エピローグ そして僕に嫁ができた……。
「あ、今、動いたわよ」
王宮の豪華なベッドで平四郎はリメルダのお腹に触れていた。あの戦いから2年が過ぎようとしていた。リメルダが指揮をとったノアプロジェクトのおかげで、人類は地上を起点に再生しつつあった。残存するドラゴンを倒し、人類の版図を広げていった。平四郎とリメルダは、このトリスタンの救世主として、4種族が平和に暮らす国、アクエリスを建国し、初代の王とその第2王妃になっていた。
二人にはすでに王子が生まれており、名前は平七今年、1歳になる。
(どうやら、あの時に命中してしまったらしい……)
二人目の赤ちゃんも順調に育っていた。華奢な体つきの割に、リメルダは多産である。元々、アンドリュー公爵家が多産系だから当然であったが。結局、この二人は5人の子どもに恵まれる。(2男3女)
ちなみに、見事に生還したリメルダの兄は、エヴェリーンと結婚してもう子供もいる。こちらも子沢山になる。(さすが、アンドリュー家のDNA)
リメルダの兄シャルルは、この国の政治を行う内務大臣としてこの国の政治を支えていたし、エヴェリーンは出産しながらも、アクエリアス連合艦隊司令長官として、エターナルドラゴン消滅後に逃げ散ったドラゴン掃討戦の指揮を取っていた。
ナセルもトラ吉もあの爆発から生還した。クリオが渡した緊急脱出ボールが発動して、外に放り出されたのがよかったらしい。戦いが終わって、合流するまでに外伝が書けるくらい苦労して、ナセルは愛しの妻のところに戻ってきた。今は夫婦二人で政府高官を勤めている。
トラ吉も侍従長として、ナアムと共に王宮を切り盛りしている。二人の子供である可愛い子猫が3匹走り回っている。ルキアはクリオと結婚して、ローザが率いるベルモント財閥から資金援助を受けて空中艦の製造会社を立ち上げて成功していた。今は平和な空を飛ぶたくさんの空中艦を作り、人々に夢と希望を与えていた。レーヴァテインの設計者のアンナさんは、この会社の主任設計士としてユニークな船を次々と送り出していた。夢と希望と言えば、リリムも復興のアイドルとして各地でコンサートを開き、人々を歌で元気にしていた。
「アクエリアス総理大臣兼第3王妃、マリー・ド・ノインバステン陛下及びメアリー内親王殿下のおな~り~っ」
後ろに赤ちゃんを抱いた侍女と首相秘書官のシャルロッテを従えたマリーがやってくる。赤ちゃんはもうすぐ1歳になる女の子だ。マリーと平四郎の子供である。
(あの時に当たっちゃた?)彼女は国王である平四郎の委任を受けて総理大臣としてこのアクエリアス王国の政治を行っているのだ。
「平四郎、大陸の浄化作戦は順調に進んでいます。コーデリアお姉さまと空也義兄様のおかげです」
「小夜ちゃんやシトレムカルル女王陛下は?」
「妖精族と霊族の復興も順調です。2人とも指導者として国民の先頭に立っているわ」
「そうか……。マリー、少し、顔色が悪いぞ」
マリーはちょっとだけ笑みを浮かべた。右手をそっと自分のお腹に当てたのだ。
「わたしくしも二人目ができたようです。この忙しいのに産休、育休を取らないといけなくなりそうですわ。まあ、シャルルがいるし、マルセル官房長官に昇格してもらうのもよいかもしれない。それにあなたも少しは政治に汗を流してもらわないといけませんわ」
平四郎は国王だが、仕事は相変わらず空中艦のマイスター。復興のために資材を運んだり、物資を運ぶ船を整備したりしていた。政治なんてまっぴらゴメンなのだ。政治はリメルダの父親のアンドリュー公爵議会議長と首相のマリーに任せっきりなのだ。
「それは遠慮しておくよ」
「そんな態度だから、一部国民からなんて言われているか知っています?」
マリーは茶目っ気たっぷりに平四郎にウインクした。
「種馬の王様ですって」
「ひどいなあ……」
まあ、言われても仕方がない。マリーにリメルダといったメイフィアの名花を妻にしているのだ。(それに……)
「そろそろ、第1王妃様のところに行く時間じゃなくて?」
マリーにそう言われて平四郎はポケットの中に入れた懐中時計を見た。確かにマリーの言うとおり、約束の時間である。
平四郎はマリーに上着を着せられて正装をする。勲章がいっぱいついたメイフィアの軍服だ。まだ、建国間もないアクエリアス王国のものはできていないのだ。平四郎が行く先は王宮内の神殿である。パンティオン・ジャッジの神殿が移築されているのだ。
そこには多くの客が平四郎を出迎えた。赤い絨毯の通路を祭壇まで進む。いつの間にか、平四郎がこのトリスタンに来て出会った人々が集まっている。すぐそばの椅子にはマリーと身重のリメルダが座っている。共に王妃の正装。妖精族のシトレムカルル女王、霊族の族長、怨情寺小夜も来賓として招かれている。リリムちゃんもローザの顔も見える。ラピスタイムスの女編集長ラピスも取材をしていたし、レーヴァテインの乗組員だったパリムちゃんにプリムちゃん。二人とも今は大学でドラゴン学を学んでいる。ハウザー教授の下でだが。
「フィン・アクエリアス第1王妃陛下、ご入場~」
真っ白なウェディングドレスを着たフィンが扉を開けて出てきた。父親の手につかまり、ゆっくりと歩いてくる。長いドレスの裾をベパルとゼパルが持っている。アマンダさんがバスケットの中の花びらをまき、その中を歩くフィン。
やがて、祭壇に花嫁が登壇した。パンティオン・ジャッジの司祭が厳かに結婚の儀式を進めていく。
「アクエリアス国王にして、先の大戦の英雄。東郷平四郎。汝はフィン・アクエリアスを妻とし、第1王妃に立后することを認めるか」
「はい」
「フィン・アクエリアス。汝は王を助け、王妃としての責務を果たすか」
「……はいです」
「それでは誓のいキスを」
平四郎はそっとフィンの顔を隠すベールをめくった。恥ずかしそうに下を向いている。時折、視線を客の方に送る。
「フィンちゃん、僕の方を向いて」
(-_-)
ジト目でちょっと頬をふくらませた。マリーとリメルダの姿を見たからだ。
「平四郎くん、私というものがありながら、ちょっと頑張りすぎじゃないかしら」
「え、だって、フィンちゃんが賛成したから王妃が2人増えたんじゃ」
「それとこれとは別です」
「え~っ」
「わたしが神殿で養生をしている2年の間にポロポロと赤ちゃんを作って!」
戦いが終わったあと、フィンはエターナルドラゴンとつながっていた後遺症で、負の魔力を体に受けてしまっていたのだ。それを抜き取るため、パンティオン・ジャッジの神殿で2年間、負の魔力を抜く儀式を受けていたのだ。それが終わって今日が晴れての結婚の義なのだ。
「そんな……フィンちゃん」
怒ってしまった花嫁をなだめる平四郎。でも、フィンは輝くような笑顔を作った。
「さあ、激ラブの時間です!」
平四郎の懐に飛び込み、首に手を回して口づけをした。大勢の祝福の拍手の中、そっと口を離した。
「平四郎くん、大好き」
トリスタンに建国されたアクエリアス王国は、見事に復興を果たし、平和な世界を創ったという。
そして、建国500年後も「竜の災厄」は起きなかった。
激ラブの時間です……。終わった~っ。
あとがき書いて寝る。




