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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
1巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 1
23/201

第5話 公女様はアルバイト中(3)

「ふーん。じゃあ、やってみ」


 平四郎に言われて、このケット・シーはビンの中で立ち上がり、長靴姿で華麗にタップのリズムを刻む。これは見ているだけで楽しい。ちょっとした陽気なダンスである。楽しげな様子に周りの客が集まってきた。やがてケット・シーは一回転すると、口調を変えてこう話をしだした。


「旦那には好きな女の子がいる。相手も旦那のことを快く思っているようだ。だが、他にも旦那を思う女の子が現れる。ハーレムを受け入れるか否か、迷う時がくるであろうにゃ。」


「ハ、ハーレム?」

「そうさにゃ。このトリスタンは平等に接することができて、第一夫人が許可すれば、第2夫人がもてるにゃ。もてる数は無限にゃ」


「なんだそりゃ。確か僕の世界でもそんな国あったけれど……アラブとか……」

「ハーレムだにゃ。かわいい女の子がいっぱいだにゃ」

「いらないね。僕にはフィンちゃん一人で十分」


「ダーッ。信じられないにゃ。ハーレムは男のロマン、掴み取るドリームだにゃ」

「猫はそうかもしれないが、人間は一人の女の子に愛を貫くんだよ」

「猫じゃないにゃ。オイラはケット・シー。妖精族だにゃ」


「妖精族ねえ……」

 平四郎は少しだけ聞いたことがあった。このトリスタンには4つの国はあり、その一つに妖精族が住むローエングリーンという国があるということを。そこはエルフ族、ドワーフ族と言ったファンジー世界の定番の種族が住んでいるそうだ。ケット・シーもその国を構成する種族なのであろう。


「その妖精族の君がどうしてペットとして売られているんだい?」

「それはだにゃ。深いわけがあってだにゃ」

「深いワケはいえないわけだ」

 平四郎は立ち去ろうとする。ケット・シーは慌てて平四郎を引き止める。


「分かった、分かったにゃ。言うからオイラを買ってくれにゃ」

「買うかどうか分からないけどね」

「うーっ。そんなこと言わないでにゃ。言うからにゃ。おいらはローエングリーンで貴族だったにゃ。でも、政変で失脚して政敵に捕まってしまって売り飛ばされてしまったにゃ」


「貴族? 猫が?」

 平四郎はあまりのおかしさに笑ってしまう。ローエングリーンという妖精族の国は変わった国らしい。このメイフィアも十分変わっているがそれ以上だ。

「笑わないでくれにゃ。一応、これでも伯爵だったにゃ」

「ふーん。伯爵? マジかよ」


何だか必死なケットシー。胡散臭さは充分感じているが、何だかかわいそうになってきたのも事実である。平四郎は、気まぐれでこいつを買って解放してやろうと思い始めた。


これも何かの縁だろう。そう思うことにした。

「あのおじさん、この動物買いたいのですけど」

平四郎は露店のオヤジに話しかける。オヤジは売れないと思っていたらしく、平四郎が買うと言ったら大喜びする。平四郎から金貨を受け取ると瓶からケット・シーを取り出した。逃げ出さないように魔法封じの首輪を取り付けて、平四郎に引き渡す。


 受け取った平四郎はすぐその首輪を外した。これでこのケット・シーは妖精力を使うことができる。


「ありがとうにゃ。いや、今から旦那はおいらのご主人様、主君にゃ。旦那と呼ばせてもらうにゃ」


店から離れてからケット・シーはそうお礼を言った。(さっきから、旦那って呼んでたし……)と平四郎は突っ込みたかったが、ここは猫に話を合わせた。


「旦那って、おっさんみたいだな。僕の名は東郷平四郎。君は?」

「おいらの名前はペットに身分格下げされた時に奪われてしまったにゃ。おいらを解放してくれた平四郎の旦那がおいらの名を付ける権利があるにゃ」


「そうなのか? ふ~む。名前ねえ……」


 平四郎はこの長靴を履いた猫を見る。大きさは標準的な猫に比べて少し大きい。2足歩行しているから、背丈は平四郎の足ほどになるが、それ以外はただの猫だ。毛並みは茶トラなので、平四郎は日本の猫によく付ける名前が浮かんだ。


「じゃあ、君はトラ……トラ吉にするよ!」


「トラキチ?何だかカッコイイ名前だなにゃ。平四郎の旦那、オイラは気に入ったにゃ」


そう言って、この不思議な猫妖精はくるりと宙返りをするとコロンっと指輪に変わった。驚いたことにケット・シーは変身魔法が得意なのだ。但し、一度変身すると30分立たないと元に戻れないし、元に戻らないと違うものにはなれない。化けられるのも身近な小物に限られるのだ。


「平四郎の旦那。普段、オイラはこの指輪に化けているから、鎖をつけて首にでもかけておいてくれにゃ。ちなみにこの声は平四郎の旦那だけにしか聞こえない妖力だにゃ」


 平四郎はそっと指輪を見た。金色がベースでトラ柄の指輪だ。露天で革紐を買うと指輪に通して首にかけた。何だか変なペットというか、相棒と出会ってしまった。店のオヤジによるとケット・シーは第2大陸の妖精族が住む地域にいる種族で、本来はペットにならないそうだが、犯罪をして妖精族から追放されてペットの身分に落とされるものがいるそうだ。トラ吉の奴、国の政変で反対派に捕まって売られたというのだが、一体、どんなことがあったというのであろうか?


(平四郎の旦那、待ち合わせしている姉ちゃんが来たようだにゃ。お、しかも可愛いにゃ。超カワイイにゃ。平四郎の旦那、面食いだな。どうやって、あんな美少女ものにしたにゃ?)


 心の中でトラ吉が話かけてくる。視線を泳がすとフィンが走ってくるのが見えた。このメイフィアの気候は日本の初夏という感じで、じっとしているだけで汗ばむ。平四郎は長ズボンとTシャツみたいなラフな格好だが、フィンは白いワンピースにつばの広い帽子という出で立ち。ワンピの丈が膝より少し上で恥ずかしがり屋のフィンにしては大胆な格好であった。


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