第35話 ラストバトル VSエターナルドラゴン(1)
2月中旬からほぼ毎日連載してきたこの作品もいよいよ最後になりました。
あと2話でおしまいです。最後まで応援よろしくお願いしますね。
「ニンゲンドモヨ……」
エターナルドラゴンはそう呼びかけた。音声はモニターによって拾われ、各艦で確認ができる。どうやら、こちらからも話しかけられようである。
「エターナルドラゴン、あなたはわたくしたちの言葉を理解できるのですか?」
マリーはドラゴンに向かって話しかける。先程まで激しく戦っていた取り巻きのドラゴンたちも戦闘を中止している。トリスタン連合艦隊も攻撃を中止して成りゆきを見守っている。
「ニゲンドモノカトウナコトバナゾ、ワレニハカンタンナコトダ……」
「では、わたくしたちはあなたに尋ねます。なぜ、あなたたちはわたくしたちを滅ぼそうとするのですか? あなたたちと共存はできないのですか?」
マリーはエターナルドラゴンと通じ合おうと思った。言葉でコミュニケーションが取れれば、この災厄を永遠になくせるかもしれない。
「ニンゲンハ コノトリスタンヲ ホロボス。ニンゲンハイラナイ。ニンゲンヲ ホロボサナケレバ、コノホシハシヌ。コレハコノホシヲマモルタメノ セツリデアル」
「そんな……。人はそんな悪ではないわ」
「ワレハキサマタチニンゲンヲアヤツリ、ニンゲンノカンジョウヲマナンデミタ。ジツニクダラナイ。ニンゲンドオシデアラソイ、コノホシノ シゲンヲ ムダニショウヒスル」
「ヴィンセントはこのトリスタンを代表する人間ではないわ。多くの人間は無害で平和に暮らしていたわ」
「ギロンハシナイ……。2.6リーグ。キサマラニンゲンノジカンナラ、イマカラ3ジカンゴ。ワレハ ハイパーメギドニヨッテコノホシヲ ヤキツツクスダロウ」
そう言うとエターナルドラゴンは翼を丸めて体をすっぽりと包み込んだ。あの多国籍軍の時に使った球形の球になる。そのほかのドラゴンたちも真似をして丸くなった。この球体が解けるとき、トリスタンから人間が駆逐されるのだ。
平四郎はマリーの座乗する戦列艦コーデリアⅢ世にシャトルを飛ばしていた。ドラゴンたちが一斉に戦闘を止めて休眠状態に入ったので主だった艦隊指揮官がマリーの船に集まったのだ。霊族、妖精族、魔法族、機械族のトリスタンに住む種族が集まった。集まったのは、レーヴァテインからは、平四郎、ミート少佐、ハイ・プリーステスからエヴェリーンの副官。アウグストゥスからシトレムカルル妖精族女王。霊族の小夜も指揮を吉備津少将に任せて、参加していた。
「ハウザー教授、説明をお願いします」
マリーがそうこの世界のドラゴンの権威であるハウザーにそう促した。ハウザーはこれまでの研究とドラゴン教から入手した文献から、この状態を分析し、これから取るべき作戦を提案するというのだ。
「みなさん、今のエターナルドラゴンは、覚醒前の状態です。ヴィンセントによって強制的に目覚めさせれ操られていたと思われていたのですが、マリー王女との会話から操られていたのはヴィンセント本人であることが判明しました」
「ヴィンセントが操られていた?」
「はい。平四郎くん。ラピス君、みなさんに君の調べたことを教えてくれたまえ」
そうハウザー教授が隣のラピス記者に話を向けた。彼女はドラゴン教の総本山に潜り込んで調査を進めていたがヴィンセントに正体がバレて捕られられたのだが、マリーによって救出された。その時に持ち出した資料とさらにこのどさくさに紛れて、再び、聖地サザンプトンへ潜入して貴重な情報を得ていたのだ。
「ヴィンセント伯爵は当初は、ドラゴン教を利用してメイフィア軍を乗っ取り、そこから、トリスタン全体のリーダーになろうとしていたことは事実です。フィンさんがドラゴンの花嫁だと知り、その力を使ってエターナルドラゴンの力を抑えられるということまで掴み、その準備を着々と進めていたようです。つまり、彼の当初の目的は竜の災厄を自分の手で収め、この世界に平和をもたらすということだったのです」
「ヴィンセントが……?」
ラピスの言葉に一同、沈黙した。軽薄でわがままな男ではあったが、最後のところでは人間としてどう行動するべきかは分かっていたようであった。手段や方法は間違ってはいたが。
「しかし、彼の行動が不可解になった時期に、おそらくはエターナルドラゴンに洗脳されてしまったのでしょう。彼はトリスタンを滅ぼす手先となってしまった。ドラゴンを操ろうなどということの報いを受けたのです」
「なるほど。それは分ったけど、エターナルドラゴンとその眷属の目的は、ドラゴンの花嫁を得て繁殖することだったのではないのか?」
平四郎はそうハウザー教授に尋ねた。ドラゴンの花嫁のフィンは今、レーヴァテインで体を休めていてこの場にはいないが、3時間後にエターナルドラゴンが目覚めれば、フィンが再びターゲットになるだろうと思われた。
「確かに花嫁の存在と繁殖には相関関係がありました。だが、先ほどのエターナルドラゴンの言葉から、もうひとつの仮説が立てられます」
「仮説?」
「エターナルドラゴンは花嫁を探して暴れまわる。そして、花嫁を取り込むと破壊活動を止めて姿を消す……。ここから、花嫁はドラゴンたちにとって大切な存在という仮説があったのですが、どうもそうではない」
「ハウザー教授、時間がありません。結論を先に言ってください」
マリーがハウザーの回りくどい説明にじれてそんなことを言った。ハウザーは咳をこホンと一つした。
「ドラゴンの花嫁は大切な存在ではなく、彼らのターゲット。真っ先に殺す対象なのです」
「な、なんだって!」
集まった一同は驚いた。それでは全く別の解釈になるからだ。
「なぜなら、彼らが最も恐るのが花嫁だからということです」
「なるほど……。話がつながりました。パンティオン・ジャッジで勝者となるのが花嫁。パンティオン・ジャッジは花嫁を決める儀式」
そうマリーは話しながら、平四郎の顔を見る。
「花嫁は異世界でドラゴンを倒す運命になるパートナーを見つけ出す。それが平四郎。つまり、この世界を救うのが勇者である平四郎の運命なのよ」
「ぼ、僕が?」
「500年前も同じだった。でも、一つ違うことがあります」
マリーはそっと平四郎の右腕にしがみついた。そっと頭を平四郎の方に傾ける。一同はマリーの不可解な行動に目が点になってしまう。なぜ、ここでいちゃつくのだ?
「マ、マリー様。ずるい。平四郎は私のものです」
今度はリメルダが左腕にしがみつく。
「マ、マリー……。リメルダ……。こんな時になんで?」
平四郎は困る。この状況で両手に花である。レーヴァテインへ帰ればフィンもいる。でも、これは彼自身が招いたことだ。2人とも食べてしまったからの結果である。
「ふふふ……。エターナルドラゴンもまさか、花嫁が3人もいるなんて思わないでしょう。平四郎と絆があることは、すなわちコネクトが発動するということ」
ハウザー教授はうんうんと頷き、平四郎の肩をぽんと叩いた。そして、左目をパチっと閉じて合図を送った。
「希望が見えてきました。今は休眠しているエターナルドラゴンですが、次に目覚める時にはこのトリスタンを破壊する神となるでしょう。そうなれば、ヴィンセントのように思惑で攻撃をためらうことはないでしょう。メギドの容赦ない連発。それで世界は終わる」
「どうすればよいのでしょうか?」
マリーがそうハウザーにアドバイスを求める。平四郎を中心にフィン、マリー、リメルダががむしゃらに攻撃しても倒せないであろう。それに今の休眠状態のエターナルドラゴンは無敵である。このの状態ではどんな攻撃も受け付けないことは、多国籍艦隊が実証済みである。
「ここです」
ハウザー教授がそう言って、モニター上のエターナルドラゴンのある一点を指差した。先程の球状になる前のエターナルドラゴンの体全体の映像だ。1点はドラゴンの額である。
「ヴィンセント伯爵は、とんでもない災厄をもたらしてくれましたが、一つだけよいことをしてくれました。長時間に渡ってエターナルドラゴンを古来より、いい伝えられ、500年前の戦いでもこの場所は暗示されていました。ここが弱点。ここにデストリガーをぶち込めば、奴に引導を与えることができるでしょう」
「額か……」
平四郎がつぶやいた。ターゲットとしてはドラゴンの大きな体からするとかなり小さい。
「しかもただの攻撃ではダメです。過去の歴史や先日の多国籍軍の攻撃から計算すると、52万魔力PW。デストリガー3発分のエネルギーを集中させることです」
「ケケッ。レーヴァテインとコーデリアⅢ世、ジュリエットの3艦によるデストリガーで十分ぞよ。後の公女と我とシトレムカルルはその他のドラゴンを近づけさせないようにするぞよ」
小夜の言葉に一同はこれが最後の戦いだと覚悟を決めた。成功すればエターナルドラゴンを倒し、人類は再生の道を歩むことができる。失敗すれば、みんなこの世界から消える。ただ、それだけである。
「分かりました。勝負は一瞬で決まります。エターナルドラゴンがメギドを発動すれば、この世界の人間は滅びてしまう。そして、ここで完全に倒せば、もはや、人はドラゴンに怯えずに暮らすことができる。各員、船に戻り、3時間後の決戦に備えましょう」
そうマリーは冷静に告げた。3時間後に全てが終わる。それが滅亡か再生か。トリスタンの命運は自分たちにかかっているのだ。
明日、決着。
明後日、ハッピーエンド エピローグ公開予定です。




