第34話 クロービスの戦い VSヴィンセント(2)
「突入せよ!」
平四郎を先頭にゼパル&ベパルの魔人形20体。ナセルとトラ吉が操るタウルン製の機械兵2個小隊がマクベスの艦内に突進する。迎え撃つのはドラゴン教徒の兵と魔法で動かされているアイアンゴーレム2体である。
「突入部隊、第1ゲートへ向かって侵入開始」
(ナセル……。生きて帰ってきて……)
突入していく様子をモニターで見ながら、レーヴァテイン艦長、ミート少佐は夫であるナセルの身を案じた。それは同様にマリーも平四郎に思った感情である。
(平四郎、無事に帰ってきて。フィンさんと一緒に。死ぬことはこの私が許しませんからね。あなたは、私の初めての人なのですから……)
「旦那、中は思ったよりも防御が厚いにゃ。艦橋にたどり着くまでこちらも消耗するにゃ」
立ちふさがるアイアンゴーレムも強敵であったが、平四郎の無双があれば何とか突破できた。だが、ドラゴン教徒は死を恐れないがむしゃらな攻撃をしてくるのでこれが侮れなかった。平四郎の無双も艦を壊し過ぎてしまえば自分たちも死んでしまう。トラ吉は、先ほどの戦いで疲労したのか、肩で息をしている。第1ゲートでの激戦で、シャルル大佐の率いる小隊と合流できたものの、かなりの損害を受けた。
さらに第2ゲートにはドラゴンニュートが50体も陣取っていた。ドラゴンニュートとは人型をしたドラゴンの仲間。身長は2mほどある大きな体で手には剣を持っている。エターナルドラゴンの力を使って、この生物まで操っているのだ。ヴィンセントらしいいやらしさである。
「突入部隊より連絡。ただいま、第2ゲートを突破するも機械兵、魔人形とも全滅」
モニターに平四郎たちの位置が示される。一応、主要なメンバーには位置が分かるように魔法石を持たせているので、モニターにそれぞれの様子が映し出される。マリーもミート少佐も、自分の大切な人の動きをじっと見守る。
第3ゲートにはさらに大きなアイアンゴーレムが陣取っていた。ここまでたどり着いたのが、平四郎、ナセル、トラ吉、シャルル。そして、別ルートから侵入したエヴェリーンの5人だけであった。ここまで、平四郎の並外れた魔力によるハンドガン無双で切り抜けた場面もあったが、こいつには通用しそうもいなかった。
「平四郎くん、ここは僕とエヴェリーンさんで囮になる。その隙にゲートを突破するんだ。あそこを突破すれば、マクベスの艦橋に行ける」
シャルルがハンドガンを携えて、物陰から2体のゴーレムを見てそう言った。幸い、2体だけなので、うまく誘導すればその隙にゲートに飛び込めるかもしれない。
「畜生、こんなのがいるんだったら、雷撃バズーカ持ってくるんだった」
ナセルが冗談を言う。そんな大げさな武器をここまで持って来れるほど、これまでの敵は弱くはなかった。この場面はナセルには思い出がある。レーヴァテインの魔法パーツをゲットした時と同じである。あの時は愛しの妻と一緒であったが、今は3人と一匹である。
「シャルル大佐、死なないでくださいね。リメルダが悲しむから」
そう平四郎はシャルルに言った。平和な世の中だったら、「お義兄さん」と呼んでいたかもしれない人だ。
「君も死ぬな。妹が悲しむから」
そうシャルル大佐は言い、エヴェリーンと目を合わせると思い切って飛び出していく。ターゲットを感知した2体のゴーレムは、二人を追いかける。その隙に平四郎たちは第3ゲートに飛び込む。
「おい、王子」
「何ですか? エヴェリーンさん」
「ここで囮にあたしを選んだのはどうしてだ?」
「それはアイアンゴーレムが2体ですから、2人は必要ですから」
「答えになっていない!」
追ってくるアイアンゴーレムから、一時的に物陰に身を隠したシャルルとエヴェリーンはそう小さな声で会話した。ゴーレムが探している。見つかるのは時間の問題だし、現在、二人が持っている武器だけでは、倒せるものでもなかった。
「それは万が一死ぬなら、エヴェリーンさんみたいな美人の女性と死ぬ方がいいですから」
「……王子……冗談か? 冗談だとすると笑えねえ」
「う~ん。まあ、こうですよ。平四郎くんはどう見てもフィンさん救出まで行くのが、物語の筋ってものだし、猫(トラ吉)や男と心中というのもカッコ悪いでしょ……」
「ククク……。さすが、王子様は違うな。でも、2歳年上のこんなお姉さんでもいいのか?」
「いいですよ。あなたは可愛い」
「可愛い? 私が? 王子、一度、医者に目を見てもらったほうがいいぞ」
「ここを生きて出られたらそうしますよ。そうしたら、僕のお嫁さんになってくれますか?」
「え? ま、マジか?」
「真面目ですよ。あなたを玉の輿に乗せてあげます」
「自分で言うか。でも、結婚したら公爵夫人か~。あたしのガラじゃないけど……」
グワーングワーンと音がして、2体のゴーレムが2人を見つけた。シャルルは腰に付けていた魔力爆弾を2つ外して、一つをエヴェリーンに投げてよこした。実は突入する際に、あの武器商人の少年クリオが渡してくれたアイテムであった。もう一つ、別の物ももらったが、今はこれが最も役に立つはずだ。
クリオにもらった爆弾は、後ろが強力な磁石になっていて、アイアンゴーレムの体に引っ付く。但し、引っ付いてからとたったの5秒で爆発するちょっと危ない代物だ。
「行きますよ!」
シャルルとエヴェリーンは勢いよく飛び出した。攻撃してくるゴーレムの横をすり抜ける時に爆弾を貼り付ける。
(1、2、3……)
できるだけ離れないと爆発に巻き込まれる。
(4、5)
背後で爆破が起きる。爆風で二人は吹き飛ばされる。壁に穴が開いて、ゴーレム2体は外へと落ちていく。だが、その破壊はかなりのもので、シャルルたちが飛ばされたところまで破壊されてしまう。
「きゃああああっ!」
崩れた壁からエヴェリーンが落ちかかった。シャルルが咄嗟に手を伸ばし、エヴェリーンの右手を掴む。左手は崩れた壁の端にかろうじて掴んだが、シャルルも十分な体制ではない。
「ダメだ、王子、離せ」
「将来の妻を離せますか!」
「お前も落ちるぞ」
「その時はその時です」
「ば、バカ! 本当にお前は王子様だな。だけど、カッコイイぞ」
「どうもありがとう」
その時、シャルルの掴んだ壁が壊れた。二人は外へと落下していく。シャルルは右手で掴んだエヴェリーンの手を離さない。落ちながらもぐいっと彼女を抱き寄せる。
「返事はOKでいいですか?」
「私なんか、家柄も合わないし、2歳もお姉さんだし、ドラゴンハンターだし……」
「僕のこと嫌いですか?」
「この状況で嫌いと言えるか!」
ちなみにこの状況。二人は地面に向かって落下中である。
「じゃあ、言ってください。エヴェ」
「うーっ! バカ! 好きだ。だから、お前は死んで欲しくない」
「返事はいただきました。エヴェ!」
シャルルはグッとエヴェリーンを抱き寄せて口づけをした。エターナルドラゴンから落下して地上まで数秒……。途中でクリオにもらったアイテムが発動した。もう一つもらった秘密のアイテムだ。
「緊急脱出装置、、マシュマロ3号」
白いもふもふも大きな球状のものに包まれた二人は、燃えるクロービスの街に落ちていった。




