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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
4巻 竜の災厄 編
188/201

第32話 多国籍軍VSエターナルドラゴン (1)

「カイテル閣下、まもなく前衛艦隊がドラゴンの群れと遭遇します」

「群れの規模は?」

「S級50頭、M級15頭、L級8頭、H級2頭、そしてエターナルです」

「一夜にして10の都市を焼き尽くすほどじゃないか? なあ、大尉」

「は、はい」


 多国籍軍の総司令官に就任したカイテルは、旗艦である戦列艦デスティニーの艦橋から友軍を見た。トリスタンの空中艦で空が埋まっている。


 総数は3千隻を超えていた。デストリガー級の攻撃ができる戦列艦クラスの船は850隻もあり、最大最強の戦力であった。


「だが、見てみよ! これが人類の英知、人類の希望、人類の救世主」


 カイテルのセリフは芝居がかかっていたが、それもそのはずで、この場面をテレビ中継をしているのだ。人類の最大の危機を救う多国籍軍のドキュメンタリー生放送である。おそらく、視聴率は100%近いであろう。


 この状況でエターナルを討伐すれば、人類史上最大の英雄としてカイテルの名がトリスタンの歴史に刻まれるであろう。そう考えただけでカイテルの体は恍惚で打ち震えた。


(エターナルと言っても図体のでかい、うすノロの恐竜に過ぎない。デストリガーの集中攻撃で華々しく葬ってやるわ!)


 テレビの取材スタッフとして、メイフィアテレビの看板キャスターのアンヌ・ソフィーが同乗していた。彼女がカイテルに質問をする。


「司令官閣下には、どのような作戦でエターナルに臨まれるのですか?」


「フフフ……詳しくは軍事機密と言いたいところですが、ドラゴン共にはここで話したことが伝わるとは思えませんな」


「それはそうですね。ホホホ……」


「まずは、前衛艦隊の圧倒的な戦力でエターナルの周辺のドラゴンをなぎ倒します。我が艦隊は正規軍だけで3千隻を超えます。それに比べて敵は少ない。圧倒的な戦力ですから、これは戦いというよりショーですな」


「ショーですか?」

「もちろん、我が人類の勝利確定のショーですよ。演出上、ハラハラドキドキさせるかもしれませんが、世界は確実に守られます」


(大した自信だわ……)


 アンヌはそう心の中で思ったが、その自信も納得出きた。なにしろ、目の前に広がる光景は頼もしい戦列艦で埋め尽くされている。それに250年前とは違い、戦列艦級にはデストリガーが搭載されている。妖精族のローエングリーンにも似たような武器があるし、機械族のタウルンにも高エネルギー破壊兵器を携えているという。それ1発でS級やM級は確実に倒せるのだ。


「分かりました。もうすぐ、最前線ではドラゴンとの接触する時間です。前線にいるリリムさ~ん?」


 アンヌはテレビ中継で前衛艦隊にいる取材用の駆逐艦にいるリリム・アスターシャに呼びかけた。


「はい。アンヌキャスター」


 リリムはいつもの笑顔でテレビ画面に映った。


「そちらの状況はどうですか?」

「はい、まもなく、ドラゴンの群れが視界に入ってきます。こちらは妖精族艦隊を中心とした艦隊です。総数は350。両翼にはタウルン艦隊が200ずつ、計700隻を超える大艦隊です」


「ドラゴンは見ますか?」

「いえ、まだ、見ることはできません。まもなく、戦闘に入る予定ですが。何か動きがあれば、お知らせします」


 リリムはニッコリと笑い、片目でウインクした。テレビ前のリリムファンは、録画して何回も再生を繰り返すだろうと思われるシーンだ。


 中継が終わるとリリムは途端に不機嫌な顔になった。


(こんな危険な仕事をどうしてリリムが引き受けなきゃならないの!)


(この世界の人間はバカばっかり? どうして、最大の危機を娯楽にしてしまうの?)


 心の中で黒リリムが罵倒している。


 正直なところ、リリムはこんな仕事はしたくなかった。ドラゴン討伐に同行? しかも最前線?

(ふざけんな!)

 である。


 だが、パンティオン・ジャッジの関係者として拘束された身としては、引き受けなければ牢獄にぶち込まれるとあって引き受けるしか選択肢はなかった。


(こうなることが分かっていたら、あのエヴェリーンの誘いに乗ればよかった)


 リリムはちょっとだけ後悔した。エヴェリーンの艦隊に加わってもドラゴンと戦うことには変わらなかったが、こんな貧弱な駆逐艦に乗って取材をさせられるよりはよほど生き残る確率は高かったであろう。捕まらなくて街にいても、先日のベニングセンの街のようになれば、死ぬ確率は高いのだ。


「艦長! もっと下がりなさい! こんな貧弱な駆逐艦では、巻き込まれたら一撃です。艦隊の一番後ろ、高度も下げてドラゴンのブレスの射線上には入らないようにしなさいよ」


「しかし、リリムちゃん、それじゃあ、いい絵が取れないよ」


 そうディレクターが言うが、リリムは睨みつけた。あまりに危機感がなさすぎる。リリムはパンティオン・ジャッジの出場者で元第4公女であった。覇者のフィンよりも魔力で上回っていた才能の持ち主だ。ドラゴンとは交戦したことはないが、その恐ろしさは公女として教育されてきたので、よくわかっていた。


「リリムさん、大丈夫ですよ。前衛艦隊といっても全軍の3分の1近い戦力です。デストリガー発射で勝負はつきますよ」


 そう駆逐艦の艦長が微笑んでリリムにそう言った。まだ20代の若者で貴族出身のボンボンだ。リリムのことをまだ小さい女の子だと勘違いしている。ちょっと前までリリムは第4魔法艦隊を率いていたアドミラルであったことを忘れているらしい。


(ちっ……。世間知らずの貴族おぼっちゃんが。Sクラスが相手でもこの駆逐艦なんか紙箱のように潰されること分かってんのか!)


 怒りを抑えて、リリムはそっと小さな声で艦長の耳元で凄んだ。


「命欲しけれりゃ、言うこと聞いとけや、このボケ!」


 リリムの乗った駆逐艦オルレアンが後方に下がるとついに、前衛艦隊がドラゴンを射程内に捉えた。全艦が主砲を発射して、ドラゴンとの戦いが始まった。戦列艦の主砲は確実にSクラスドラゴンにヒットさせ、複数当たる度にSクラスはのたうち回って落ちていく。中にはブレスや魔法を使って、数隻の船を道連れにするものもいたが700隻もの空中戦艦の半包囲攻撃の前に次々と討伐されていく。


「前衛艦隊、交戦中。我が方極めて有利!」


 副官の大尉の言葉にカイテルは、満足そうに椅子に座り直し、葉巻を取り出して火をつけた。テレビを意識しての行動である。


「カイテル閣下、戦況はどうなっているのでしょうか?」

「極めて有利です。前衛艦隊だけで勝負がついてしまいかねません。100頭以下の群れに前衛艦隊だけで700隻ですぞ。ちょっと、ドラゴンがかわいそうになってきました」


「圧勝ということでしょうか?」

「それだとテレビ的にまずいでしょう? なに、心配いりませんよ。エターナルを倒すのはこの本艦隊です。デストリガーにて仕留めてご覧にいれます」


 そう余裕を見せるカイテルだったが、次の情報に慌てた。


 S級とM級を倒した前衛艦隊にH級2匹が強烈なブレスを浴びせ、さらに魔法メテオや高熱球魔法イクゾーダスを駆使したので、戦列艦を含む50隻が一瞬で消滅したというのだ。


「何をやっている! 馬鹿者が! H級に苦戦して、どうしてエターナルが倒せようか! デストリガー及び、妖精剣ダインスレイフ、高エネルギー弾道弾を使用せよ!」


 温和に装っていたカイテルの激しい命令に、アンナ・ソフィを始め、テレビクルーは場違いなところに来てしまったのだという思いに駆られた。ここは戦場なのだ。死とは隣り合わせなのだ。


 今の中継で全世界がパニックに陥ったかもしれない。だが、前線のリリムの艦からの中継で、その強敵のH級が2頭ともデストリガーを含む攻撃の前にボロボロになって落ちていく映像が流れると、その恐怖が和らいだ。


「ど、どうやら、H級ドラゴンを討伐したようです。多少の被害はあったようですが、多国籍軍の被害は全体の5%にも満たないと思われます」


 アンナ・ソフィがそう告げた。カイテルも思わず、声を荒げたが、H級を倒したとあって、余裕の表情に戻っていた。


「全世界の皆さん。少し、被害は出たようですが、それはご愛嬌です。いよいよ、ファイナルの時が来ました。今から3千隻でエターナルドラゴンを包囲します。エターナルは全長1キロにも及ぶどでかい生物ですが、全方向からの必殺の攻撃の前に耐えられるわけがありません。計算によるとエターナルを倒すことができるだろう攻撃力の実に100倍を超える攻撃を今から加えます」


「100倍ですか? それはスゴイ!」


 アンナ・ソフィが強調する。


「まもなく、人類の新しい歴史が始まります。ドラゴンに怯えなくてよい時代の到来です」


 カイテルは指揮官席から立ち上がり、演技がかったように前方を指差した。超巨大なドラゴンが遊弋している。たった一頭。それは浮遊島といってもよいくらいの巨体だった。


それを多国籍軍は完全包囲している。

デストリガー、妖精剣、高エネルギー弾頭弾

どれも一発でドラゴンをM級までなら倒せる攻撃だ。これが1000発。これに巡洋艦、駆逐艦クラスの全ての魔法弾、ミサイルを繰り出す同時攻撃だ。これで倒せないはずがない。


(勝利は100%間違いなし!)

「閣下、発射準備整いました!」


「よし!」


 カイテルはカメラに向かって目線を合わせた。

「撃て!」


 すさまじい光が巨大な光球となってドラゴンを包んだ。


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