第32話 多国籍軍VSエターナルドラゴン(2)
あまりの衝撃に近いところにいた何十隻もの戦艦が吹き飛ばされて、味方艦に激突してしまうほどであった。それは人類の勝利を約束した光であった。ドラゴンのボスであるエターナルドラゴンを倒せば、あとのドラゴンどもは烏合の衆。個々に各個撃破していけばよいのだ。
10秒程して光が静かに消えた。
消えた後には跡形もなく、エターナルドラゴンは消え失せているはずだった。
だが、3000隻の船に乗る、10万人もの多国籍軍兵士と動員されたドラゴンハンターたちはありえない光景を目に焼き付けることになった。
銀色の翼がエターナルドラゴンを包隠し、まるで銀の球のようになっていたのだ。そしてすさまじい人類の鉄槌にもかかわらず、その球には傷一つ付いていないのだ。そして、その球体がゆっくりと解かれていくのだ。全長1キロにもなる巨大な生物エターナルドラゴンが現れる。
「フッハハハハハ……。愚かなり!」
突然、声が響いた。エターナルドラゴンから放たれた音波を艦のアンテナが拾い、それを音にして流したのだ。、はじめはエターナルドラゴンが人の言葉を話したのかと思ったが、鮮明に聞こえるその声にカイテルは聞き覚えがあった。
「ヴィンセント、ヴィンセント伯爵! なぜ、貴様がここにるのだ!」
カイテル総参謀長は、この予想外の結果とこれまた予想外の人物の登場に頭が混乱していた。ヴィンセント伯爵はクーデターの時にはカイテルに組みせず、行方をくらましていた。かと言って、マリーの方についたということでもなかったので、カイテルはこの扱いにくい男を放っておいたのだ。だが、こんなところに現れるとは!
「戦艦マクベス、エターナルドラゴンと共にいます!」
「な、なんだと! どうしてドラゴンどもと行動しているのだ!」
銀の翼が徐々に開かれ、その巨体が顕になった時に、メイフィア所属の戦列艦マクベスがエターナルドラゴンの頭部付近に発見できた。マクベスには眠ったままのフィンがカプセルに入って積み込まれていた。ドラゴンの花嫁であるフィンを使って、ドラゴンの精神を操る方法をヴィンセントは見つけたのだ。長年、ドラゴン教の総本山で研究されていた成果である。
エターナルドラゴンは、ドラゴンの花嫁を体内に取り込むことで繁殖をする。言わば、花嫁はエネルギー源なのであるが、それを見つけるために花嫁が出す魔力と同調する必要がった。この同調こそ、コネクトと同じ原理なのだ。ヴィンセントはこの同調を利用することを思いついた。つながった時に精神をコントロールする魔法「マインド」をエターナルドラゴンの送り込んだのだ。魔法に対して体制をもつドラゴンであったが、コネクトと同じルートで体内に入ってくる魔法は防げない。精神を乗っ取られたエターナルドラゴンは今や、ヴィンセントによって操られる究極の兵器となったいた。
「くくくく。カイテル閣下。このトリスタンの救世主になるつもりだったようですが、どうやら、その役はあなたには荷が重かったようですね」
「な、なんだと! どういうことだ、ヴィンセント。なぜ、エターナルドラゴンがお前に付き従っているのだ!」
「カイテル閣下。これが役者の違いというものです。元々、軍は私の支配下にありましたが、軍よりも強力な力を得ましたのでカイテル閣下に軍を任せただけです。無能な指揮官を戴くと不幸ですなあ。ここでみんな死ぬ」
「バカはお前だ。この3000隻の空中武装艦を見よ。メンズキルも我々は克服した。下等なドラゴンを操れるからといって、調子に乗るな」
「ふふふ……。閣下。閣下はどうやら、ご自分たちの置かれた状況が分からないようですね。まあいいでしょう。説明より現実を見せた方があなたにはりかいできるでしょう。さあ、今度はこちらのターンですよ! 滅びてください、永遠に」
ヴィンセントがそう静かに言った。通信が途切れる。
同時にエターナルドラゴンが大きな口を徐々に開けていく。そこから高音領域の音波ブレスを出した。周りにいるH級、L級の大きなドラゴンも口を開ける。
いわゆるメンズキルと呼んでいる攻撃だ。
「メンズキルなどこの艦隊には通用しない。その音波を遮断する防音材で防御してあるからな!」
カイテルはそう言ったが、旗艦デスティニーの乗組員が数人、胸をかきむしって倒れた。メンズキルによる心臓麻痺である。カイテルは思わず椅子から立ち上がった。足が恐怖で震えている。ドラゴンどもの音波攻撃は全て防げるはずであった。
「ば、馬鹿な! その攻撃は通用しないはず!」
エターナルドラゴンは続け様に2回目のメンズキル、3回目のメンズキルを発動した。
メンズキルが男性を殺す確率は、1回につきおよそ30%。3回連続で使われれば、6割の人間は軽く死滅することになる。カイテル自身も3回目に当たってしまった。胸を押さえて指揮席に座ったまま、帰らぬ人になったのはむしろ幸せだったかもしれない。
「カイテル閣下!」
アンヌ・ソフィーが倒れたカイテルに駆け寄る。テレビクルーの男性も倒れている。乗組員を失ったために、戦列艦デスティニーは攻撃も回避もできないのだ。旗艦だけではない。乗組員のおよそ6割を失った多国籍艦隊は大混乱に陥った。多国籍軍に加わったドラゴンハンターたちもメンズキル対策の防音材処理を船に施していたが、それは全く意味をなさなかった。
「そ、そんな。逃げなきゃ! 逃げなきゃ!」
メイフィアテレビの看板キャスターのアンヌは半狂乱になったが、乗組員は女性を残してほぼ倒れている。船の動かし方を知らない彼女は何もできない。そんなアンヌの目に映るのは、今にも攻撃をしてきそうなエターナルドラゴンが、大きな口をゆっくりとあけ、その口の中に赤い炎の渦が大きく膨らんでいく光景であった。
「フフフ……ハハハ……。防音材など、音波の周波数を少し変えるだけで、全く意味をなさないのだよ。そもそもメンズキル対策の防音材の技術は僕がリークしたものさ。まったく、間抜けとしか言い様がない。さて、エターナルドラゴンを操っているのは、この僕だ。今から、イッツ、ショータイムだ。まず、大混乱して右往左往している無様な艦隊を掃除しよう」
「エターナル、ギガトン級ブレス発動だ! いけ!」
エターナルドラゴンの口がゆっくり開くと、凄まじい炎の渦が巻き起こった。デストリガーの100倍の太さの炎が進路上の軍艦を飲み込んだ。数百単位で蒸発し、爆発し、誘爆する。乗組員を大量に失った多国籍艦隊は、逃げることもままならない。エターナルドラゴンの周辺のドラゴンたちもブレスを吐く。2回、3回と吐かれるドラゴンブレス、そして魔法攻撃の前に多国籍艦隊はただ破壊され、殺されるだけであった。多国籍軍旗艦デスティニーは、何もできないまま、その姿を一瞬で消滅させた。
さらに、ヴィンセント伯爵はエターナルにレスキューの魔法を使わせた。エターナルドラゴンのレスキューは群れ単位で呼び寄せる極悪魔法である。たちまち、総数で100頭を超えるドラゴンが召喚される。
その1頭1頭が右往左往する多国籍艦隊の艦艇を破壊していくのだった。逃げ惑う船は我先に逃げ出し、もはや組織的な抵抗は状態であり、そのために一方的にドラゴンたちに狩られる弱小動物と化していた。
多国籍軍、敗れる。トリスタンの運命は・・・。




