は午後からやる作業のことでいっぱいだ。
「今度の日曜日、お食事に行かない? すごく美味しいイタリアンを見つけたの」
「う~ん。お礼は別にいいよ。この手作り弁当で」
「でも、正規修理すると20万円って言われたのに、こんな手作り弁当一週間なんて申し訳ないよ」
「いや、いいよ。おっ、この唐揚げうめえ。煮しめもいいね」
「いや、だから……お礼というか、私が食べに行きたいというか……」
「食べに行きたいなら、後ろの友達と行けばいいじゃない?」
「え?」
女子社員は後ろを振り返ると、同僚の女子社員が2人、頑張れっと両拳を握っている。
今日、平四郎をデートに誘うと宣言したので応援のつもりらしい。平四郎は一見すると冴えない感じがする。だが、よく見ると誰が見てもイケメン男子なのである。この男の良さは仕事に熱中している時なのだ。この工場でも油で汚れた作業着に汗まみれの姿で女子はみんなキュンとなってしまう。さらにストイックなところがいい。草食男子にありがちな奥手な感じではなくて、女にがっついていないスマートさがいいのだ。(異性に対して鈍いだけなのであるが)
(あいつら~っ)
っと女子社員は思ったが、ここが正念場である。体を寄せて頭を平四郎の肩に傾けた。
「ねえ。そんなにお弁当美味しいのだったら、今晩、夕食を作りに行ってあげてもいいよ。平四郎くんのアパートに行っていい?」
(よし決まった!)
女子社員はそう思ったが、平四郎の反応は予想の斜め上を行っていた。
「おおお! いいこと思いついた。新型戦艦の主砲の位置、あそこにした方がデザイン的にもカッコイイ~」
「はあ?」
「じゃ、僕はこれで。お弁当ごちそうさま」
「ああん。平四郎く~ん」
慌てて平四郎を引きとめようとしたが、もはや作業場の人となっていた。鼻歌を歌い、946のエンジンと格闘をし始めた。
トリスタンへ異動しますか?
YES OR NO
「え? トリスタン?」
平四郎は夢の中で問い返した。
「わたしの名前はフィン・アクエリアス」
「僕は東郷平四郎。フィンって、日本人じゃないの?」
その少女はこくんと頷いた。
「どこの国の人?」
「メイフィア王国」
(そんな国あったかなあ?)
平四郎は社会科で習った記憶をたどったが、国連加盟国でそんな名前の国はなかったと思った。社会科は得意教科である。
「遠い世界。トリスタンにある国。魔法の国」
「トリスタン? 魔法の国?」
「そうです」
トリスタンへ移動しますか?
「はい」
「異世界トリスタン」の住人になりました。
「魔法王国メイフィア」の市民権を得ました。
「そこへ行ったら、フィンちゃんと一緒にいられるの?」
「うん……。でも……」
「でも?」
「そこでは、あなたはわたしたちのために働かなくてはいけないです」
「……働くよ。どんなことでもするよ」
コクンと少女は頷いた。そして平四郎に紙を手渡した。
「あなたの仕事はこれ……です」
職業 艦隊マイスター
場所 トリニスタン 魔法国メイフィア
待遇 月給制 月額は相談 ボーナス有り 休みは不定期
※学歴・年齢不問 適正検査あり
※第5魔法艦隊旗艦レーヴァテインで私たちと働きませんか?
「はあ?」
平四郎は一瞬目を疑った。
「何だこりゃ?」
「わたしの艦隊マイスターになってくれますか?」
「ちょっと聞いていい? 艦隊マイスターってどんな仕事?」
「空中武装艦を改造して強くするです」
「最初から設計して空中戦艦を新造することもできるです」
「へえ! それは面白そう。空中武装艦って今ひとつピンと来ないけど。宇宙戦艦と同じ匂いがプンプンするよ。すなわち、僕にぴったり合ってるよ」
「ふふふふっ……。平四郎くんて面白いです」
艦隊マイスターになりますか?
「YES」
「レベルMAX 艦隊マイスター」になりました。
「巧みな交渉人」の称号を得ました。
「超ラッキーな幸運の人」の称号を得ました。
「天然ハーレム王」の称号を得ました。
「無敵拳」マスターの称号を得ました。
「撃てば当たる人」の称号を得ました
「メイフィア語」「タウルン語」「カロン語」「ローエングリーン語」「トリスタン共通語」をマスターしました
「魔力MAX」の能力を得ました。
「10年後に私の世界に来るです」
バスで見つめあった子と平四郎はまた出会った。京都は清水寺の舞台の上である。バスでは分からなかったが、その子はスラリとした体型でやせ型で背は平四郎と同じくらい。ひとつに編んだ髪を左肩に乗せている長い髪が印象に残る姿であった。頭にちょこんと乗せたチェックのベレー帽がめちゃくちゃ似合う。小学生ながら、気品があるお嬢様って感じだ。学校がどこかの金持ち私立学校だったのだろう。ブランドものだと思われるタータンチェック柄の制服が何故か古い寺によく合っていた。
平四郎はこの時、勇気を出してこの子に名前を聞いた。
「フィン……」
その娘は名乗った。外人のような名前だな……と小学生の平四郎は思った。
「あ、あなたは?」
恥ずかしそうにその娘も聞いてきた。
「へいしろう」
「平四郎? 平四郎くん……。素敵な名前です」
その娘はポツリとそう言った。言ってから顔が真っ赤になった。平四郎は思わず、持っていたカメラで写真を撮っていいか?と尋ねた。今思えば、小学校のガキの行動じゃない。その子は恥ずかしそうにコクッと頷いた。平四郎と一緒に映した女の子の写真。家のどこかにあるはずだった。確か、あの子も写真を撮ったと思う。
それだけの関係であった。でも、平四郎には忘れられない記憶であった。脳の底からその記憶が蘇る。
「平四郎くん。今から10年後。トリスタンに来て、私を助けるです」
「トリスタン? 10年? 長いよ。僕はフィンちゃんと一緒にいたい」
「まだダメです。まだ時期じゃないです」
「そうなの?」
「あなたが私を助けることができる力を得てから。それが魔法艦隊のマイスターとしての役割です」
「マイスター?」
「そう艦隊マイスター。あなたは私のマイスター。必ず、必ず来るです」