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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
4巻 竜の災厄 編
193/201

第33話 決戦の時(3)

「マリアンヌ陛下、首都の防衛バリア完全にドラゴンの攻撃をブロックしています」


「そうですか。一発たりとも市街地への攻撃を通してはいけません」


 マリアンヌは王宮に密かに準備していた都市防御システムの指令所にいた。ここで自分の強力な魔力を注ぎ込み、都市周辺に設置した魔放シールド発生装置を作動させたのであった。ちょうど、都市全体をすっぽりとシールドで包み込んだ。


 7頭のドラゴンは始め、強力なブレスを吐いたが、そのシールドに阻まれた。Hクラスのブレスですら貫通できないのだ。さらに、攻撃魔法も遮断した。ならば、直接攻撃でシールドを突破しようとしたが、それすら許さなかった。


 シールド外で立ち往生する7頭のドラゴン。エターナルドラゴンからの指令は都市の破壊であるから、それを止めるわけにはいかない。任務を遂行しようと鉄壁の守りに囲まれた都市の周りを無防備に飛び回るしかできない。


 そこへ、マリアンヌは都市防衛の切り札として、強大な砲を出現させた。王宮に備えられたその大砲は、デストリガーを発射するためのものである。


「マリアンヌ陛下、巨人足蹴タイタンフィート発射準備完了しました」

「撃ちなさい!」


 マリアンヌがそう命ずると、同時に巨大な魔法弾が渦を巻いて発射された。それは7つに拡散して、7頭のドラゴンを捉えた。


 一撃である。戦列艦を含む打撃艦隊が総力戦で戦ってやっと倒せるHクラスドラゴンですら、シールド外の都市郊外の森林地帯に落下して息絶えた。

 

 マリアンヌは全身の力が抜けてその場に崩れ落ちた。慌てて侍従が助け起こす。魔力を急激に失ったことによる貧血だ。


(これでこちらの攻撃は48時間はできません。あとは耐えるのみですか……。きっと、マリー、我が娘が救援に駆けつけるでしょう。皆の者、それまで全魔力を集中させて、この街を守りぬくのです」


 報告を受けてヴィンセントはエターナルドラゴンに進撃を命ずる。自分が乗る戦列艦マクベスも移動し、艦橋から首都の様子を直に見た。


「叔母上にあのような手段があったとは……。一本取られた。だが、あの攻撃は連続では使えないだろう。女王の意地を見せたということだろうが、エターナルには通用しないよ。


 エターナルドラゴンは、このまま、真っ直ぐ進み、王宮を破壊する。シールドの発生装置の制御はおそらく王宮で行っているはずだ。そこを破壊すれば万事休すだろう」


「枢機卿猊下、もうすぐ、エターナルの有効射撃範囲に入ります」

「よし、まずは火炎弾、ただの火炎弾じゃないぞ! エターナルの魔力をつぎ込んだものだ。叔母上のシールドがどれだけ耐えられるか?」


 エターナルドラゴンが巨大な口を開けた。そこから100以上の火炎弾が発射される。一つ一つの大きさは戦列艦並である。この凄まじい攻撃に都市を覆っていたシールドの耐久力が大きく削られた。


「マリアンヌ陛下、シールド耐久力大幅低下」

「まだ、まだです。私の全魔力を投入します」


「くくく……。弱者をいじめるのはなんて楽しいのだ。次はメテオだ。雨あられとなって、クロービスを焼き尽くせ!」


 ヴィンセントは笑いながら耐えている都市に向かって指を指す。教徒の一部にはその様子が尊敬する人間の姿には思えなかったが、この後に及んで反対することもできなかった。


 ヴィンセントの命令が入力され、カプセルの中で眠っているフィンを通してエターナルドラゴンに送られる。ドラゴンは魔法が使える。L級以上になると公女を超える強力な魔法が使えるのだ。その強力な魔法「メテオ」が発動する。先ほどの火炎弾を超える炎の流星が降り注ぐ。


 だが、その攻撃にもシールドはかろうじて耐えた。流星の着弾を弾き、一発たりとも街中に着弾させない。


「なんだか、不愉快になってきたな。いっそ、本気を出して全てを終わらせるか。いいや、それじゃ、つまらない。やった直後は楽しいけれど、一瞬で終わってしまうのはもったないない」


 ヴィンセントはエターナルドラゴンの最大の攻撃、「メギド」を発動しようかとも思ったが、それを使えば、クロービスどころか、メイフィア国全部を破壊する可能性があった。少なくとも、自分を崇拝するドラゴン教徒の聖地であるサザンプトン郊外の一帯は残したいと考えていた。


「まあ、地道にあと3、4発、魔法弾を浴びせれば終わりだろうけど。そろそろ、彼女もやってくる時間だしな。役者が揃うかな?」


 そうヴィンセントが言うと同時に、戦列艦マクベスは無数の艦隊の存在をレーダーにとらえた。マリー率いるトリスタン連合艦隊だ。


「マリー様。クロービスは無事です。王宮もまだ破壊されていないようです」


 シャルル大佐の報告にマリーは胸をなでおろしたが、安心するような状況でもなかった。


「ヴィンセント伯爵に通信をつなぎなさい!」


 マリーはマクベスに通信回路を開くよう要請した。間もなくして軽薄な従兄弟がモニターに映し出される。


「おや、マリーちゃん。久しぶりだね」

「ヴィンセント伯爵。あなたは何をしているのですか。あなたは神になったつもりですか?」


「おお、マリーちゃん。いいこと言うね。そうさ、僕は神だ」

「神なら人間を救うのが使命でしょう?」


「ああ。神は信じるものを救う。だが、信じないものには神罰を下す」


「エターナルドラゴンを自由にコントロールできるのなら、それを永遠に封印できるはずです。このトリスタンを永久的にドラゴンの災厄から救うことをあなたはできるのです」


「できるだろうね」

「では、そうしてください」


 マリーはきっぱりとそう言い切った。ヴィンセントは急に黙り込んだ。そして、右手で顔を覆い、クックク……と笑い始めた。


「はい、そうします! と僕が言うことを期待するほど、君はお姫様じゃないだろう」


「やはり、そうですか」


 この程度の説得でヴィンセントが心を改めるわけがないことをマリーは知っている。ここは少しでも時間を稼ぐのが彼女の目的であった。トリスタン連合艦隊とは言っても、平四郎は合流していないし、霊族の小夜の要塞艦は速度が遅くてまだ射程内エリアに到着していなかった。


「この世界はリセットしなければならない。そのためのエターナルドラゴンなんだ。過去もリセットをしてきたが、いつも異世界の人間に邪魔されてきた。そういう中途半端なことの繰り返しで人類は永遠エターナルにこの悲劇を繰り返してきたんだ。コントロールできるという状況があるならば、その輪廻を変えられるだろう。もちろん、リセットまでは回避する気はない。新しい世界を作るには従順な人間のみ必要だからね」


(狂っている……)


 マリーはヴィンセントの目に狂気の炎を見てとった。元々、ヴィンセントは軽薄な男でここまで意思を押し通すような人間ではない。エターナルドラゴンを操っていると彼は言うけれど、実は操られているのは彼ではないかとマリーは感じた。モニターの中のヴィンセント越しにフィンが囚われているであろう封印カプセルが見て取れた。


「交渉は決裂ということね」

「さあ、マリーかかってこい。異世界の男と共に歴史を繰り返してみろ。さあ、決戦の合図はこれでいいか?」


 エターナルドラゴンの両脇に位置するH級ドラゴン2頭から超高エネルギー弾が発射された。その威力は相当なもので、連続3発でついに町を守るシールドは消し飛び、さらに発射された一発が王宮めがけて真っ直ぐに着弾する。


「お母様!」


 王宮が破壊され、炎に包まれていく様子が、マリーの座乗する旗艦コーデリアⅢ世に映し出される。


「マリー……」

「マリー様、王宮から通信です」


 通信兵がそう告げる。炎に包まれ、破壊された様子の場面に母であるマリアンヌ女王が映し出された。


「マリー、我が娘」

「お母様!」


「マリー。最後まで国民の生命の安全を守るのが、王族の努めです。あなたは、自分の役目を果たしなさい」


「お、お母様……。そんな……。すぐ、脱出をしてください! コーデリアお姉さまも生きていたのです。お母様も生きてください」


「コーデリアが……」


 マリアンヌはそっと手を合わせ、目を閉じて天を仰いだ。だが、自分の運命は変わらないであろうと決意した。この竜の災厄で多くの人の命が奪われているのだ。自分一人が生き残るわけにはいかないのだ。


「マリー……。あなたの花嫁姿、見たかったわ。女王としてではなく、一人の母として……。コーデリアにも伝えて。母は誇り高く殉じたと」


 爆発で画面がかき消された。



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