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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
29/201

第6話 パンティオン・ジャッジ前夜祭(1)

「只今より、パンティオン・ジャッジに選ばれし、5人の公女殿下の入場を行います」


 司会の書記官が厳かに告げる。魔法王国メイフィアの王都クロービスの中心に位置する王城トラフォルガーの大広間には2000人を超える客が招かれていた。今夜の式典を機に5人の公女が率いる艦隊同士の戦いが行われ、この国の世界を救う代表が決められるのだ。


 第5艦隊旗艦レーヴァテインのマイスターで少佐である東郷平四郎は、この式典に関係者として参加している。式典に出られるのは貴族か大商人、上級の官僚と軍では魔法艦隊関係する佐官以上の将校か、国軍の将軍クラスに限られるので、第5魔法艦隊で参加しているのは少佐待遇の平四郎だけである。きらびやかな女性も招待客の関係者で、招待されているのはこの国の一流の人間だけであった。


「まずは、第1魔法艦隊提督、第1公女マリー・ノインバステン王女殿下」

「うおおおおっ!」

 

 大歓声と「王女殿下万歳」の掛け声の中、輝くような金髪に巻き毛、スタイル抜群の女性だ。年は平四郎と同じくらいに見える。欧米のモデルか? と思えるようなゴージャスさの中に王女と呼ばれるだけの気品と血筋の良さが前面に出ている。


(すげえ……美人)

 平四郎も思わず小さくつぶやいた。そのくらい、高貴なオーラを放っている。


「みなさま、今日はよくお集まりいただきました。マリーは感謝致します」


 そう一言を残し、会場の5つ置かれた椅子に座る。


「第2魔法艦隊提督、第2公女リメルダ・アンドリュー公爵令嬢」


 今度は黒髪スレンダー美少女が現れた。ちょっと目がつり上がった感じのキツイ感じではあるが、このお嬢さんも清楚な気品に包まれている。


「第3魔法艦隊提督ローザ・ベルモント嬢」

 

 3人目はマリー王女よりもゴージャス……。いや、超迫力ボディ。Fカップはあるのではという巨乳の谷間を宝石が散りばめられたパーティードレスの胸元から惜しげもなく出し、さらにビックなヒップがプリンプリンしている。長い赤毛のロングヘアにちょこんと乗るティアラは光り輝く5つの大きな宝石が輝いている。指にも豪華な指輪が光る。王女様や公爵令嬢よりも豪華さの点で目立つ。ゴージャズという英単語がぴったりな女性である。


「旦那、あの娘がベルモント財閥のご令嬢にゃ。今回の参加者の中では魔力は弱いが金の力は史上最強で、統率する艦隊数は第1魔法艦隊以上と聞くにゃ」


 そうトラ吉が平四郎の後ろからワイングラスを片手に出てきた。トラ吉も指輪に変化へんげして平四郎にくっついてきたのだ。そして、今は堂々と元に戻って参加客を気取っている。宴には妖精族の招待客もいて、エルフやドワーフ、ケット・シーもいるから、後で変化を解いても問題ないであろう。トラ吉はローエングリーンで伯爵だったと言っていたが、あながち、嘘ではなさそうだ。華麗な服を来た猫は違和感なく会場に溶け込んでいたからだ。


(確かに、大金持ちはこういう人だよ!というベタな人だな)

 と平四郎はローザを見てそう感想をもった。この世界に来ても元の世界と同様の庶民の暮らしをしてきたから、こういう金持ち娘を見るのはとても新鮮だとも思った。


「第4魔法艦隊提督、リリム・アスターシャ嬢」


 今度は「リリムちゃーん!」

 という掛け声と共に宮殿の外に集まった群衆の声が響き渡った。どうやら、ものすごい数のファンがこの城を取り囲んでいるらしい。


「リリム・アスターシャは、この国の超売れっ子歌手にゃ。メイフィアの歌姫にゃ」


 そうトラ吉が解説するまでもなく、平四郎にはこの美少女のアイドルとしての輝きを感じた。但し、リリムちゃんはちゃん付するのがふさわしい。どう見ても小学生か中学生という小さな女の子だ。歌姫といってもまだお子様である。


「なあ、トラ吉。今回のパンティオン・ジャッジは500年ぶりなんだよな」

「ああ、そうさ。というより、500年に1回開かれるからにゃ」


「王女様に、公爵令嬢、財閥令嬢にアイドル……さすが、500年に1回開かれる伝統の儀式なんだろうけれど、あの中にフィンちゃんはかわいそうじゃないか?」

 

 平四郎は思わずそうトラ吉に話しかけた。確かにフィンも美人だし、可愛いとは思うが他の4人のキャラの強さに比べるとあまりに違いすぎた。この4人に比べたらフィンは地味すぎる。


(そこが良いのだが)


 平四郎がそう思ったことは、間違いないようで、最後にフィンが紹介されても型通りの拍手で軽くスルーされてしまっていた。フィンもそれで満足のようでそそくさと席に座ると、座っているにいない……みたいな感じになってしまった。


 この後、マリアンヌ女王が登場し、パンティオン・ジャッジの開始宣言と共に立食パーティーとなった。参加者は5人の公女に話しかけたり、思い思いに談笑にふけったりしている。


 平四郎もフィンのところへ行こうかと思ったが、昨日のあのフィンの姿を思い出すと会うのが恥ずかしくてどうも一歩が出ない。


「君がフィンの旗艦のマイスターに抜擢された異世界の少年?」


 後ろから話しかけられて平四郎が振り返ると、長身細身で金髪のサラサラヘアを嫌みたらしくかきあげているイケメンが立っていた。いかにもヨーロッパの王子という風体で大抵の女子が「きゃあ!王子様素敵~」などと叫ばれるが、それに「ふっ……」などとほざいて、「モテる男はつらい……」などとキザなセリフをはく感じの男だ。


 ちなみにこういう男は見た目だけで平四郎は大嫌いと判定している。これなら顔はいいのに三枚目のナセルの方がマシだ。


 だが、見た目だけで敵と決めるのも知らない世界では不利なので、平四郎は適当に応えた。


「はあ?」


「僕はヴィンセント・ヴァン・ノインバステン伯爵」

「ノインバステン? あの王女様のお兄さんか、何か?」


 この国の女王はマリアンヌ・ノインバステン女王であるから、この男、少なくとも王族なのだろう。イケメンで血筋も名家とは万死に値する。


「兄? おーう! それは間違っている。僕はマリーの従兄妹で現時点では彼女の部下さ。つまり、彼女の最強の第1魔法艦隊旗艦コーデリアⅢ世の艦長を勤めている」


「なるほど……。ライバルってわけか?」


 平四郎が小さな声でぼそっとしゃべると、その言葉を目ざとく聞いたヴィンセントは右手を額に当てて、急に笑い始めた。


「ククク…ハッハッハ。これは笑える。僕と君がライバルだって? これは何のジョーク?もしかして、君は知らない? 知らないんだ! いや、ますます面白い」


 平四郎は不愉快になった。最初の印象はどうやら正しかったようだ。このいけ好かないイケメン野郎は性格も最低なようだ。


「僕はこの世界に来てまだ100日だ。知らなくて当然だ」

「そう言えばそうだったね。いや、これは失礼。まあ、せいぜい、がんばってくれたまえ。


 君たちと戦えることを祈っているよ。まあ、100%無理だけどね。あ、そうそう。言い忘れていたけど、君の提督、フィンちゃん。結構可愛いね。第5魔法艦隊じゃ、注目されないけど、ああいう地味目の美人はいいね。だから……」


「だから……なんだよ!」


 平四郎が答えるや否や、グイっとヴィンセントは平四郎の胸ぐらを掴み、耳元で囁いた。


「お前、フィンには手を出すなよ。彼女は僕が目をつけたんだ。勝ったら恩賞として彼女を僕のヨメにしようと思っているからな」


「よ、ヨメだって! ふざけるな!」


 平四郎はヴィンセントの手を払い除けた。


フィンちゃんを嫁にだって!

ゆ、許さん!

ヴィンセント伯爵、ぶん殴るw

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