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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
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第1話 そして僕は出会った(1)

 時が止まった。

 

 その時のことを思い出すと平四郎はいつも鮮明に思い出す。バス越しの窓から見た女の子。黒い髪に切れ長でまつげが長いとびっきり可愛い子だ。その時の平四郎は小学六年生。修学旅行で京都に向かうバスの中だ。トイレ休憩で立ち寄ったバーキングエリアでその女の子を見のだ。向こうも修学旅行へ行くどこかの小学校のバスだろう。

 

 バスがサービスエリアに入った時、平四郎はトイレへ行くという友達の誘いを断り、休憩時間の10分をボーッと窓の外を眺めて過ごすことにした。遅れて入ってきた女の子のバスはぴったりと平四郎の学校のバスに横づけされた。ちょうど席が同じような場所だったので、ガラス越しにわずか1m少々という距離で顔を突き合わせたのだ。

 

 小学校六年生だ。異性への興味などまだ男子には早く、他の男子と同様にクラスの女子には全く興味ない平四郎であったが、その黒髪の女の子からは目が離せなかった。

 

 女の子は平四郎がこちらを見ていることに気づいて、顔を赤らめ、一瞬視線を落としたが、平四郎の方を向いた。目と目が合う。お互いが吸い込まれるように見つめあう。


(なんて神秘的で可愛いのだ)


 思い出す度に脳に刻まれた映像に思わず、平四郎は独り言を言ってしまうくらい可愛いのだ。クラスの女子、いや、学校の女子にもこんな可愛い子はいない。

 平四郎は自分の顔が火照って熱くなるのを感じた。バスの向こうの女の子も顔が赤くしているのが見えた。

 

 どのくらい見つめ合っただろうか。友達が戻って来始めたので平四郎は慌ててノートを取り出した。A4サイズ1ページに大きく、ボールペンで書いた。


「清水寺に行く?」


 なんでそんなことを書いたのだろうか。今でも分からない。女の子もノートに「YES」と書いて平四郎に見せた。そしてコクンと頷いた。


 やがて人数が揃ったバスはドアを閉めて動き出した。隣の友達が平四郎に話しかけてきたが平四郎の目はその女の子に向けられていた。女の子の口がゆっくり動くのが分かった。


「待ってるです……」

「行くよ……すぐ行くから……」


 平四郎もそうつぶやいた。目の前が暗くなり、白い文字でこう刻まれた。


「公女の騎士」の称号が与えられました。

「空中武装艦整備士」の称号が与えられました。


「はあ……。またかよ」


 平四郎は目覚めた。ここ毎日、昔の夢を見る。あの黒髪の美少女ふぃんの夢だ。出会った時の小学生の時の夢から、二人が成長した後に一緒に暮らしている夢などバリエーションは豊富な夢だ。自分の妄想力は無限なのかと思うほど、夢の中で様々な年代になってフィンと過ごしている。


 彼女に初めて会ったのは自分が六年生の頃だから、もう10年近くが経過している。彼女とは修学旅行以来、一度も会っていないというのにだ。 


 今の平四郎は21歳。職業は自動車整備士だ。小さい頃からメカが大好きで将来は宇宙戦艦を作ると公言していた。さすがに現代の日本では宇宙戦艦は作ることができないけれども、その欲求は部屋に飾られた自作の模型で紛らわしていた。型から作る本格的なもので、設計デザインから制作まで全て自分でやっていた。腕はプロ級でプロモデラーとして十分やってはいける腕はあったが、あくまでも趣味の範囲でしか考えていなかった。作った架空の戦艦模型がネット上で10万円以上の値が付くこともざらであったが商売する気はなかった


 自動車整備の仕事を選んだのは、メカが好きな自分に会っていると思ったから。別に車じゃなくてもよかったが、自分が直したり、組み立てたりしたものをすぐ客が使ってくれることに価値を感じていた。でなければ、飛行機でもよかったし、戦車でもよかった。


 何か物を作る仕事をしようということは中学校卒業時に決めていた。全教科オール5で教師が地元の進学校に行くように勧めたががんとしてはねのけて自分の進みたい工業高校へ進み、そこでも開学始まって以来の天才と騒がれて、工業大学の推薦や有名企業から誘いもあったが、全て断った。理由は自分で好きなものを作りたいから。就職した会社も大手ではなくて、輸入車を整備、レストアして売る小さな会社だ。小さいなりに顧客は金持ちが多いので繁盛している会社である。


「やあ、平四郎くん。わしの964どうだね」

「これは鷲津社長。わざわざ、来てくれたのですか」

「また、君の神業が見たくてね」 


 鷲津はレストランチェーンを経営している社長だ。今年で52歳になる。金持ちなのだから、新車を買って乗ればいいのに、旧車を手に入れて整備することが趣味なのである。ただ、車の目利きが今ひとつなので、一目気に入ったら即買して故障に悩むということを繰り返していた。


 このポルシェ964もオイル漏れで昨日、この工場へ運ばれてきたが平四郎が見る限り、他にもトラブルがありそうであった。


「パッと見、これはスルーボルトのOリングがやられていますね。油温が上がると劣化すると言われてますからね。前のオーナーは街乗りが多かったのでしょう。エンジンのオーバーホールが必要です」


「ほう」


「あとディストリビューターのベルトが切れかかっていますね。切れると異常燃焼を起こしてエンジンが破損してしまいます。この際、交換したほうがいいでしょうね。あと……」


「もういい。全部、君に任せるよ。直すだけじゃなくて、その後のチューンアップもお願いしたい。2、3ヶ月は預けるから好きなようにカスタマイズしてくれ。わしが官能でもだえるようなチューンしてくれればいい。金に糸目をつけないよ」


了解ラジャー


 平四郎は喜々として作業に取り掛かる。車をリフトで上げてアンダーカバーを外して自分の見立てを確認し、エンジンを下ろしてオーバーホールするのだ。


「親父さん、すごい若者がいたもんだ」


 鷲津は作業場から事務室へ移動した。ここ十年来付き合っている工場の社長とお茶を飲みながら平四郎の作業を見ている。


「ああ。わしも驚いている。奴は見ただけで原因が分かる能力があるようだ」

「見ただけで?」


「初めて見る車でも設計図を見るかのように頭の中で構造を映し出せるそうだ。わしもその話を聞いた時にそんなバカなと思ったが、奴の働き振りを見る限り、嘘ではないようだ」


「輸入車4台のオーバーホールを同時に3日間でやったと聞いたが……」

「しかも定時でな。残業もせずにやるとは神業としか言い様がない」


「さすが、技能五輪の機械の部の金メダリストですな」

「こんな町工場で働くのがもったいない。やる気になれば、奴はロケットでも組立てられますよ」


「それが冗談に聞こえないのが彼のすごさだ」


 鷲津は湯呑みに残ったお茶をぐいと飲み干した。修理だけなら夕方には車は直りそうだ。普通の整備工場なら少なくとも1週間は待たされるであろう。



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