第5話 公女様はアルバイト中(7)
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ミートがフィンと出会ったのは軍の幼年学校であった。それは民間の小学校に当たるところで9歳から入れることころだ。ミートは父親が軍人だったこともあり、父が空中艦の事故で亡くなった時に母親の反対を押し切ってミートは初等学校から12歳で編入したのだ。軍の幼年学校であるから、貴族の子弟や軍人の子供が多く入学しており、さらに対ドラゴンのパンティオン・ジャッジが数年後に始まることもあって、将来、空中武装艦に乗って戦う女子も多数入学していた。
そんな中にフィンが転校してきた。正確に言うと異世界「日本」に留学していた彼女が戻ってきたのだ。ミートが見たところ、フィンは完全に場違いな生徒で最初に入ってきた時に(何でこの子が……)と思った。でも、フィンがパンティオン・ジャッジに出る公女候補だと聞いてなるほど……と思うと同時に強烈な嫉妬心が湧いてきた。
(何であんな弱虫な女が公女候補なのよ!)
ミートは自分がこの幼年学校に入った理由からして許せなかったのだ。フィンは大人しい性格で目立たなかったが、そのくせ、公女候補だという肩書きだからみんなから何かと嫌がらせを受けていた。友達も一人もいないようで女子からぽつんと浮いていた。見てくれがかなりの美形で物静かだから、男子には人気があり、それが余計に女子の反感を買っていた。何しろ、ミートを始め、この学校に来ている女子はみんな超活発系女子なのだ。ミートはあからさまにフィンをいじめることはなかったが、それでも無視していた。関わりになりたくないと思っていたのだ。
ある時、放課後、一人で教室に戻ってみるとフィンが泣きながら破れたノートを集めているのを見た。どうやら、机の中にあったノートを破り捨てられたようだ。
(陰険ないじめをするなあ……)
さすがにミートはいじめているグループに嫌悪感をもった。それもあって普段は無視するのに声をかけたのだ。
「なあ、あんた……あんたって、公女候補なんだろ」
コクンと頷くフィン。公女候補はいい家の娘が多い。王族や大貴族、財閥の娘などだ。将来、魔法艦隊の提督になるのだから軍事的な学問を修めなくてはいけないから、軍の幼年学校に行くものもいるが、大抵は特別扱いで学校には来ないのだ。学校に行かなくても家で一流の講師を招いて学ぶのだ。
「あんた、序列は何位だい?」
大したことないだろうとミートはタカをくくっていた。公女候補は50人。全国から選ばれている。魔力を3ヶ月ごとに測定されて、順位が入れ替わるのだ。最終的にパンティオン・ジャッジが始まる6年後に5位まで入った候補者が公女となり、魔法艦隊を率いるのだ。
「5位」
「は?」
「5位です」
「う、うそ~」
ミートは驚いた。シングルナンバーというだけでも驚きだが、5位ということは魔法艦隊提督候補なのだ。フィンは嘘をつける感じではない。それに先日まで異世界に留学していたという。それは大変な術式魔法を使うので大勢は行かせられない。かなりの上位じゃないと行けないはずだ。となるとフィンの言っていることは本当だ。
「魔力は?」
「今は1万8千です」
「……」
ミートは現在1800である。10倍もの開きに公女候補生の次元の違いを感じた。
(ふう~)
ため息をつくミート。自分の目標は魔法艦隊の士官になることである。ドラゴンを倒す魔法艦隊で自分の力を尽くしたい、ドラゴンは皆殺しにするんだと心に誓っていた。となると、この弱虫公女候補の下で戦うことになるかもしれない。
「わたしは約束したのです。ドラゴンに殺されたお姉さんの敵を取るって」
「へ?」
敵と言われてミートはドキッとした。自分も父の敵を取ろうと心に誓っていたのだ。父は公式には事故死とされていたが、本当の理由をミートは知っていた。
(ドラゴンに殺されたのだ)
パトロール艦隊の艦長だった父は、僚艦をかばってドラゴンブレスをまともに受けて艦ごと破壊されて戦死したのだ。だが、国民に真実を知らせない政府によって本当の理由は伏せられたのだ。父の戦友から偶然に聞いたミートは、いつか父の敵を取るのだと思っていた。同じ理由をフィンももっているのだ。
「わたしは生まれつき、魔力が強かったです。公女候補なんて言われて迷惑だと小さい頃から思っていましたです」
そう言ってフィンは語りだした。二年前にドラゴンに襲われて一人だけ助かった出来事を。ミートはその事件を知っていた。この国の第一王女様も巻き込まれた事故だ。ドラゴンに襲われたという噂もあったが、空中艦の故障というのが正式な見解であった。だが、ドラゴンの仕業といってもおかしくはない。それにあの事件は一人も生存者はいないことになっている。だが、フィンが生存者だと言う。
(これも国民のための情報統制なのか……)
「あんたにやれるの?」
何でこんなことを言ってしまったか今でもミートは分からない。そして、いつもはおどおどしているフィンが堂々と答えた言葉も忘れられない。
「やれるでちゅ……」
噛んだ。明らかに噛んだ。顔を真っ赤にして「やれるです」と訂正したフィンをこんな面倒くさい奴だからいじめられるんだと思いつつも、ミートはフィンの手を取った。なんでこんなことを口走ってしまったのか、今でもミートは不思議に思う。メンドくさい展開に自ら飛び込んだのだ。
「あんたに協力するよ、フィン」
「メート、あ、ミートさん……」
(めんどくさ~っ!)
めんどくさいがある種の感情が勝った。母性本能。ミート・スザクのふくよかな胸に象徴される母性本能が解放された。(守ってあげたい)という感情だ。
「ミートでいいよ」
その日からミートはフィンの友となった。入れ替わりの激しい公女候補のランキングもフィンは一度も5位から落ちることなく、また上がることなく今に至っている。正直、自分が友としてフィンを支えなけれれば、第5魔法艦隊なんて編成できなかった。何しろ、この第5公女は戦闘にはさっぱり才能がなく、提督の職務を果たすなんて到底できないのだ。家もそんなにお金持ちでもなく、金の力で人材や装備、艦艇を整えることもできなかった。フィンは異世界で出会ったという一人の男の子のことを嬉しそうに話す普通の女の子なのだ。
(その男の子が平四郎。とんでもない勇者……。フィン、あんたの男を見る目だけは立派だわ)
異世界日本には、マリー王女やリメルダ公爵令嬢も行っている。(ローザとリリムは当時ランキングが低かったので参加していない)マリー王女が見つけられなかった勇者候補を見つけた時点でフィンがこの世を救う救世主ではないかと思ったが、単に大人しいくせに男好きの要素を持っているフィンがたまたま見つけただけではないかとさえ思っている。
この娘。大人しい顔をしているが、結構エロいのだ。平四郎のことを語らせたら1時間でも2時間でもしゃべっている。まあ、エロ話も平四郎との絡みだけであるが。




