表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
35/201

パンティオンジャッジ前夜祭(6)

「姫さま、姫さま……。交渉はうまくいきましたか?」


 第2公女リメルダは、パーティ会場を足早に去ると、あてがわれた部屋に閉じこもった。侍従である妖精族、ケットシーのナームが心配そうにリメルダに聞く。この妖精族、ケットシーは猫の姿をした生き物で、妖精国家ローエングリーンに多く生息する種族である。魔力にあたる妖力が強い種族であり、その力を買われてこの世界のいたるところで活躍していた。


「交渉は決裂よ! ナアム、あの異世界の男、生意気にも私の差し出す手を払ったのよ! 屈辱的だわ! アイツめ、この私を拒否するなんてありえないわ。ありえない!」


「フフフ……。姫さま、姫さまにしてはずいぶんご執着のようですね!」


「う、うるさい! ナアムがあの男を艦長に引き込って言うから、不愉快な思いをしたじゃないの! 私は別に艦長はあなたでも良かったのに」


「彼に振られたならこのナアムが務めますよ。でも、姫さまとあの異世界の少年。何だか、ナアムの占いによると浅からぬ縁があるみたいですよ」


 そうケットシーのナアムはくるりと宙返りをした。ケットシーの占いのダンスだ。


「いいよ。その占い、当たらないから!」


「はいはい。姫様はパーティ会場には戻らないのですか?」


「もう疲れたから寝る!」


「お風呂も入らず?」


「……」


「どうします? 姫さま」


「このままじゃ、気持ち悪いからやっぱり入るわ」


「はい。準備はできています。姫さま」


 ナアムは召使いを呼ぶと仕えている主君のドレスを脱がせ、念入りに体をマッサージするように命じた。


(姫さま、ケットシーの占いは、特にナアムの占いは当たるんです。あの異世界の青年、姫さまの運命の人になるって出てます)


 そう心の中でナアムはそうつぶやいていた。首からかけたペンダントを触る。幼馴染で婚約者だった男の子からもらったペンダントだ。その幼馴染も国を追われて今は行方不明になっている。


 リメルダもリメルダで、湯船に浸かりながらさっきの出来事を思い出していた。


(私を拒絶するなんて……。初めて……。あんなにはっきりと私にモノを言うなんて。あんな男、初めて……)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「フィンちゃんの第5魔法艦隊はなんの期待もされていない。僕が異世界からきた人間ということがせいぜいプラス要因だけのようだ」


 いつもの安宿に帰って平四郎は、堅苦しい儀式用の軍服の上着を脱いだ。トラ吉はもうベッドの下の専用の寝床にうずくまっている。


「旦那~。そりゃ、誰が見てもかませ犬以下だにゃ。総艦数4隻。旗艦は巡洋艦って、火力だけでも他の公女方に比べると半分以下だにゃ。いくら魔法力が強くても触媒たる空中武装艦がそれじゃ、旦那やフィン公女の能力が生かせないと考えるのが普通だにゃ」


「そこだ、そこだよ。なあトラ吉。この国の艦隊戦は派手な魔法攻撃の応酬なんだろ?」


「まあ、そうですけど。強力な魔力を魔法攻撃に変えて相手の船を攻撃するにゃ。そして、防御も魔法障壁がまず防ぎ、それが突破されると物理的耐久力で防ぐという流れだにゃ」


「その戦い方、昔から決まっているのか?」


「ここ1000年は変わっていないと思うにゃあ。たぶん。パンティオン・ジャッジが始まった1000年前。「ゴリアテの悲劇」があってからって言われているにゃ。」


 ゴリアテの悲劇というのは、1000年前のドラゴン攻撃でのこの世界の人間の5分の4が死に絶え、地上世界が死の世界に変わった出来事をいうらしい。天空の浮遊する大地に逃れた人間が現在の国家をつくったらしいが。


「単なる撃ち合いだと負けるけれど、そうじゃない戦いに持ち込んだから勝機はないだろうか? パンティオン・ジャッジがきたるドラゴンとの戦いにあるなら、新しい戦い方があってもいいだろう?」


「旦那、いいこと言うにゃあ。異世界から来た人間は発想が違うにゃ。戦い方を変えるって……。旦那ならやれるかもしれなにゃ。まずは、どうやって戦うかじっくり考えることだにゃ。それより、旦那さっきの告白やるねえ。いきなりプロポーズとは驚いたにゃ!」


 トラ吉のやつ、こっそり会話を聞いていたらしい。いやらしい猫だ。


「いや、あれはちょっとした間違いで……」


「それでもOKもらったにゃか?」


「そうなんだ!」


 平四郎はプロポーズしたシーンを思い出した。フィンが恥ずかしそうにうつむいてコクンとうなずき、返事をしてくれた場面を脳内で何度も繰り返し映像化する。


「ああ……僕はなんて幸せなんだ!」


「でも、そのフィアンセにキスどころか触ってもいけないんだにゃ」


「まあ、そうだけどね。でも、手ならいいんだって! フィンちゃんの手に触っちゃった」


「はあ~。旦那はいい年して小学生のような思考回路ですにゃ。今時、中学生でも手握っただけで満足しないにゃ」


「うるさい! 僕はそれでも満足なんだ!」


「そんなにガマンしても結婚は絵に描いたモチだにゃ。第5魔法艦隊が勝つ確率は限りなくゼロにゃ」


 トラ吉はあくびをして寝始めた。平四郎は明かりを消して目を閉じた。


(確率ゼロだって?いや、僕はありとあらゆる手を使って勝つ! 勝ってフィンちゃんと結婚するんだ。それがこの世界での僕の使命だ)


 本当はこの世界、トリスタンを守ると言いたいところだが、自分のようなちっぽけな人間には荷が重すぎると思ったのだ。平四郎としては心のよりどころであるフィンが第一だと強く思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ