第4話 処女航海とドラゴン討伐(6)
魔力999万って…MAXチート攻撃炸裂!
「今だ、ナセル、撃ちなさい!」
ミート少尉が叫ぶと同時にナセルが発射ボタンを押す。
「了解! 死んでくださいよっ」
バシシュウウウウ……。
平四郎が新しく取り付けたミサイルポッドから、と6本のミサイルが放たれる。機雷の中に突っ込んだドラゴンはこのミサイルを受けて大爆発の渦に巻き込まれる。
「やったですうううううっ」
「これは効くでおじゃる」
ぎゃうううう……
苦しむドラゴンの咆哮も聞こえる。この攻撃で生き残れる生物などいるとは思えないと平四郎は思ったが、それは過信であった。大爆発の煙をかき分けてそのドラゴンがレーヴァテインに取り付いたのだ。
ガシンっと鈍い音がしてするどい爪を立てて、ドラゴンがレーヴァテインの艦首につかまった。翼がボロボロになり、うまく飛べないので突っ込んでレーヴァテインに取り付いたのだ。
「ま、まずい。フィン、魔力は回復した?」
ミート少尉がフィンを見て叫ぶ。20分ほど経ったので多少は回復していた。 フィンは船に魔力を送り込む。だが、まだ回復途中で十分でない。
「ナセルさん、撃てる?」
「フィン提督、ドラゴンバスターレベル3が精一杯だ」
ドラゴンバスターというのは聖属性の攻撃魔法弾であった。光の剣状のビームがドラゴンを貫くのだ。属性補正値を無視する無属性攻撃であり、ドラゴン退治に特化した攻撃方法であった。
「この距離なら十分です。ナセル、撃ちなさい!」
ミート少尉がそう命令する。
「おお!」
ナセルがボタンをバンっと叩いた。主砲の一基から光の剣が放たれて艦首に取り付いたドラゴンを貫いた。
ギャウウウウウウウッ。
ドラゴンは艦首から引き剥がされる。だが、それでもそれは致命的な攻撃にはならなかった。ボロボロの翼を使って体制を立て直すと至近距離から雷撃弾を放ったのだ。瞬時にカレラさんが左に艦を傾けて回避しなければ艦橋直撃でみんな死んでいた。
「ダメだ、レベル3じゃ弱すぎたんだ」
ナセルがパネルを叩く。フィンがふりしぼった魔力で生成した攻撃では倒しきれなかったのだ。それはすなわち、敗北を意味していた。なぜなら、もうレーヴァテインに攻撃手段はなかったからだ。
「ま、まだです。も、もう一度……ナセルさん……」
フィンがもう一度攻撃を試みようとするが、それはあまりにも体に負担をかけた。たちくらみでフィンの意識が朦朧とする。
「フィンちゃん!」
平四郎が駆け寄った。フィンの手を取る。
「へ、平四郎くん……だ、大丈夫だよ……。もう少し、振り絞ればあと一発くらい」
「ドラゴンブレス来るでおじゃる~っ」
すさまじい爆発音が鳴り響き、レーヴァテインは大きく揺れる。平四郎は体の姿勢を保つためにフィンの体をギュッと抱きしめた。シートベルトで体が固定されているフィンや他の乗組員とは違い、平四郎は何も固定具なしに立っているのだから。
「シールド消滅でおじゃる」
どうやら一発はシールドが防いだようだ。だが、トドメの次の一発を放とうとドラゴンは翼でホバリングをしながら大きな口を開けたのだ。
「平四郎くん、ごめんなさい。ここで終わりのようです」
「フィンちゃん、諦めちゃだめだ!」
「最後に……わたしは平四郎くんのことが……うっ」
フィンは魔力を急激に失って気を失ったようである。
「フィンちゃん! くそっ!」
(このままでは死んでしまう。彼女を守れない……)
フィンを抱きかかえたまま、平四郎はドラゴンをにらむ。何だか体が急激に熱くなっていくのが分かる。体の中から燃え上がるような感じだ。気を失ったフィンの胸から一本の赤い糸が伸ばされ、平四郎の胸からも同様に赤い糸が伸びる。先端が合うとよじれて結ばれていく。キュッと結び目が出来た時、平四郎はフィンの手を取ってフィンが座る席の魔力チャージ盤に触れた。同時にそれが光る。平四郎の黒い瞳が赤くなった。
「コネクト!」
(うおおおおおおおおおおっ……)
(この出来損ないの飛びトカゲ野郎が! ここで消滅しろ!)
「激アツ、行っとこうか~っ!」
平四郎の叫びと共に魔力ゲージが急に上昇していく。それは黄色からオレンジ、そして赤になり、メーターを振り切る。
「魔力上昇。999万超ですうううううっ……計測不能ですうううう」
プリムちゃんが驚いて叫ぶ。平四郎は人が変わったようにドラゴンを指差し命令する。
「ナセル、撃て!」
平四郎の命令にナセルは反射的にボタンを押す。同時に十分にレベルを上げたドラゴンバスターが火を噴いた。無数の光の剣はナセルのボタン一つで連弾となり、2つの主砲から放たれた攻撃は連弾となった。その数、100発×2の200連擊。無数の光の剣にハリネズミのように突き刺されるドラゴン。
ギャアアアアアアアアッツ!
断末魔の咆哮を上げて、ブルードラゴンはボロボロの体を痙攣させた。さすがのドラゴンもこの攻撃の前に息の根を止められた。
「ドラゴンバスターレベル7の100連発だと! 35インチバスター砲改の許容レベルが7だったからとはいえ、こんな連続こんな攻撃などありえない」
オーバーフローの攻撃で35インチバスター砲は焼きついてしまい2基とも使用不能になってしまった。砲身そのものが溶けてしまったのだ。100連発の攻撃がいかにすさまじいかこれを見ただけでも分かる。
「ありえない……。ちょっと、チート過ぎるぜ、この攻撃は……」
ナセルはそう呟き、そのありえない攻撃を可能にした二人の人物を見た。魔力が一時999万という数字が出ていた。おそらく、計器の最高値で実際の魔力はもっと上だろう。そんな数値はこのトリスタンでは常識外であった。
「ブルードラゴンのS級を倒したんだ私たち」
ミート少尉が放心状態でそう呟いた。一呼吸おいてプリム&パリムちゃんの双子姉妹が両手を上にあげて喜びのポーズをした。
「やったですうううううううっ……」
「すごいでおじゃる」
プリムちゃんとパリムちゃんの歓声だ。そんな中、平四郎はフィンの方をそっと見た。気を失って目を閉じている。あの魔力はフィンのものなのか、それとも平四郎のものなのかは定かではな方が二人によって奇跡が起こったのは間違いないようであった。
「うっ……」
「フィンちゃん、気がついた?」
「ド、ドラゴンは?」
「何だか凄い攻撃が発動してやっつけちゃったみたい。おかげで主砲が2つおしゃかになっちゃったけどね」
「S級のドラゴンを倒したの? あっ……」
まだ貧血気味なのかフィンが目を閉じる。平四郎はアマンダさんを呼んでフィンを提督室に運ばせた。後はミート少尉に任せておけば十分だろう。倒したS級ドラゴンの死体を回収して駆逐艦に運ばせて王都に帰還するのだ。




