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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
30/201

第6話 パンティオン・ジャッジ前夜祭(2)

ライバル登場!?

でも、チート技で瞬殺するw

「何だ? 異世界から召喚された勇者とか言ってもただのマイスターだろ。技術屋に過ぎない。職業軍人でもない奴がこの僕に勝てるとでも思っているのか?」

 

 ヴィンセントははめていた白い手袋を外すとそれを投げつけた。それは平四郎の胸にあたって落ちる。一部始終を見ていたトラ吉が平四郎に告げる。


「旦那、それは決闘の証でだにゃ。メイフィア貴族の儀礼だにゃ」

「ふん。そこのケット・シーの言うとおりだ。これは決闘だ。この場の余興を始めようじゃないか」


 ザワザワと観客たちが集まりだした。今回の主役でもある5人の公女もこの騒ぎの起きている方を見た。


「何事ですか?」

 マリー王女が侍従に尋ねる。

「ヴィンセント様が第5魔法艦隊のあの異世界から来た青年にちょっかいをかけたようです」


 マリーはまゆをひそめた。ヴィンセント伯爵は22歳の若者であったが、魔力の高さと王族という身分の高さで、第一魔法艦隊旗艦の艦長にしていた。だが、その女好きの性格から来る素行の悪さは常々、マリーは快く思っていなかった。それでも、実力重視のマリーはヴィンセントの戦術家としての腕と艦隊運用の巧さを買っての抜擢である。だからといって、他の艦隊の乗組員といざこざを起こすのは好ましいことではない。ましてや、今は神聖なパンティオン・ジャッジのパーティの場である。


(すぐ止めなければ……)


 そう思ったマリーであったが、ヴィンセントの相手の青年を見て思いとどまった。異世界から来た男で、第5魔法艦隊のマイスターと聞いていた。一目見て、マリーはこの青年が普通でないと感じた。底知れぬ何かを持っていると感じたのだ。


「マリー様、ヴィンセント様をお止めにならないので?」

 侍従がそう尋ねたが、マリーは軽く頭を振った。


「その必要はないと思います。ヴィンセントには痛い思いをしてもらいましょう」

 侍従は首をかしげた。ヴィンセントは魔道拳の達人である。見た目、優男に見える異世界の青年が勝てるとは思えなかった。



「皆さん。今からパーティの余興を始めます。護衛の兵士諸君も手を出すな。これは王族であるヴィンセント・ヴァン・ノインバステンが正式に申し込む正々堂々とした決闘だ。何、この場を血で汚すことはしない。男と男の勝負。拳法で決めよう」


 そう言うとヴィンセントは上着を脱いでファイティングポーズを取った。平四郎も上着を脱ぐ。フィンを嫁にするなどと抜かすこの男をぶん殴りたいと心底思った。


「護衛の兵士は気にする必要はないよ。僕を殴っても本来なら王家に対する不敬罪に問われるけれど、これは正式な決闘。例え、僕に怪我を負わせても罪には問われない」


「それはありがたい」


 ヴィンセントのするどい蹴りが放たれる。かろうじて平四郎はかわしたが、代わりに後ろにあった大理石の柱が削り取られた。尋常の蹴りではない。平四郎の足元にいたトラ吉がヴィンセントの蹴りを見て言った。


「旦那、あれは魔道拳ですにゃ。蹴りや拳に魔力を乗せて放つこの国の武道だにゃ。しかもこの威力、有段者だにゃ」


けっと・しーのくせに僕の強さを見破るとは。その猫の言うとおり、僕は魔手道拳7段。師範代クラスだよ。魔力は3万。心配はいらない。死なない程度に手加減はしてあげるよ」


 平四郎はシャツの腕をまくる。こんな人間離れした攻撃を受けても不思議と恐怖心が湧いてこない。それよりも自分が目の前の男に勝てるという根拠のない自信が支配していた。


「ふん。何が正々堂々だ。有段者が素人相手に恥ずかしくないのか。笑わせるな。このズル貴族が!」


「へ、平四郎くん!」


 騒ぎを聞きつけたフィンが群衆をかき分けて平四郎に向かって叫ぶ。ヴィンセントの攻撃をかろうじてかわした平四郎はフィンと目があった。その時だ。赤い糸がフィンの胸から放たれ、平四郎の胸からも出る。それが絡みあう。平四郎の黒い瞳が赤く変化した。


「コネクト!」


 無敵拳の使い手になりました。


「激アツと行こうか……」


 平四郎は目を閉じ、そう小さく呟いた。そして0コンマ1秒で開いたとき。無我の境地になったような悟りきった表情になった。数値は測れないがおそらくあのドラゴンとの戦いのように無限大に魔力が高まっているのだ。


「さあ、観客を喜ばすための演出はここまで。軽く気絶してもらおう。アバラの骨も数本いただくよ!」


 ヴィンセントが鋭い拳を平四郎の顔面に撃ちつけた。そして強烈な蹴りも同時に胸へ。これで終わるはずだった。異世界から来た男といっても魔力は皆無で、空中艦の整備しか脳のない青年と聞いている。大した戦闘力がないことは事前に調べがついていた。ヴィンセントは軽い男のようだが、じつは用意周到なしたたかさをもっていた。この勝負も自分が100%勝つことを予想しての仕掛けだ。ここで平四郎を潰しておくことで、後にフィンを手に入れる布石にする計画であった。


 だが、その計画は結果的に挫折した。自信も叩き折られた。勝負を一瞬で決めるつもりで顔面に放った拳ははじかれ、蹴りも跳ね返されたのだ。


「ば、馬鹿な! シールドだと……触媒も使わないでそんなことが……」


「うおおおおおおおおっ!」


 平四郎のパンチがヴィンセントの顔面を捉える。さらにあごに、胸に腹に次々と拳を繰り出す。実に一瞬で30発はヒットさせた。手加減しなければ一瞬で100発パンチを浴びせたであろう。ヴィンセントは鼻血を吹き出し、前歯が折れ、アバラ骨も二本折れてさらに料理が並ぶテーブルの上に体ごと落ち、料理まみれになって気絶した。


「ふん。前哨戦は第5魔法艦隊の勝ちだな」


 平四郎はヴィンセントを殴った拳をさすった。ヴィンセントの胸ポケットに差してあったハンカチが舞いながら落ちてくる。それを何事もなかったようにつかむと、血がついた拳を拭った。平四郎は自分がなんでこんなことができるのか不思議であったが、フィンと赤い糸でつながったような感覚があると超人的な力を発揮するのはこれで2回目だ。


「す、すげえにゃ。旦那」


 トラ吉はそう驚いていった。妖精族であるトラ吉には、フィンと平四郎から出現した赤い糸が見えたのだ。これは伝説に聞く(コネクト)という現象だ。かつて、異世界から来た勇者が時折見せたという現象であるとトラ吉は理解していた。運命の相手とコネクトが成立したとき、その者は無限大の魔力を得るという。


(コネクトができるとはにゃ。やはり、神はこの世界を見捨てていないにゃ)


 技の華麗さに観客も息を飲んで一瞬静かになったが、その次に割れんばかりの拍手と歓声が響いた。担架に乗せられ、護衛の兵士に運ばれていくヴィンセント。


 パーティに参加している令嬢たちが心配そうに担架に駆け寄るが、観客の注目は平四郎に殺到した。ヴィンセントの強さは有名だったので、それを一瞬で殴り倒した異世界の勇者に注目が集まったのだ。


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