第34話 クロービスの戦い VSヴィンセント(1)
「コーデリアⅢ世はここで戦線を支えます。隙を見てレーヴァテインはマクベスへ突撃してください。シトレムカルル陛下、小夜さん、リメルダ、リリムさん、ローザさん。ここは公女の力を合わせる時です」
「了解しました」(シトレムカルル)
「了解したわ」(リメルダ)
「やるしかないよね」(リリム)
「やらせていただきます」(ローザ)
「ケケッ!分かったぞよ。だが、我らはここで討ち死にする可能性大ぞよ。それまでに、ボスを倒ずぞよ。ケケッ!」
小夜が言うことは最もであった。妖精族艦隊と霊族艦隊が加わったとしても、レスキューで召喚されたドラゴンの数の方が多い。時間が長くなればなるほど、人間の負けは決定的になる。多国籍艦隊の愚行がなければ、対処できたのに悔やまれる状態である。
マリーたち公女艦隊はそれぞれの旗艦が猛烈な射撃を繰り返し、ドラゴンどもを撃ち落としていく。そして、平四郎のレーヴァテインが突入する道を作った。一本の突入する空間が現れる。
「今だ! カレラさん、あのルートを突き抜けてマクベスへ」
平四郎の命令でレーヴァテインの操舵手カレラ少佐の腕が冴え渡る。ドラゴンの雨あられのような攻撃をかいくぐり、僅かに開いた血路を高速巡洋艦レーヴァテインが駆け抜ける。
「ククク……。あの男が来る。いいねえ~。僕は待っていたよ。君が炎の大剣と共に僕を討ち取りに来る。まさに、クライマックス!」
「枢機卿!レーヴァテインが突入してきます」
「主砲で撃ち落とせ!」
「ダメです。全て跳ね返されます」
レーヴァテインはレインボーの光で包まれ、戦列艦マクベスの主砲やドラゴンの攻撃をことごとく跳ね返す。まさに無敵状態。そのまま突き進んで来る。
(こ、これが異世界の勇者の力なのか!)
マクベスに乗っていたドラゴン教徒たちは、目の前に起きていることが神の奇跡のように感じられた。それは彼らが信じるドラゴンの強大な力をはるかに凌ぐ力だ。
「馬鹿な、ありえない。平四郎一人でこんな馬鹿げたことができるはずが……」
ヴィンセントは思い出したようにフィンの入ったカプセルを見た。それは金色に光り、赤い細い糸のようなものが外に延びている。おそらく平四郎とつながっているのだ。
「コ、コネクトだと~っ。この女!」
ヴィンセントはカプセルへ足音高く近づき、それを蹴った。ガシガシと何度も蹴る。金属製のカプセルが渇いた衝撃音を出す。
「黙ってエターナルドラゴンとつながっておればいいのに、なんというふしだらな女だ」
息を荒げるヴィンセント。艦橋からでもレーヴァテインが肉薄してくるのが見えた。狙いは白兵戦だろう。この艦橋にいるフィンを救出するつもりだ。
「ククク……。馬鹿だ。このチャンスに、白兵戦だと。今、このマクベスを攻撃すればこの僕を滅ぼせると言うのに。なんと愚かな」
「いや、これも愛か。愛の成せる業なのか」
ヴィンセントは演技かかったように頭を抱えた。だが、すぐさま、顔を上げた、その顔は狡猾さで歪み、馬鹿にしたように舌をぺろっと出した。
「ククク……。愛は世界を救いませ~ん」
あと少しでヴィンセントの乗るマクベスに接舷できる距離まで近づいた平四郎は、突然、マクベスが消えてしまったことに驚いた。
「ど、どういうことだ!」
「プリムちゃん、マクベスの位置は?」
レーヴァテイン艦長のミート少佐が立ち上がった。
「消えましたですうううう。あれえええっ?」
「1キロ後ろに出現したでおじゃる」
慌ててパニクるプリムちゃんを尻目に、双子の妹のパリムちゃんが冷静にマクベスの移動した位置を補足する。
それは霊族の小夜と同じ技であった。船自体を消して近い距離にワープアウトする技だ。魔法で瞬時にドラゴンを移動させることができるエターナルドラゴンならば、簡単なことである。マクベスは瞬時に1キロほど後退した。
「そして、僕の演技はこれだけじゃない。平四郎、ここで死ね!」
ヴィンセントがそう指を差した先。レーヴァテインとマクベスの間にH級のドラゴンが現れる。それは大きな口を開けて巨大な火炎弾を吐き出す。至近距離でのこの攻撃ではかわすことも、シールドで跳ね返すことすらできないはずだ。
大爆発が起きた。
「これでジ・エンドだ。平四郎くん、ご愁傷様」
明らかにこの一撃でレーヴァテインは粉々になったはずである。だが、大爆発の1秒後に強烈な衝撃でヴィンセントはひっくり返った。
「な、なんだ? どうしたのだ!」
「レ、レーヴァテイン、我が艦に接舷」
「な……馬鹿な」
モニターで確認すると右舷にレーヴァテインがぴったりと艦を寄せていた。鎖付きの楔を3本、マクベスの船体に食い込ませて離れないようにしている。そして、侵入用のパイプを2本突き刺し、マクベスへのルートを確保する。
「リ、リメルダか!」
ヴィンセントは前方でドラゴンと死闘を繰り広げている戦列艦ジュリエットを見る。おそらく、リメルダの幻惑魔法だろう。最初から突っ込んで来たのは幻影。本物は別ルートでこのマクベスに近づいたのである。ヴィンセントは上空に待機しているエターナルドラゴンを見たがこれだけ接近されては、この巨大なドラゴンによる攻撃は不可能である。
「ちっ……。役たたずが。まあいい。このマクベスに白兵戦を挑んだところで、返り討ちにしてやる」
だが、さらにマクベスに強烈な衝撃が伝わる。ディープクラウドの上空から白兵戦用の突入魚雷が打ち込まれたのだ。甲板にそれが突き刺さる。
「エ、エヴェリーンめ。生きていやがったのか!」
「わたくしも忘れては行けませんよ。シャルル大佐、マクベスへ突入」
マリーの乗るコーデリアⅢ世も左舷に突如と現れた。シトレムカルルの妖精の環を使った瞬間移動である。万が一、平四郎のレーヴァテインが失敗した時のためにマリー自身が打った手である。結果的に3方向からマクベスの艦内に突入できたことになる。




