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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
34/201

幕間 メイフィアタイムス発(1)

メイフィアタイムス ラピス記者。違う視点で主人公たちを見ていきます。

この変は「アドミラル」と同じ展開です。一緒じゃん・・・と怒らないでw

「で、メイフィア防衛艦隊司令長官としては、予想はマリー王女殿下の第1艦隊で決まりということですか」


「戦力差からいって決まりじゃろ。先ほどの余興はともかく」


 メイフィアタイムズの新聞記者であるラピス・ラテリは愛くるしい顔をさらに3倍増しにして通常は近づけないVIPである防衛艦隊司令長官に1対1の取材をしている。先程はマリー王女にもインタビューを敢行し、彼女の自信の程を聞き出してきたので、明日の朝刊のスクープはものにしていた。しかも、余興で第5魔法艦隊に配属された異世界の少年が第1魔法艦隊のヴィンセント伯爵を一方的にぶん殴ったスクープをものにしていた。


 ラピスは新聞記者としては3年目のまだ若手ではあるが、体当たり取材で数々のスクープをものにして会社でも注目を集めていた。今回もこの前夜祭に忍び込み、来賓客に化けて取材を敢行していたのだ。パーティードレスの胸元にメモ帳を隠し、怪しまれないように質問しては記録していた。


「普通に考えればそうじゃろ。旗艦のコーデリアⅢ世の魔法防御力はレベルMAX。理論上はエターナルドラゴンのブレスにも耐えうる性能じゃ。他の公女方の主砲じゃ撃ちぬけないことを考えれば、マリー王女の第1艦隊が勝つじゃろ。但し、リメルダ嬢の第2艦隊も侮れない。魔力さえ上げれば、コーデリアⅢ世の防御壁を打ち破れるかもしれない」


 アルコールが入って上機嫌の長官の口はなめらかである。


(はいはい……。マリー様の第1魔法艦隊が有利と……)


 鉛筆を舐め舐め、メモするとラピスは次の取材相手に向かう。第1魔法艦隊がこの国の代表になるだろうというのは、メイフィア国民が誰もが思っていることで、彼女としては、もっと意外性のある予想が知りたかったのだ。ふと見ると、メイフィア防衛大学の教授だが変人で有名なハウザー教授がいる。彼はまだ40歳だが天才肌の軍事研究家で、ドラゴンと空中戦艦の権威でもあったが、それ以外はいい加減な言動で変人扱いされていた。ちなみに女性に手を出すのが早いことで有名でもあった。


 ラピスはドレスをひるがえして、ハウザー教授に取材を敢行する。


「ハウザー教授。教授の考えですと、どの公女様が勝つとお思いですか?」

「おや? 貴族のご令嬢にしては、シビアな質問をなさる」


 ハウザー教授は顎に生えた無精ひげを右手で触り、ラピスの足先から頭のてっぺんまで観察した。そして、クスクスと笑い始めた。


「私、ヴィトン子爵の娘のレイナと言います。もうすぐこの世界を滅ぼすドラゴンが復活するのでしょう? それを迎え撃つ魔法艦隊の選抜戦ですから、貴族の娘といっても興味がありますわ」


「フフフ……。うそだね。貴族の娘というのは嘘」

「う、嘘じゃありません」


「まず第1に、君の顔は日焼けをしている。化粧でごまかしているようだが右耳の日焼け後は隠しきれていない。それは、外で飛び回っている仕事をしている証拠だ。貴族の娘なら日焼けなどしない。第2に右手のペンだこ。君は物書きか新聞記者などのライターをしている可能性が高い。第3に足に履いているヒール。君は普段は履いていないのでしょう? ふくらはぎの筋肉が悲鳴をあげていますよ。第4にその栗色のショートヘア。深窓のお姫様ならそんな活動的な髪型にはしない」


 ズバリ言い当てられて、ラピスは言葉がない。どうやら、この変人学者には正体はバレバレなようだ。


「さすが教授。正直に言います。メイフィアタイムズのラピス記者です。ジャーナリストとして、国民に正確な情報を伝えたいのです。衛兵に知らせてわたしを逮捕しますか?」


「いいや。君のような美人は大歓迎だよ。対ドラゴンにはなんの役にも立たない無能な軍人共に比べればマシさ」


 そう言いつつ、女たらしの異名を持つ教授だけあって、いつのまにかラピスの肩に手をやり抱き寄せて、腰に手を当てると見せかけてお尻をさわさわと触っている。


(女性を口説くのがうまいんじゃなくて、痴漢じゃないのか?)

 

 ラピスは心の中で舌打ちしたが、ここは騒ぐと自分が不利なのでグッとこのセクハラに耐える。


「で? 教授の予想は? やはり、第1艦隊で決まりですか?」

「いや。僕は第5魔法艦隊フィン・アクエリアス嬢が勝つと予想していますよ」


「へ?」

 思わずラピスは聞き返した。予想だにしなかった回答なのだ。相変わらず自分のお尻をなでてくるエロオヤジなので、何かの冗談と一瞬思ったが、この変人教授は発言する時には必ず何か根拠があって話すということをラピスは知っていた。その根拠が思いもよらぬことが多く、それで変人という名が付くのであるが、それが当たる時があるから、この男はこの場に招かれているのである。


「その根拠は?」

「先ほどの前哨戦。異世界の青年が一瞬でヴィンセント伯を倒したよね」


「確かにすごいですけど、あの青年はマイスターと聞きます。倒したのはすごいですが、ヴィンセント伯が油断していたようですし」


「君は見抜けなかったようだね」

「え?」


 平四郎の攻撃は30発にも及んだが、あまりの速さに一般客には1、2発のパンチが当たったようにしか見えなかったらしい。それをこの記者に教えてやる義理もないと思ったハウザーは、違う言い方をした。


「勝つといっても45%くらいかな?」


(45%でもありえないわ!)


「第5魔法艦隊は艦艇4隻。旗艦レーヴァテインは高速巡洋艦で後は護衛駆逐艦という編成で最も戦力は劣ると言われています。攻撃力は第4魔法艦隊のリリムさんの半分にも満たないのにどうすれば勝てるのですか?」


「君の考えるものさし、既成概念にとらわれていないかい?」


「既成概念?」


「確かに他の公女方の戦列艦の火力は第5艦隊を凌駕している。だが、戦いの勝因は火力と誰が決めたんだい?」


「それはドラゴンを倒す時に魔法攻撃が必要ですから……」


「人間の魔力を変換し、ドラゴンの耐性を考慮にいれた魔法弾による攻撃。これは人類が何千年もかけて考案した対ドラゴンへの対処法。だが、そのやり方はもう通用しないかもしれない。前回の500年前の成功で打ち止めということさ」


「どういうことですか?」


「そもそもこのパンティオン・ジャッジの制度はどうして生まれたと思う?」

「それは……。切磋琢磨することで魔力レベルを上げてドラゴンに対抗する力を付けるためで」


「ダメだなあ……。そういう学校で習った通りの答えじゃ、人類は生き残れないよ。もう一度、歴史をさかのぼってパンティオ・ジャッジの真の意義を考え出したまえ。既成概念が壊れた時に新たなものさしが生まれる。まあ、第5魔法艦隊がそれに気が付けばの話だけどね。」


そう言って、ハウザー教授は右手を上げた。これで取材は終わりという合図らしい。


(な、何だか答えをはぐらかされたような……いや、何だか下半身がスースーするような?)


 立ち去るハウザー教授が左手に引っかけているシルクの布切れを見て、ラピスはかあっ~と顔が赤くなる。


(あの男、いつの間に!)


「ああ、ラピス嬢。センスのよいモノを身に付けていますね。そのセンスにヒント1。第5魔法艦隊のマイスター、異世界の青年に注目。第2に旗艦を設計した人間に注目。第3にフィン嬢がなぜ選ばれたかに注目……ちょっとヒント出し過ぎかな」


 そう言うとクンカクンカと布切れの匂いを嗅いで立ち去る教授。思わず精神的ダメージで床に這いつくばるラピス。


(気がつかなかった私も悪いけど……。一体どうやって脱がせたんだ~)


「パシっ!」


 と手を叩く音がしてラピスはその方向を見た。今晩の主役の一人であるリメルダ第2公女が青年と向き合っていた。何やら話が決別したようで、プンプン怒ってリメルダが立ち去ろうとしている。


(あれは……。異世界から来た男? 確かトーゴー…ヘイシロウとか。面白くなってきたわ!)


 ラピスのジャーナリストとしての魂に火が付いた。これでスクープをゲットすれば、失った下着ぐらい賄賂として安い方だ。


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